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ファイブオクロック

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 二人の刑事の活躍は、著者のこれまでの小説を愛読していただいている方にも分かっていただけるかも知れないが、初めて小生の作品に目を通された方には、当然のごとく、初見参の登場人物ということになるだろう。
 もっとも、基本的に小生のミステリー作品は、一話完結の、他の作品とは基本的に関連していない話ばかりなので、同じ刑事の名前が出てきても、別人という認識でもいいと思っている。
 だが、別のお話ではあるが、キャラクターの設定的には同じにしてあるので、性格的な面で同一人物と思っていただいて結構である。小説の中では、同じ人間が存在しても、別の作品として、別次元の扱いとなるで、ありなのではないだろうか。
 辰巳刑事と清水刑事のコンビは、名コンビと言ってもいいだろう。お互いにお互いのいいところを引き出し、見えてくるものをうまく利用するやり方であったり、その性格を事件に当て嵌めて推理したりと、二人は本当に名コンビであった。
 今日も清水刑事も出馬してきていて、鑑識管と一緒に、死体発見現場の確認を行っていた。
 辰巳刑事と増田警官は、最初に清水刑事と一緒に死体発見現場を見ていた。ここで「犯行現場」という言葉を使わずに、「死体発見現場」ということを言っておいたのを、読者諸君は覚えているといいかも知れない。
 現場を最初に見ていたのは、事情聴取を行うには、何と言っても、死体発見現場の状況を無視して話ができるはずもなく、そのために前もって現場を見ておくのは大切なことだった。
 殺されたのは女性のようだった。死体に触らなくとも死因は分かる気がした。首にタオルか何か少し太めの紐状のもので絞殺された可能性が強かった。胸や身体のどこにも傷はついておらず、血も一滴の流れてはいなかった。
 比較的綺麗な死体だったのは、不謹慎な言い方になってしまうのだが、子供が見る死体としては最悪な状態でなかっただけに、不幸中の幸いの状態だったと言えるのではないだろうか。
 だが、実際には三郎少年は、暗闇の中で足が縺れて躓いた瞬間、気が付けば目の前にあったのが断末魔の表情だったという最悪なケースだったことを辰巳刑事も増田警官も知らない。そんな死体を見たのだから、三郎少年は目をつぶるのが、今は一番怖いと思っていた。
 なぜなら、目をつぶると、あの断末魔の表情が瞼の裏によみがえってくるようで、恐ろしかったのだ。
 それでも気丈に振る舞っている三郎少年を、増田警官と辰巳刑事はどのような目で見ていたのだろう。
 辰巳刑事は、子供の頃、そうあれは小学校五年生の頃だったので、三郎少年と同じくらいの年齢だった。その頃の辰巳刑事は今の熱血漢の片鱗はどこにもなく。なるべくまわりに目立たないようにしながら、そのくせ、端の方にはいかないようにしていた。
 例えば集合写真などを見る時、目立たないようにしようと思って端のほうに行くのは実は逆効果。それは最初に中心の人が気になったとしても、次に目が行くのは端の方というのは相場が決まっていると思っているからだ。
 それを思うと、辰巳刑事は、中心からちょっと離れた、
「その他大勢」
 という、中途半端に身を隠すようになっていた。
 そこにいれば、
「路傍の石」
 になれることを、少年ながら、本能のようなもので知っていたのである。
 誰にも気にされないことがどんなものなのか、辰巳刑事が知っているのは、そのあたりからだった。
「四宮三郎君と言ったね? 君はあの死体が誰なのか知っているのかい?」
 と訊かれて、
「いいえ、死体を見たと言っても、僕は懐中電灯など持っていませんでしたし、何しろ時間的にはすでに真っ暗でしたから、ほとんど何も見えなかったんです。逆に暗すぎて、
あそこで躓いてしあったんです。だからちょうど躓いた時、目の前にあの怖い顔があったのです。手が偶然あの人の青に触れてしまったことで、その時、顔が冷たく、そして硬いのは分かりました。人は死んだら、冷たくなって硬くなるっていうことは知っていましたし、目が開いていて、瞬きをしていないことも分かったので、もう死んでいることが分かりました。それで警察に連絡したんです」
 とハッキリとした口調で言った。
 辰巳刑事はこの三郎という少年が、子供にしてはハッキリとした口調で話ができると思った。
 三郎にとっては、当たり前のことだと思っていたが、やはり、普段から佐久間先生といろいろ話をしていることで、無意識に大人との会話に慣れていたのだろう。辰巳刑事に相手を子供だと思わせないほどの親近感を抱かせたのは、作目先生のおかげなのかも知れない。
「なるほど、じゃあ、その時に顔は見ていなかったというわけですね?」
「ええ、まったく見ていないわけではないんですが、見た顔と言っても、怖い顔になっていたし、あの薄暗さだったら、もし知っている人であったとしても、分からないと思います」
 と、三郎少年は答えた。
「じゃあ、三郎君は、どうして今日、あの場所に行ったのかな? 薄暗くて気持ち悪いあんなところに、普通なら入りたがらないと思うんだけど?」
 と聞いてきた。
 これが一番聞かれたくないことであったが、さすがに相手は刑事、聴いてこないわけはなかった。
 最初は、必要以上なことを言わない方がいいかなとも思ったが、ここで下手に隠すと、後にロクなことがないと思った三郎は正直に話すことにした。
「最近、このあたりで、夕方になると現れるという人の話題があるんですけど、僕はその人を探ってみたくなったんです。正体を知りたいと思ったというか、それで少し後をつけてみようと考えたんです。その日は運よくその人を見つけることができて追いかけてみたのですが、ちょうど、あの祠の前で見えなくなったので、そのウラを見ると、何か急に光が見えた気がしたので、その方に行ってみたんです。すると洞穴のようなものがあるじゃないですか、それで怖いとは思ったんですけど、ここまで来て引き下がれないという思いも強かったので、思い切って入ってみたんです。すると、そこにあの死体があったというわけです」
 と三郎少年がいうと、
「人の痕をつけるというのは、本当はいけないことなんだけど、まあ、それはおいておいて、その人を追いかけているうちに、ここに入ってきたというわけだね?」
「ええ、そうです」
 と三郎は毅然と答えた。
 刑事の様子を見ていると、どうも信用してくれていない気がした。最初は、その人を追いかけていたということに引っかかっているのかと思った。子供には、個人情報などという言葉はその頃詳しくは知らなかったし、それ以上に何をそんなに疑問に感じていたのかを計り知ることができなかったことで、
――やっぱり、刑事は人を疑うことが商売なんだ――
 と思ったほどだった。
 だが、それは違っていたことをすぐに知ることになった。確かに刑事は、
「人を疑ってなんぼ」
 だということに違いはないのだろうが、刑事が気になっていたのは、漠然と三郎少年を疑ったわけではなかったのだ。
「今、君はその人が祠の前で見えなくなったと言ったね?」
――えっ? そこなの?
 と意外な着眼点にビックリしたが、
「ええ、言いましたけど」
 と答えると、刑事は急に訝しい表情になり、
作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次