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二人一役復讐奇譚

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 それにしても、部屋に入る時に、カードキーがあるというのは訊いたことがあったが、実際に使ったのは初めてだった。部屋を出る時に引き抜くと、一緒にすべての電気が消えるという仕掛けにも感動した。まるでキャリアウーマンにでもなったかのような気がしてきた。
 部屋でテレビをつけたが、ちょうどニュースの時間だった。地元の名店の紹介や天気、そして地元のニュースと夕方の時間は。どの地方も同じような番組をやっているものだといまさらながらに感じた。
「明日は、朝から天気がよく、その分、放射冷却の影響で、朝は少し寒いでしょう。暖かい服装でお出かけください」
 と言っている。
「お天気の後は、コマーシャル」
 と言って地元のCMが流れていたので、ゆっくりと見ていた。さすが岡山、キビ団子や桃の名産物の宣伝をやっている。CMが終わると、今度はニュースである。
「先日、彩名市で男性の死体が発見されましたが」
 と言い出したので、すぐに、
「秋田の事件だ」
 と分かったので、注目していた。
 すると、
「今度はその近くのホテルの一室で、今度は別の男性の倒れているところが発見されました。その男性は、その前に殺された秋田省吾さん、三十二歳の名刺を持っていて、二人の関係を警察は洗っています。またその男性はホテルで薬を飲んで苦しんでいるところだったようですが、病院に運ばれ、今は意識不明の重体だということです。その薬は誰かに飲まされたのか、それとも自殺を図ったのかは分かっておらず。男性の意識が戻り次第、警察の尋問が始まるということです」
 と、リポーターが、岡山県警本部の前から中継をしていた。
 その事件を見て、恭子は少しビックリしてしまった。彼女には、この事件も秋田に南アらかのかかわりがあるような気がして仕方がないのだった。
 ただ、その男性が意識不明ということで、警察も何もできないのであれば、とりあえずは報道の通り、こちらも何もできないと考えるしかないだろう。
 恭子は、そのニュースを頭の片隅に置きながらも、今はどうすることもできないということで、気は楽であった。
 実際に岡山までやってくると、最初は自分が探している秋田の保証人になったという女性の行方を性津つもりでいたが、次第にそんな気分が薄れてきたような気がしてきた。
 偶然でも遭えればいいというくらいに考えておくだけで、それ以外はせっかく来たのだから、観光に勤しもうと思っていた。
 岡山というところは、あまり来たことがなかった。山陽地方では広島の次の大きな街なのだが、どうにもイメージが湧いてこない。
 しかし、観光ブックなどを見ると、岡山を中心に見て回れる観光地というのは、恰好たくさんあるのだ。
 倉敷や福山、尾道の山陽道に面した観光地、さらに、新見に向かう途中の伯備線沿線では、天空の城と言われる備中松山城のある、備中高梁、さらに新見の手前にある、映画のロケ地にも使われたことのあると言われる有名な鍾乳洞である「井倉洞」、さらに四国に渡る瀬戸大橋や、瀬戸内海の絶多な島々。それぞれ観光地として見て回るとすれば、十日屋そこらでは難しいくらいではないだろうか。
 考えてみれば、ここまで観光地が密集しているところも全国的に珍しいと思うのは、恭子だけであろうか。
 いろいろな観光地を見て回るのも、今までの苦労から考えれば、何もバチの当たることではない。
 しかし、心の中に何か不思議な予感めいたものがあった。その予感が、このまま普通に観光ができるようなそんな状況にはしてくれないような気がして、不思議な感覚があったのだ。
 その予感は思ったよりも的確に、しかもしっかりと当たってくれたのだが、考えてみれば、
「そんなの当たらなくてもいいのに」
 と言いたくなるのも無理はないが、目的の一つは、やはり事件の全容を掴み、モヤモヤを解消させたいという思いがあったのだ。
 その日、ホテルの夕食を予約していなかったので、表に出て食事をすることにした。幸いホテルの近くにはアーケードがあり、近くには岡山の観光名所と言える後楽園がある。
 後楽園というのは、水戸の偕楽園、金沢の兼六園と並んで、
「日本三大名園」
 と呼ばれているところで、隣には名城としても名高い岡山城が聳えている。
 その後楽園も、すでに日も暮れていて閉まっているので、明日の最初の観光地に決めていた。
 アーケードにあるレストランにふらりと入った。その店は、昔ながらのレストランという雰囲気で、東京では、あまり見られない様相のお店だった。いかにも昭和の彩を残していて、一見、喫茶店でも通用するかのような建て方に、レトロさを感じさせた。
「ガランガラン」
 鈴の音が重低音で響いた。
 こんな音はなかなか聞けるものではなく、思わず、響いた音に、その元になった鈴を見上げた。なるほど、アルプスの羊や牛たちの首にかかっている鈴の音を聞いたかのような雰囲気にさせられるのは、昭和のアニメの影響かも知れない。
 ナポリタンとコーヒーを頼んで店内を見渡してみたが、夕食の時間帯だというのに、それほど客がいるわけではなかった。数組の客がいるだけで、店内は閑散とまではいかないが、よほどのヒソヒソ話でもない限り、人に話しを訊かれてしまいそうなくらい、しーんとしていた。BGMも流れてはいたが、会話に気を遣ってか、さほど大きな音ではない。――きっと常連でもっている店なのかも知れない――
 と感じたが、まんざらウソでもなさそうだ。
 すると、奥を見ると、ひとりの男性がこちらを凝視しているのが分かった。その人の正面には女性がいて、カップルであることは一目瞭然なのに、こちらを凝視している男性のその姿に恭子は金縛りに遭ったかのようだったが、その男には見覚えがあった。
「サトシさん?」
 そう、みゆきの常連客であるサトシだったのだ。
 穴が開くほどの視線に、いずれは気付いていたはずなのだが、思ったより早く気付いたのか、恭子を見て、どうすればいいのか分からないとでも思ったのか、サトシの方も固まっている。その視線を無視することはできなかったが、彼の前に鎮座している女性がサトシの様子が変なのに気付いたのか、恭子の方を覗き込んだ。
「あれ?」
 どちらが早かったのか、お互いに相手の顔を見た瞬間に、お互いに声を挙げた。
 そこにはまるで鏡が置いてあるかのような、自分と瓜二つに見える人がいるではないか?
――鏡があったのかな?
 そんなバカなことがあるわけもない。
 なぜなら、相手も、
「あれ?」
 という言葉を同時のタイミングで発したではないか。
 明らかにハモっていたのは間違いのないことだった。
 恭子は意を決したかのように立ち上がると、彼女の前に歩み寄りながら、視線を彼女から離そうとはしなかった。見れば見るほど似ているその顔は、生き写しと言ってもよかった。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次