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二人一役復讐奇譚

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 というベタな答えをいつも言っているが、まんざら営業トークというわけではない
 心底そう思っていた。だからこそ、借金が返せても、続けていくことを自らで望んだのだし、もっともっと、男性を知りたいと思うようになっていたのだ。
 彼女にとっての半年前と今とでは、まったく世界というものの見方が変わっていた。ただ、見えていたものに違いはないはずで、気が付くか気が付かないかの違いだけである。みゆきが復讐を考えるようになったのは、借金を完済した痕であったが、それも、後から思えば、最初の計画通りだったように思えてならなかった。
 みゆきは、焦ることはしない。だから人に彼女の考えていることが分かるということは絶対になかった。それでも、
「みゆきは、分かりやすい性格だ」
 と言われるのは、心底嬉しい毎日を送っているからであって、彼女の本心を知る者は、この世のどこにもいないだろうと思われた。
 そんな思いを隠して日々客にサービスを施しているみゆきだったが、彼女の中で、好きになるような男性があらわ得ないかどうかという危惧は当然あった。元々尽くしたいタイプなので、好きな人が現れれば、どうなるか分からないと思ってもいた。そういう意味で、頭の中で復習の二文字が残っているのは、好都合なのだ。
 復讐したいという思いがあるからこそ、好きになりそうな人が現れても、その人に本気になることはないだろうという思いがあった。逆に、
「そんな人を利用できないか?」
 とまで考えている自分がいて、さすがにそこまで考えていると、自分が怖くなってくるのであった。
 そこまで考えていくと、
「もし、本当に復讐を思い立った時に利用できそうな人間を、今のうちに物色しておくこともできないだろうか?」
 とも思えてきた。
 もちろん、復讐などというのは、絵に描いた餅であり、真剣に考えているわけではない。好きになる人が現れないようにするための予防措置だと思っていただけであって、意識の奥に閉じ込めておくだけのものであった。
 そんなことを考えていると、どんなタイプの男性が、女として扱いやすいタイプなのかということを考えるようになった。
 こんなお店にいると、いろいろな男性に合わせて、相手の好きなタイプを模索してそういう女性を演じることに長けてきたが、実際に自分が演じる女性を、男性がどのような目で見ているかというところまでは言及して見たことはなかった。一度だけの客であれば、それ以上は考えるのも難しいのかも知れないが、リピーターになってくれて、何度も顔を合わせていれば、お互いに気心も知れてくるというもの、要するにそこまで考えるか考え内科の違いだけである。
 今までのみゆきは、
「相手が何をすれば喜ぶか?」
 ということを中心に考えていた。
 プレイに関してはそれでいいのだろうが、何度も来てくれるお気に入りの客に対しては、相手がどれだけを求めていないというのも分かっている。
 もちろん、彼女にしたいなどと考えている人はそれほどいないと思っていた。他の客は分からないが、自分のところに来てくれる客は、その時の癒しをお金で買っているという意識があるようで、口には決して出さないが、だからこそ、お互いに痒いところに手が届くというものである。
 もし相手を彼女のように考えてしまえば、必ず相手に何かを求めてしまうはずである。こういうお店なのだから、求めるものは決まっているのだが、それ以外のこととなると、もっと深く相手を感じることでないと求められないものを求めてしまうというのは、ルール違反なのであろう。
 それは、みゆきも客の方も分かっているはずだ。だから、主背のお客さんと深い仲になることは難しく、
「復讐に利用できる男」
 を探すなど、土台無理なことであろう。
 何しろ、お客様というのは、確かに中には、女性にモテないので、お金で癒しを買いたいと思ってやってくる人もいる。逆にそんな人たちは、自分に少なからずのコンプレックスを持っている。お店では営業から恋人気分になってくれるが、お金が絡まない対等な立場になると、自分が圧倒的に不利だということを認識できるはずである。それが自分に対するコンプレックスであり、今まで何度そのコンプレックスのせいで損をしてきたのかを分かっていればいるほど、自らコンプレックスをほじくるようなマネはしたくないだろう。
 実際にみゆきの客の中で、そういう話をしてくれた人もいた。
「高嶺の花だからこそ、お金が出せるんですよ。モテまくっていて、女性に困らない立場であったら、ソープにはこないでしょうね。でもね、それは最初からそういう人間だったらという意味であって、僕がということではないんだよ。もし、僕が何かの変異でもあって、モテまくるようなことになっても、きっとまたこのお店に来て、みゆきさんに逢いに来るんだと思いますよ」
 と言っていた。
「どうして?」
 漠然とではあるが、何が言いたいのか分かってはいたが、聞いてみた。
「だって、僕はこのお店の、そしてみゆきさんの魅力を最初に知ってしまいましたからね。だから、自分がモテることと、このお店でお金を出してまで貰える癒しとは違うものだと思っているんですよ」
 と言っていた。
「皆が皆、そんな気持ちになるとは思えない」
 ときっと他の人は言うだろう。
 それはなぜか分かっている。その理由としては、
「自分一人が幾人もの人を相手にしている」
 と感じているからである。
 みゆきのように、相手によって、相手が好きになりそうなキャラクターになりきれる人であれば、相手はみゆきに対して、同じ立場で見ていることになる。つまりみゆきから見れば、客は皆公平なのだ。
 他の人は、自分の性格だけで見ているから、客に対して好き嫌いが生まれてくる。そんな好き嫌いが偏見になったり、贔屓目になったりしてしまうだろう。相手にもそんな気持ちは伝わるもので、一度嫌だと思った客は、たぶん二度と彼女を指名することはないだろう。一緒にいた時間の中で、きっと自分が嫌われているのが分かるからだ。
 相手をお客としてしか見ていないのは、みゆきも同じであるが、みゆきのように、
「せっかくだから、客と一緒に楽しみたい」
 というくらいの気持ちがあれば、そこに余裕が生まれ、お金を払う意義をお客も持てるのではないだろうか。
 客の中には、
「最初の頃、風俗に行くとね、帰りに店を出るでしょう? その時に何ともいえない気持ちになるんだよ。それがお金がもったいなかったという気持ちであったり、変な罪悪感であったりするものではないんだけど、まったくそうではないと言い切れないんだ。それらのやり切れない気持ちをどこに持って行っていいのか分からずに、気が付けばお金が財布からなくなっていることに違和感を覚えるだ。別に悪いことをしているわけでもないのに、どうしてなんだろうな?」
 と言っている人もいた。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次