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二人一役復讐奇譚

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――サトシが驚くのは無理もない。本人同士であれば、相手の顔しか見えていないので、それほどでもないのだろうが、サトシには二人の顔を凝視できている。目の前の女性が知り合いだとすると、サトシは二人とも知っているということであり、似ているという感覚はあっただろうが、実際に並べてみたことはなかったので、想像の域を出なかったのだろうが、こうやって見比べると、さすがに固まってしまうというのも、無理もないことであろう――
 と恭子は考えた。
「あなたは一体、どなたなんですか?」
 と言って恭子は話しかけたが、それには答えず、
「あなたが、みゆきさん?」
 と逆に質問してきた。
 普段なら無礼に思えるのだが、今の彼女の質問は、恭子の質問の半分はその回答でもあった。
「ええ、そうです」
「私は殿村真理子と言います。ソープ『アマンド』というお店で、あやめと名乗っていたと言えば、お分かりいただけますよね?」
 それを聞いて、恭子はビックリはしなかった。
 それよりもいきなりのこの偶然に驚かされたのと、目の前にいるサトシの存在にビックリさせられた。
 恭子はサトシの方を振り返り、
「サトシさん?」
 と優しく問いかけてみたが、それに対しての返事がなかった、
 返事がないどころか感情が感じられない。どうしたことだというのだろう?
 すると、悲しそうな顔になった真理子がひところ呟くように言った。
「彼、記憶喪失になってしまったの」
 というではないか……。
 その場の空気は最初から、凍ってしまっていたのではないかと、思えるほどであった……。

               サトシの正体

「記憶喪失って、一体何があったというの?」
 と恭子は真理子に訊ねた。
「それがよく分からないの。誰かに殴られたようなんだけど、病院に運ばれた時、サトシさんが私の名前と住所の入った紙を持っていたことで、私に警察から連絡があったんだけど、その紙というのは、私がお店を辞めて、田舎に帰ると言った時、彼にまた会いたいと思って、彼にだけメモで教えておいたものなの。でも、警察から連絡があってビックリしたわ。私は一度田舎に帰ってきたんだけど、また近い将来東京に出ようと思っていたので、今は実家を出て、彼と二人で暮らしているの。彼が記憶を失ったのは、岡山に来てのようだから、彼の記憶を取り戻すには、まずこの土地でやってみようと思ってですね」
 と真理子は言った。
「そうだったのね。真理子さんは偉いわよ」
 と、思わず言ったが、半分は本心だった。
「みゆきさんは、どうして岡山に? 秋田さんが殺されたのを知ってからのことなんですか?」
「私の本名は、津軽恭子と言います。そっちで呼んでくれると嬉しいわ。それで今のお話なんだけど、秋田のことももちろんそうなんだけど、私はあなたに遭ってみたいと思ったの。まるで砂漠で金を探すようなものかと思ってはいたので、見つからなくも仕方がないとは思いながらも、何もしないという選択肢は私にはなくて、でも、会えるような気がしていたのは、事実かも知れないわ。でも、まさかあなたがサトシさんと一緒にいるとは思わなかった。でも、お話を訊いて、サトシさんが記憶を失っているということなら理解できる気がする。私もどうして彼が気を失っているのか、そして秋田がなぜ殺されたのか、その真相を知りたいという気持ちが強くなりました」
 と恭子がいうと、
「私はそこまで知りたいという気持ちは強くないかも知れないけど、少なくともサトシさんの記憶だけは取り戻してあげたいの」
 と真理子は言った。
「そうね。きっとサトシさんはあなたのことを好きなんでしょうね。そしてあなたも、サトシさんを好きなんでしょう? 私も同じソープ嬢として、自分の本名や連絡先をいくら田舎に帰るからと言って、簡単に渡したりはしないわよね。それだけサトシさんには全幅の信頼を持っていたということなんでしょうね?」
「恭子さんはどうなんですか? サトシさんに対して。あなたも心安く感じておられたんじゃありませんか?」
「どうしてそう思うんです?」
「サトシさんがお店に来た時、よくあなたのお話をしてくれたんです。よく似た人がいて、似たような境遇であり、共通点が多いってね。それで、一度二人を会わせたいとも言ってくれていたんですよ。それはきっと風俗嬢としてではない。普段の自分たちに戻った間柄でね」
 と真理子は言った。
 真理子にどこまで自分のことを話したのかが気になる恭子だったが、お互いに遭いたいと思っていたこと、そしてサトシが会わせたいと思っていたことで、三人の気持ちが一致したことを、恭子も真理子も満足しているようだった。
「サトシさんがあなたのところにやってきたのはいつだったんです?」
 と恭子は訊いた。
「あれは、四日くらい前ですかね? 秋田さんの死体が発見されたというニュースがまだ自分の中のショックとして残っていた時期だったから、そんなに時間は経っていなかったような気がするんです」
 と真理子は言った。
「そうだったんですね。でも、サトシさんが記憶喪失というのは、どういうことなのかしら? 普通記憶喪失というと、頭に何かショックを外的にウケた場合や、ショックな出来事を目撃したことで、精神的な面で陥る記憶喪失とがあると思うんですが、サトシさんの場合はどっちなんでしょうね」
 と恭子が訊いたが、
「それは、前者の方ですね。何者かに殴られたようで、頭に傷が残っていたらしいの。今はすっかり治って包帯もとれたんだけど、医者の話では。その殴られた時のショックでの記憶喪失に違いないということでした。私もビックリしたんですが、彼の記憶が戻らない限りは分からないことですよね。でも、最近では、彼の記憶が戻ることが本当に幸せなのかって思うこともあるんです。下手をすると、忘れていることの方が幸せなんじゃないかってね。それを思うと、私のやろうとしている記憶を取り戻すという行為に対して、ジレンマのようなものを感じてしまうんですよ」
 と、真理子は言った。
 真理子がサトシのことを好きだということは、この会話からも垣間見ることができた。
――ひょっとすると、秋田に裏切られたショックを完全に消してくれたのが、サトシだったのかも知れないわね――
 と、同じ秋田から裏切られた者同士、彼女の気持ちが痛いほど分かる気がした。
 恭子も真理子ほど強い気持ちではないものの、サトシに対しては好感以上の感情を持っていることは確かだった。
 しかし。サトシには気になっている女性がいるのは分かっていたし、それが真理子だというのであれば、恭子はそれを嫌がる理由など何もない。むしろ、
――相手は真理子だというのであれば、私は喜んで二人を祝福できる――
 と感じていた。
「そういえば、さっき変なニュースを見たんだけど」
 と、恭子は言った。
「変なニュースというのは?」
「秋田が殺されたところのほど近いホテルの一室で、一人の男性が毒を呑んだみたいで、病院に担ぎ込まれたというニュースだったの」
「それでその人はどうなったの?」
「命に別状はないけど、意識不明のようなのよ」
「自殺なのかしらね?」
 t、真理子が言ったが、それを聞いて、恭子は、
「あれ?」
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次