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二人一役復讐奇譚

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 と感じた。
 真理子は恭子の言った、
「変な」
 というところを突っ込んではこなかった。
 事件のあらましを断片的に聞いているだけで、一番気になるはずのところを聞いてこないのだ。
――真理子さんのような聡明な女性がこの話題に触れないというのは、わざと触れないようにしているとしか思えない――
 と恭子は感じた。
 だから、聞いてこないならこっちから触れるしかないと思い、
「実はその男というのが、秋田の名刺を持っていたというの。それで警察は、秋田の殺人事件と重ねて捜査をすることになったようだという報道がされていたんだけど、何か話が次第に複雑になっていくような気がするのよ」
 というと、真理子はショックを受けた感じはなかった。むしろその話を訊いて。
「逆に捜査がやりやすくなったんじゃないかしら? もちろん、最初の道を間違えなければお話なんですけどね」
 と真理子はおかしな言い回しをした。
――それにしても、この落ち着きは何なんだ?
 と恭子は感じた。
 真理子という女性が、前にサトシから聞いたイメージとも少し違っているように思えたので、
――この人、本当にあの時サトシさんが言っていた、例のソープ嬢なのかしら?
 と感じた。
 ソープ嬢だったのは間違いないだろう。ソープ嬢にしか分からない雰囲気を彼女は醸し出している。そういう意味では、疑いようのないことではあったのだが、だからと言って、全面的に信じられるわけではなかった。
「サトシさんは、どのあたりまでの記憶があるのかしら?」
 と、恭子は訊いてみた。
 本当は、ほとんど記憶がないということは見ていれば分かる。少しでも記憶があれば、みゆきの登場にビックリするはずだからである。恭子はサトシの反応というよりも、真理子の反応を見たかったのだ。
 さっきから真理子はサトシの記憶喪失に触れないようにしているように思えたからだ。それは、サトシに気を遣って言わないのか、それとも、他に何か意味があるのかを知りたくて、もし、前者であれば悪いことをしたと思いながらも確認しないわけにはいかなかったのだ。
「自分の名前とかはなんとなく憶えているようなんですが、仕事や家族。それに友達のことなど、自分に関わっている人への記憶はまったく欠落しているようなの」
「じゃあ、普段の習慣だったり、行動に関してはまったく支障がないと言ってもいいのかしら?」
「そういうことになるわね。私はサトシさんが記憶を失いながらも、私のところに来てくれたのを運命だと思っているの。前が前だっただけに、幸せになることを諦めていた私に、サトシさんは希望を与えてくれた。そういう意味では、私にとって、ライバルがいるとすれば、あなただと思っているのよ。だから、あなたがあなたがここに来たのを見た時はビックリしたけど、覚悟もしていた。いずれいつかは、必ず対面することになるとは思っていましたからね」
 と、完全に彼女は精神的に臨戦態勢に入っているようだった。
「私がここに来たのは、あなたに遭ってみたくて来てみたのよ。。最初に言ったことに変わりはないんだけど、それは、サトシさんが勧めたからなの。君によく似た境遇で、実際によく似た人がいるので、会わせてみたいって言っていたのを思い出したので、私も会ってみたいって思ったの。でも、サトシさんが来てくれるまでには、まだ少し時間があるようだったし、旅行も兼ねてという気軽な気持ちもあって、ここまで来てみたのよ」
 と答えた。
「でも、驚いた。サトシさんがよく似ていると言っていたけど、ここまで似ているとは思ってもみなかったわ。そういえばなんだけどね。私は最初から分かっていたような気がするのよ。あなたの存在をね」
「どういうことなの?」
「あれは、秋田さんと知り合う前で、初めて秋田さんと顔を合わせた時だったわ。あの人、私の顔を見て、まるでこの世のものではないものを見たような驚愕の表情をしたのを、それこそお化けでも見たかのようなね。初対面の相手にそんな表情、普通ならひどいでしょう? でも私はそこまでは感じなかった。でもその印象が深かったので、その後初めて会話をした時、前から知っていたかのような錯覚に襲われたというわけね。それにね、サトシさんが常連になってくれた頃、ある時、急に変な表情をしたのよ。それは秋田さんが初めて私を見たあの表情に似ていたのね。どうしてなんだろうって思った。今から思えば、秋田さんはあなたと付き合っている時、私を見たことで、瓜二つな感覚が怖かったんでしょうね。サトシさんは、あなたを後から見て、あなたの記憶を持ったまま私に遭ったことで、やはり気持ち悪さのようなものがあったのかだと思うの。もちろん、その時にはそんな気持ち分かるはずもなかったわ。でも、今私があなたに遭って気持ちは平常心だって思えるんだけど、視線を合わせた時、明らかにおかしかったのを思い出した。きっと、あの時、私とあなたは、同じ顔をしていたんじゃないかって思うようになったのよ」
 と、真理子は言った。
「本当に似ている人っているのよね」
 と恭子がいうと、
「そう、あくまでも似ている人、私はドッペルゲンガーの存在自体を認めてはいないの。そういう話があることは理屈としては分かっているんだけど、信じられない気持ちが強いの。それは科学的にどうのということではなくて。理屈で信じられないのよ。私は理屈で自分が信用できないものは信じないタイプなので、ドッペルゲンガーも信じない。きっとあれは、信じている人が気持ちの中で作り出している幻であって、皆が皆見るわけではないでしょう? 見ているとしても、違う種類のものだと思うし、そうなると、すべては、その人個人の気持ちの問題に思えるの。だから、人を巻き込むことのないものじゃないと思うのは、少し強引なのかしらね」
 と、真理子は言った。
 どちらかというと理屈っぽいところがあるところがある恭子であったが、目の前の真理子に圧倒されているかのようだ。
「私は信じている方が強いかな? 同じ人が同じ時間に同じ次元に存在していると思うのは怖いことだけど、世の中の現実には、もっと恐ろしいものがあると思うと、少々の都市伝説は信じられるんじゃないかって思うくらいなのよ」
 と、恭子はいう。
「そういえば、サトシさんが、時々うわごとのようなことを言っているのよ」
 と真理子はいったが、
「うわごとって、どんなこと?」
「最近、記憶を失ってから、毎日少しずつ睡眠時間が増えているように思えるんだけど、毎回何かの夢を見ているのね、その時誰かの名前を言っているのよ」
 と真理子はいう。
「誰の名前なのかしら?」
「男の人の名前で、和夫って聞こえるのよね」
 と真理子が言ったが、恭子がそれを聞いて、
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次