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二人一役復讐奇譚

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 実は秋田は最初からあやめを気にしていたわけではなかった。最初はただ、この売り場に商品を見に来ただけだったのだが、それから日を開けずに、また秋田が訪れていた。そのことをあやめは気付いていなかったので、あやめが秋田の視線を感じた時、
「初めてのお客さんだ」
 と思っていたのだが、それは間違いだったのだ。
 しかし、初めての客が自分のことをじっと見てくれていると感じた時、あやめは恥ずかしさとドキドキした気持ちを二つ持つことになっていたのだ。
 ただ、秋田があやめを意識してじっと見ていた理由は、あやめが気になったということとは別に、もう一つ理由があった。そのことを秋田は一度も触れることはなかったので、あやめも失踪してしまった秋田だから、そのことを知るすべがなくなってしまったと言えるのだろうが、近い将来には知る子tになる。
 秋田という男は、本来そんなに女を凝視するタイプではない。それなのに、自分側の理由で凝視したことで、あやめの中に今までこみあげてくることのなかった男性に対しての淡い思いが募ってきたことで、二人は接近することになるのだが、この接近が偶然からのものであることを、あやめも秋田も分かっていなかったのだ。
 秋田の中で、この思いが、
「二股ではない」
 と後になって考えた一つの理由になるのだが、もう一つの理由は、それとは違っているのだが、まんざら関係がないというわけでもなかった。
 秋田は、何度かあやめの職場に顔を出していた。他の販売員も当然秋田がいつもここにきているのを意識していないわけではなく、
「あの人また来ているわよ。誰か私たちの中に、気になる人でもいるんじゃない?」
 とウワサをしていた。
 ウワサをしている連中は、まさか相手があやめだと思っているわけはなかった。あんなに目立たない引っ込み思案で、販売員としてはお世辞にもプロと言えるものではない彼女を、どこの男性が気にするものかと思っているからだった
 だが、あやめだけは、その視線を一身に浴びているということを分かってるだけに、逆に彼との関係をずっとまわりに秘密にすることができたのだ。
「まさか、あの子と、あんな清潔感のある男性が付き合うなんて、想像もできない」
 というくらいまで思っていたはずだからである。
 あやめにとって、気になる男性を独り占めしたような気分になっていたのだが、それは今までに感じたことのない快楽だった。
 そう、あやめには、どこか自分を女王様のようにまわりから一目置かれるような存在に憧れているところがあったのだ。
 あやめと秋田は、本当に密かに付き合っていた。それは秋田が望んだからである。秋田が望めば、あやめにはそれに抗うことはない。下手に意見を言って、秋田に嫌われることを恐れたのだ。
 秋田は最初から、あやめが控えめで、自分のいうことなら何でも聞く女性だということを分かっていた。彼女の中に女王様的なイメージがあるとは思ってもいなかったが、それは彼女がソープに勤めるようになってから、しばらくして分かったことであった。
 それも、自分から理解したわけではなく、客の中にマゾっぽい男性がいたことで、その男性を相手にしているうちに、自分の中のサディスティックな部分が現れてきたのだった。
 秋田が失踪して、まさか自分がソープに身を置くことになるなど、思ってもみなかったが、あやめは、簡単にその運命を受け入れていた。
 簡単に受け入れたというよりも、ソープにいくことを抗ったわけではない。そもそも、誰かに抗うということのなかった彼女は、普通であれば、この時とばかりに、今まで抗えなかった自分の性格を爆発させるがごとくで猛烈な反発を起こす者であろうが、彼女にはそれがなかった。
 実際に、彼女をソープへの身売りを受け持った男としても、何とも言えない気持ちにさせたくらいだ。
「罪悪感なんて、とっくの昔に捨てていたさ。そうでもしないと、こんなことやってられないからな」
 と言っていたはずの男が、あやめの時に関しては、何か嫌な気分を抱いていた。
「これじゃあ、本当に俺だけが悪者みたいじゃないか」
 という思いにさせたのだ。
 その男は、恭子のことを知らない。恭子をソープに身売りさせたのは、別の男だった。
 秋田が借金をする時、別口とはいえ、似た時期に借金をするのだから、当然、別の金融会社からであった。もちろん、金融会社の間で、ぼラックリストなどは情報交換されていただろうが、金額的にはブラックリストにのるほどではない秋田だったので、二口の借金ができるギリギリの額を、それぞれに借りていたのだ。
 そういう意味で、一人で抱え込んだ借金ではないので、二人に掛かった返済額も、ソープで働いていれば、そこまで長く働かなくとも返せる金額であった。
 二人とも、最初は借金を完済すれば、ソープを辞めて、もう一度やりなおそうと思っていたのは間違いない。
 だが、みゆきは、ナンバーワンになったことで、自分の天職を見つけたこともあって、辞めようとは思うはずもなかった。
 しかし、あやめの方は、借金を完済することで、ソープを辞め、そのまま田舎に帰ったようだった。
 あやめも、本当はソープの仕事が好きで、途中から、
「ずっとこのまま、このお仕事を続けていってもいい」
 と思うようになり、借金がどんどん少なくなっていくことへの喜びと、お店で男性に尽くす喜びで、それまでに感じたことのない幸福感と毎日の充実感を覚えていたのだった。
 あやめは、自分の性格をずっと分かっていなかったが、お仕事を続けていくうちに気づくようになった。
――私には、もう一人私がいて、お互いにどちらかが表、どちらかがウラ、という風に、無意識に感じることのできる性格なんだ――
 と感じていたが、そのうちに違っていることに気が付いた。
 それは、もう一人の自分も一緒に表に出ていて、決して裏にまわることはないという思いだった。表に出ているもう一人の自分を意識できるようになると、お客さんに対しての態度も変わっていって、そのあたりからだろうか、それまでソープでもパッとしなかったあやめの人気が出てきて、すぐに指名ナンバーワンになっていたのだ。
 それはリピーターの多さが功を奏したわけで、指名を受けるうえで、一番光栄な気持ちにさせられた。
 彼女は、相手の男性に合わせるようなことはあまりしない。途中までは相手に何とか合わせるように努力していたのだが、もう一人の自分の存在を知ってから、相手に合わせるというよりも、自分という女の本質を知ってもらおうという意識で接していると、不思議と人気が出てきたのだ。
「他の子では感じることのできない思いを、あやめさんに感じました」
 というアンケートが多く、似たようなアンケートを書いてくる客は他にもいるにはいたが、ここまで一人の嬢に、同じ感想が、まるで判を押したかのように書かれていることは稀であった。
 彼女のサディスティックな面は、プレイとしてのSMではなく、精神的なSMだと言ってもいいだろう。確かに気持ちは、
「お客さんに喜んでもらいたい」
 という思いが前面に出ているのだが、その反面、
「この客さんを拘束したい」
 という思いもあった。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次