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二人一役復讐奇譚

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「それは、割り切った時間を過ごした人にしか味わえないものなんじゃないかしら? 例えば好きになった人がいて、デートするとするでしょう? その時には自分からお金を出しても、別に違和感はないでしょう? それはきっとあなたが、男が出すのが当たり前と思っていて、それこそ付き合っている人とのデートだという思いがあるならなんですよ。だから、気になる女性がいて、その人に告白する。そして相手も了解してくれればデートくらいにはいくでしょう? それが普通の恋愛ですよね? 思春期になるまではそんなことを嬉しいとも何とも思わなかったのに、思春期のある時からそれを感じるようになる。恋愛というもののフォーマットが頭に刻まれているんでしょうね。当然、ドラマや映画、それに小説やマンガでも、恋愛に対しての知識は詰め込まれる。でも、基本的には皆同じ経路を通るわけですよね。それが円満に終わっても、失恋で終わっても、その経路は決まっている。こうでないといけないというようなね。その思いがあるから、それとは違った欲情が先にくるような行為には抵抗があるんですよ。一緒の免疫のようなものがないから、そして風俗でお金を出して女性を買うということが悪いことのように思いこまされているから、そんなやり切れない気持ちになるんじゃないかしら? 私はそんな風に思うんだけど、違うかしら?」
 と、みゆきは話した。
「ああ、そうかも知れないな。思い込みというのがあったのは分かる気がする。でも男に限らずなのかも知れないんだけど、欲望を一度吐き出してしまうと、その後に残るのは虚脱感であったり、憔悴感しかないんだよ。きっとその生理的な感覚がたまらないいたたまれなさを感じさせるんじゃないかなって思うんだ」
 と、その客は言った。
「そういう意味でも、恋愛と欲望とはまったく違うものだって考えてしまうのかも知れないわね。でもそうしてしまうと、性風俗を商売にしているような人たちは、そんな人間の感情を巧みについてくる。騙すわけではないんだろうけど、性風俗という業界が場合によっては、「社会の敵」とでも思われるような場合に、逆に儲かる時があるようなのよ。社会操作とまではいかないけど、人間の心理や生理現象を商売にしていると、気持ちの反対部分に意外とその人の本心が隠されていることもあるので、そこを狙っている商売もあるということを覚えておくといいわよ」
 と、みゆきは語った。
「僕には難しいことは分からないけど、今ここでこうやってみゆきさんと一緒にいることは間違いのない真実なんだから、帰りにたまらない気持ちになることはないと思うんだ。それはあくまでももっと若い頃のことであって、今のように三十歳も後半になると、少し考えも変わってくるというものだね」
 と、客は言った。
 いつも来てくれる彼は、みゆきがこの店に入るようになってからは、結構な頻度で来てくれているようだ。
 ある時、
「いつも来てくれるのは嬉しいんだけど、他の女の子にも相手をしてもらってもいいじゃないの?」
 と訊いたことがあった。
 彼がいうには、
「今までに何人かに相手してもらったことだってあるんだよ。でも、今の僕はみゆきさんがいいんだ」
 と言ってくれた。
 その後彼が言うには、
「せっかく二人きりでいるのに、他の女の子の話題を出すのっていけないことのように思っていたけど、みゆきさんは、そのあたりを気にしないんだね?」
 と言われた。
「あら、そう? 私はあまり気にならないわ。逆にいろいろと訊けるのは面白いかも知れないわね。でもね、あなたの言っている、他の女の子のことを話題にしないようにするというのは、少し意味が違っていると思うの。どういうことかというとね、問題は話をする人と訊く人の心構えだと思うの。こういうお部屋で二人きりになると、お互いに恋人気分になる人だっていると思うの。それで恋人相手だと思って、普段なら絶対に話さないようなプライベイトな話をしてしまわないとも限らないでしょう? その時に話をする人がどういうつもりで話してくれたのかを見極めていないと、本当に他の人に話してはいけないことであっても、やはりこういう場所という意識から錯覚を起こして、相手が話してくれたんだからという思いも手伝ってか、自分も他の人に広めてしまう。そして、今度はそれを聞いた人も、広めていい話だと勘違いして、また広げてしまう。そうなってくると、収拾がつかなくなって、結局尾ひれのついた何の根拠もないデマが、独り歩きしてしまうことになるのよね」
 とみゆきがいうと、
「うんうん、その通り。そういう意味ではこの場所って、解放的になれそうで、気を付けなければいけない場所でもあるんだよね」
 と、彼も言った。
 客とすれば、普段一緒にいられない女の子と一緒にいられることを喜びとして、お金で繋がっているという意識があるせいか、異様な雰囲気を感じることだろう。
 だが、お金で繋がっていると思うことが、却ってこの雰囲気の異様さを現実に引き戻すことができる感覚なのであろう。
 そういう意味では、若かりし頃、風俗に行くことに罪悪感を感じたという感覚は、子供のようであり、一度は通らねばならない関門のように見えるのだ。
 みゆきと、恭子が同一人物であるということは、なかなか見分けられる人は少ないだろう。店のスタッフですら、街中で恭子を見て、それがみゆきだと分かる人は少ないような気がした。
「世の中は広いようで狭い」
 と言われるが、毎回、お店の出勤が被っている人がいるのに、一度も会ったことがない。店舗系ではないデリバリー系の風俗であれば、待機する場所が、会社の事務所の一室にあったりするので、女の子たちが顔を合わせることも少なくないだろう。
 店舗系の店よりも、デリバリー系の店の方が、顔出しが多いような気がするのだが、気のせいであろうか、顔も分かっているので、顔見知りになることも多いだろうが、店舗系の店だと、その日の勤務時間は、その部屋はその子のものである、つまり、待合室など最初からなくてもよく、待合室を使うのは、むしろ客の方である。
 客の中には待合室で待たされるのも一つの快感のように思っている人もいる。まるでマゾのようだが、待っている時間がドキドキするという気持ちも、女の子たちには分かっている。
 店によっては、客が少ない時間帯であれば、女の子が待合室迄迎えに来てくれるというサプライズもあったりした。基本的には、部屋の前で女の子が待っているか、階段の途中に女の子がいるなどという程度のパフォーマンスにすぎないが、多いのだろうが、この店は高級店という触れ込みにおごれることなく、客を楽しませようとするところは、実によくできている店であると、感心させられるところであった。
 みゆきは、店舗系に所属しているので、今までに何度か待合室に迎えに行ったことがあった。
 この常連客に対しては、、毎回待合室でお出迎えをしている。
 彼の来店時間が、いつも客の少ない時間帯だからであって、どうやら、仕事が不規則なシフトの中に組み込まれているということであった。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次