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二人一役復讐奇譚

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 と言って、皆にそこから離れるように促した。
「足跡をなるべく残さないようにな」
 とは言ったものの、すでに死体があるなど気付かずに皆が入ってきたこともあって、すでに手遅れであったが、それでもこれ以上ややこしくはしたくなかった。
 死体は仰向けになっていて。その胸は、短刀で抉られていて、血がほとんど噴き出していないことから、ナイフが血止めの役目をしたようだ。逆に変に障って抜こうなどとしたものなら、そのあたりに真っ赤な鮮血が飛び散るに違いない。
――いや、真っ赤なんてものじゃないよな――
 工事現場などで仕事をしていると、大けがや大事故とは背中合わせの時がある。
 リーダーの人が若かりし頃、現場で落盤事故があり、多くの人が下敷きになったのを思い出していた。自分は別の場所にいたので事なきを得たが、その時は本当に恐ろしくて、しばらく仕事ができなかったくらいだ。さすがに会社もそのあたりは考慮してくれて、一週間は休みが貰えた。しかしそれ以降は後れを取り戻さなければいけないということで、かなり無理をさせられたが、中途半端な状態で仕事をするよりもマシだった。下手をすると、
「明日は我が身」
 だったからである。
 あの時の惨状は、こんなものではなかった。崩れてきたコンクリートの下敷きになって、腕や足が半分だけ見えていて、腕などは断末魔の様相で、何かを掴もうとしているその先に、べっとりの流れてくる鮮血が滴っていたのである。
「子供の頃に見たお化け屋敷のようだ」
 と、比較になるはずもない不謹慎なことを口にしたのは、そうでもしなければ、見ているだけで恐怖に押しつぶされそうだったからだ。
 さすがにあの時ほどの恐ろしさとセンセーショナルな衝動はないのだが、明らかな他殺死体を見たのは初めてだっただけに恐ろしかった。
 事故は、ある意味しょうがない。人為的な事故であっても、悪意があるわけではないので、それほどの恐怖は感じない。
 他殺による恐怖は、その人がどうして殺されなければならなかったのかという動機の面で、心理的な恐怖が募ってくるのだ。そこには恨みであったり、嫉妬であったり、何かしらの理由があるはずだ。
 物欲や、衝動的な殺人であれば、また別の意味での恐ろしさを感じさせるが、この死体はそんなものではないだろう。
 普段から誰も出入りするはずのない場所にわざわざ入り込んで、そして殺されるのである。
 ナイフで刺されているのだから、衝動的な殺人ということもないだろう。被害者が自分で凶器を持っていたのか、それとも、偶然落ちていたとしか考えられないが。そんなこともありえない。
 そもそも、相手を殺すようなトラブルがあったからこそ、この男が殺されたのだ。逆にそうでなければ、無差別な猟奇殺人などということになると、殺人魔として世間を大いに騒がせることになるに違いない。
 どう見ても、そんな雰囲気ではない。ただ、男は胸を真正面から刺されて死んでいるにしては、その表情がそれほど恐ろしいものには思えない。
「ひょっとすると、この人は自分が死んだということを知らずに死んでしまったのかも知れないな」
 と、呟くと、隣の係員の人も、
「そうかも知れませんね。きっとあっという間のことだったのか、まさか、目の前にいる人から自分が殺されるなどということはないと思っていたからなにか、とにかく油断があったとしか思えない死に方ですよね」
 と言っている。
 そうこうしているうちに、警察がドタドタと入ってきた。表ではパトカーの音が鳴り響き、その音を聞いただけで、思わず我に返るだけの音響であることは間違いなかった。
「私は、岡山県警の佐久間といいます。皆さんがこの死体の発見者の方ですか?」
「ええ」
 と、リーダーが代表して答えた。
「この被害者に見覚えは?」
 と言われて、リーダーは皆に死体の顔を検分させた。
 皆は一様に首を振り、
「誰も知らないということですね」
 というと、kの現場は見ていると、まだこれから工事が本格化する前の放置されていた場所ということでしょうか?」
「ええ、察しがいいですね」
「いやいや、これだけ埃っぽいと分かりますよ。ということは、普段はここに立ち入る人はあまりいない。そういう意味では殺人にはもってこいの場所ともいえますね」
「ええ、我々は三日に一度くらいここに立ち入って、異変はないかのチェックをしているんです。それも当番制にしているので、毎回違う人間がここにきている形ですね。ただ、半月に一度は、皆でここに顔を出すことにしているんです。変わりはないかというのも一つですが、現場を見ていくというのも大切な仕事ですからね」
 とリーダーは言った。
「ということは、三日前に来た時にはここにはもちろん、何もなかったわけですね?」
 と訊かれて、
「おい、三日前には何もなかったよな?」
 と三日前の当番を振り返って、訪ねた。
「ええ、もちろんです。死体なんかあったら、見逃すはずありませんからね。すぐに通報しますよ。通報しなかったら、自分が犯人だって言ってるようなものですからね」
 と彼は答えた。
「あっ」
 と声を挙げたのは、三日前のその前にここに検分に来た係員だった。
「どうしたんだ?」
 とリーダーが聞くと、
「あの時、ここに足跡があったのを思い出しました。運動靴のようなものだったんじゃないかと思うんですよ。革靴ではありませんでした」
 というのを聞くと、
「じゃあ、三日から六日前くらいまでに、ここに出入りをした人がいたということでしょうか?」
 とリーダーが聞くと、
「偵察だったのかも知れないな」
 と、佐久間刑事は言った。
「何のための?」
 とリーダーが聞くと、
「そうですね。あくまでも想像が許すならですが、何かの犯罪が絡んでいるとして考えると、ここには数日に一度しか誰も来ないということであれば、何かの秘密の取引などをここでできるというものだ。まだ何も出来上がっていないので、防犯カメラもなければ、出入りをしても、誰かに見られることもない。集団で出入りしても目立つことはないので、ここを本当の取引の場所として利用できるかということを、この男が確認に来たのかも知れませんね」
 と佐久間刑事は言った。
「何か、想像しにくいような話ですが、でも話としては面白そうですね」
 と言いながら、リーダーもその話に信憑性を感じていた。
 死体をまさぐっていたもう一人の刑事が寄ってきて、
「どうやら、この被害者は秋田省吾というらしいですね」
 と、言って免許証を佐久間刑事に提示した。
 それを見た佐久間刑事は、免許証と死体を見比べて、納得したように頷いたのだが、それを見たリーダーが、急に声を挙げた。
「えっ? そんなバカな」
 という意外なことをいうリーダーに対して、不審に感じた佐久間刑事は、
「今のリアクションはどういうことですか? あなたはさっき、この男を知らないということでしたが、秋田省吾という人物は知っていて、その人物とここで倒れて死んでいる人物とでは別人だとでも言いたげに聞こえるんですが」
 というと、
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次