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ファイブオクロック

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 だが、やはり小学生、何をどうしていいのか、ここからが分からない。いや、この状態を発見したのであれば、大人でもどうしていいか分からないだろう。特に、冒険心に誘われて自分から飛び込んだだけに、そこに死体があったからと言って、何を驚くというのかとまで考えると、冒険心を持ってしまったことを後悔するしかなかった。
 だが、不思議なことに、下手な大人よりも、子供はそこまでパニックにならないようだ。大人であれば、この場面を見た時、
「まずは警察に連絡しなければいけない」
 と思うだろう。
 するとそこで次に思うのは、
「このままでは自分が疑われる」
 という思いである。
 もちろん、自分が犯人でもなければ、余計なことをしない方がいいに決まっている。下手なことをして、変に警察に疑われてしまうのは、本末転倒だからである。それを思うと、ただ警察に通報することになるのだろうが、なぜ死体を発見したのかなどの、前後の事情を説明しなければならない。
 説明できない場合もあるだろう。そういう場合はどうすればいいのか、それを考えてしまうと、何もできなくなる。しかし、死体を発見しておきながら、通報しないというのは、通報義務ということよりも、もし近くに防犯カメラがあったり、誰かに影から見られていたりすれば、それだけで一気に重要容疑者にされてしまう。
「俺には動機がない」
 と言っても、警察は、
「何かのトラブルが発生し、言い争いになったことで、衝動的に殺したのではないか」
 と言われるだろう。
 もし、そうなってしまうと、少なくとも死体を遺棄したまま逃げたことになり、死体遺棄の罪は免れない。
 それどころか、殺人犯人の最重要容疑者になってしまい、ちょっとしたものが近くに落ちていただけで、
「これが証拠だ」
 と言わんばかりに、警察は息巻いて、こちらを立件することだろう。
 冤罪であっても、他に犯人が現れなければ、自分が罪に問われることは可能性大である。それを思うと、恐ろしさに背筋も凍るというものだ。
 さすがに瞬時にしてそこまで考える人はいないだろうが、大人になればなるほど、それらに近い形での考えを頭に浮かべることになるだろう。
 三郎はそこまで思うわけもなかったが、子供ながらに、自分の立場がヤバいということに気づいていた。
 他の小学四年生では、そこまでの発想はないに違いない。それを思うと、死体を発見したのが三郎でよかったのかどうなのか、難しいところではないだろうか。
 さっそく表に出て、そこからスマホで警察に連絡を入れた。
 小学生であったが、防犯の意味で持たされていたスマホが、まさかこんな形で役に立つなど思ってもみなかった。
 一一〇番に連絡を入れたが、相手が思ったよりも事務的だったことで、却って三郎の方が落ち着けた。
 相手の交換師は完全にマニュアル通りに質問し、相手が慌てているようであれば、宥めるように言われているのだろう。まったく感情が籠っていないような言い方に、一瞬、ムカッと来た三郎だったが、相手は毎日のように犯罪を受け付けているのだから、落ち着いての対応も当然のことである。
 とりあえず自分が見たことだけを通報した。刑事に聞かれたわけではないので、詳しい質問はされなかったが、
「申し訳ございませんが、近くの交番から警官と、本部から捜査員が出向きますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか?」
 と言われた。
 さすがに怖かったので、死体と一緒にいることはなかったが、表で待つことにした。さっきまで感じなかった寒さも手伝ってか、身体が冷えてきたようで、震えが停まらなかった。
 もちろん、発見した死体に対しての恐怖心からの震えもあるのだろうが、気持ち的にはそこまで震えているわけではない。
 そこに死体があるのは分かっていて、真っ暗な状態で、断末魔の表情を見てしまいはしたが、どんな状態で死んでいるのかまでは見ていない。そこが、少年の冒険心も手伝ってか、恐怖を必要以上に煽ることはなかったのだ。
 祠の前まで出てくると、かすかに残っていた西日の影響もすっかり消え果ていて、街灯は明るさをその力をいかんなく発揮するかのように、強い光でまわりを照らしていたが、さすがに昼間の太陽のようにはいかず、しょせんは蛍光灯の明かりでしかなかったのだった。
 その場所は小高い丘のてっぺんに位置しているので、そこから見下ろす夜景は綺麗だった。
――そんなことを考えられるほど、自分は落ち着いているんだろうか?
 と感じたが、落ち着いているというよりも、なるばく明るい光を求めなければ、先ほど見た光景が暗闇だっただけに、暗闇に落ち込めば、またあの恐怖がよみがえってこないとは限らない。
 今度はまわりが完全に真っ暗なだけに、思い出してしまうと、さらに恐怖を余計に煽るような気がして怖かったのだ。
 祠の前で待っていることはさっきの通報で話しているので、すぐに警察はやってくるだろう。
 その間に、家族に連絡を入れようかとも思ったが、それはやめておいた。完全にパニックになるに違いないし。パニックに陥った家族に対して何を言っていいのか分からないだけに必要以上に考えることはできないと思うのだった。
 しかも、家族がくると、刑事をそっちのけにして、自分たちの話をし始めるかも知れない。
 それとも、臆病風に吹かれた、一切何も言わないかであるが、それであれば、いてもいなくても同じである。
――どうせ心配なんかしていないんだろうな――
 と思うことで、三郎は、親を呼ぶことを躊躇ったのだった。
 どれくらいの時間が経ったのだろうか。思ったよりも時間が経っていたように思ったが、近くの交番から警官がやってきた。警官の姿を見たとたん、通報したのが、つい今しがただったような気がしたのだった。
「君かい? 通報してくれたのは?」
 と警官が優しく声をかけてくれたが、この場所には自分しかいないので、当たり前のことを聞いてくると思い、思わず苦笑しそうになった三郎だった。
 しかし、すぐにこれが殺人事件であることを考えると、顔を緩めるのは不謹慎だと思い、すぐに真面目な顔に戻した。
「はい、僕です」
「死体はどこにあるのかな?」
 と言われ、洞窟の中に案内した。
 警官は、懐中電灯で洞窟の中を照らした。さっきまで真っ暗な状態だったので、洞窟の中の様子が初めて明らかになり、第一発見者でありながら、中を見たのは警官と一緒だと思うと、不思議な気がした。
 中は、想像していたよりも狭い気がした。先生から防空壕には何人も家族が入ると聞いていたので、リビングくらいの広さ、少なくとも四畳半ほどの広さはあるように感じていたが、自分たちの手製による防空壕なので、必要以上のものを作る必要はないのだろう。だから実際に想像していたよりも小さいものだった。
 しかも、。懐中電灯の明かりというのが、さらに狭さを感じさせるような気がする。昔の裸電球との違いが、きっと狭く感じさせるのではないかと思わせた。
 懐中電灯の明かりに照らされた死体は、思ったよりも小さかった。やはり女の人だと感じたのは間違いない。しかし、今見てもその断末魔の表情の恐ろしさは見ただけでは、男女の別を判断することは瞬時には難しかった。
作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次