小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

二人一役復讐奇譚

INDEX|22ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 男との決別が終わったことで、今度は自分が何をしに岡山くんだりまでやってきたのか分からなくなった。あやめという名の女の子を探すという。ちょっと考えれば不可能に近いことを、なぜにそんなにこだわったのかと思うくらいであった。
「まあ、見つからなくても、店長の言ったように、英気を養えればそれでいいんだわ。そもそも岡山は前から来てみたかったところだから」
 と思うことにした。
 さっさと彩名市を離れた恭子は、その足で、ローカル線に乗り込み、今度は、来た方向とは反対の、岡山方面を目指して乗ってみることにした。
 時間的には姫路で乗り換えて新幹線を使うのとそれほど変わりはないが、どうせ急ぐ旅でもない。今の時間から岡山に向かっても、夕方になり、宿に入るだけでしかなくなるのだ。
 今日一日は、移動とあの男の供養のために使ったと思えば十分であろう。
 彩名市を離れると、完全なローカルであった。ここまでは複線で電化もされていたが、ここから先は単線で、ディーゼル運転であった。客もまばらで、本当に旅行に来たという気持ちにさせてくれる。
 今回の旅行を、紀行文のような形で残しておきたいと思った恭子は、カバンの中からノートを取り出して、電車に揺られながら、今までのことを書き連ねていた。
 決して文章は上手ではないと思っているが、日記に毛の生えた程度のものだと思えば、それほど苦になるものでもない。意外と書き始めると書けることもいろいろあるもので、前に秋田が、
「小説を書きたい」
 と言っていた気持ちが分かるような気がしてきた。
 しかし、今となっては彼が小説家を目指していたのかどうかも不明である。それを思うと、逆に、
「私の方が、上手かも知れないわ」
 と感じるくらいだった。
 ただ、書きたいことがあるわけではない。書かなければいけないことがあるわけでもない。思い浮かんだことを書き連ねているだけである。その思いのおかげで、実に気楽に筆が進むのであった。
 特に川を渡る時の陸橋で、下を見ると、そこには何もなく、谷底が見えるだけだった。まるで宙に浮いているように見えるそんな場面が好きだった。これはきっとローカル線に乗らないと味わえない感覚で、しかも、意識していないとこの感覚はスルーしてしまいそうな気がした。
 ゆっくりと電車は山間をすり抜けていく。昔の蒸気機関車が走っていた時代も、まったく同じ光景だったのではないかと思うと、変な気分にさせられた。
 夕方が近くなってきているにも関わらず、暗くならない雰囲気は、
――このまま夜がこないのではないか――
 と感じさせるものであった。
 田舎の路線を走っていると、山間をぬめるように走っているのが、おソロしく遅いスピードに感じられた。最初はそれを、
「どうして、こんなにゆっくりに感じるのだろう?」
 と思ったが、その理由は次第に分かってきた。
「まわりの光景が小さく感じられるからだ」
 ということであった。
 まるで鉄道模型の上を走っているような感覚に陥り、山の向こうから誰かがこちらを覗いているのではないかという錯覚すら覚えた。男の子なら鉄道模型が好きだろうから、子供の頃に一度くらいはこのような感覚を覚えたとしても無理もないことであろう。しかし、恭子は女性である。どうしてそんな風に感じたのかを考えていると、
――ひょっとすると、前世は男性だったのかも知れないな――
 と思った。
 だが、急におかしくなって、思わず吹き出してしまった。
 なぜなら、自分の前世を考えると、自分が生まれる前というと、昭和から平成に元号が変わった頃ではないか。ということはその頃少年だったとすれば、鉄道模型などが流行ったのが、昭和四十年の後半として、自分が生まれたのが、今の自分くらいの年齢ということになる。
 そうなると、早くに死んでしまったということになるのだろうか。しかもその年齢が今の自分くらいの年齢だと考えると、その感慨もひとしおだった。
 だが、よく考えてみると、この光景も初めて見たものではないような気がする。今でこそディーゼル車であるが、これが蒸気機関車であっても、何ら違和感のない感じになっているのが不思議だった。
 これも、いわゆる、
「デジャブ―」
 というのであろうか?
 昔から絵画を見るのが好きだった恭子は、このような田舎風景の油絵を見たことがあったような気がした。その油絵には蒸気機関車が描かれていたような気がしたので、違和感がなかったのである。
 油絵というと、イメージとしては秋の紅葉の季節が一番思い出された。今は季節としては冬だけど、ついこの間まで秋だったことを思うと、その時間までもが自分の自由になりそうに思えてきたのだ。
 目の前を通り過ぎる光景はいつも変わっていないような気がした。山の間の谷のようなところを抜けて、その向こうに広がった平野部を走り抜けながら、途中で川を渡る。そんな光景をずっと繰り返しているようで、まるでパノラマを見ているようではないか。
 鉄道模型を想像したのは、同じ場所をクルクルと回っているという意識があったからなのかも知れない。もし、これを偶然だと考えると、夢ではないということになるが、偶然ではないと考えると、夢かも知れないと考える。その時の恭子には、夢だとは思えなかった。
 そんなことを考えながら、時間はあっという間に過ぎてきて、いつの間にか西日は山の向こうに隠れてきているようだった。
 次第に街並みは建物が増えてきて。田舎から都会に移ってきた。そのうちに本線が近づいてきて、並行して走るようになり、到着する駅にも人の姿が増えてくるようだった。そのうちに、大きな川を渡ると、新幹線の高架が近づいてきた。岡山が近づいてきた証拠である。
 岡山だけに限らず、大阪や名古屋や静岡でも同じように新幹線が近づいてくると、都会を思わせる。毎回同じ光景のはずなのに、どこかが違って見えてくるのは、目の錯覚にすぎないのだろうか。
 岡山の街が一望できるようなった頃には完全に日が暮れていて、時間としてはまだ五時頃で、通勤ラッシュにはまだ少しあるくらいだった。
 岡山駅のホームに列車が滑り込むと、今までは新幹線の中からしか見たことのなかった岡山の街が違った街に見えてくるようだった。
 この日に泊る宿は駅前から少し入ったところにある
「岡山パークホテル」
 というところで、高くはなかったので、出張などで利用する人が多いところなのかと思う場所だった。
 チェックインしてから部屋に入ると、落ち着いた気分になった。
 今まで、ビジネスホテルはおろか、旅行も出張もなかった恭子にはすべてが新鮮だった。今日のローカル線も同じ気分であり、
「あそこはまた行ってみたくなる場所だわ」
 と感じた。
 このホテルも同じで、今までは自分が個室にいて、お客さんを迎える方だったので、何となく不思議な感覚を味わっていたが、ついついベッドのしわなどが気になってしまうのは、商売柄なのかも知れないと感じた。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次