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二人一役復讐奇譚

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「俺たちには。やはり守らなければいけないものが何なのかをしっかり見極めなければいけない」
 という、反対派の中での地主を外したリーダーは、決断した。
 ただ、これも、行政側の根回しがあったからで、そこでいくらかの裏金が流れたことは確かに否めない。だが、そこまでしなければ、しなければ、しなければ、街の発展はありえない。いつまでも地主や小作のような封建的な街が存在していること自体、下手をすれば罪になるようなものだ。
 新しい市制を目の当たりにした住民は、
「やはりこれでよかったんだ」
 として、地主に逆らって、市昇格の賛成に回ったことを、よかったと思っている。
 市に昇格してからは、彩名市もインフラ整備や区画整理において、まわりの市の成功を手本に進められてきた。そのおかげか、十年経った今では、知らない人は、まだ市になってから十年しか経っていないなどと誰も感じないほどに、発展していたのだった。
 そんな市の中心部を走る鉄道の高架工事が行われていた。さすがに駅ビルのような大きなものは難しいのだろうが、
「少々大きめのスーパーと、道の駅のようなイメージの店を、本当の鉄道の駅に作るというのはどうだい?」
 という意見が上がり、
「それは面白い」
 ということで、行政企画部から出された案件である、
「駅の高架化と、駅前施設の充実案」
 が、死の閣議を通過したのは、六年前だった。
 三年前から着工に入り、五年計画で進められているので、ちょうど、半分を超えたくらいであろうか、高架工事も順調に進んでいるようで、駅前広場や駅も、拡張工事のために、少し不便ではあったが、それも仕方のないことであった。
 市に昇格してからは、県からもいろいろな支援を受けれるようになり、この十年を、
「彩名市発展のためのプロジェクト年間として、県を挙げての応援が立ち上がった」
 というほどであった。
 ネットも充実していて、ケーブルテレビなどの普及も行われ、目まぐるしい勢いでのIT化と言われるほどであった。
 そんな彩名市の玄関駅である彩名駅、前述のように駅のあちこちで工事が行われているので、人が入れる範囲は限られていた。
 さらに工事の進み方も時期によっては、一気に各所で建設のために入り乱れることもあるが、それぞれ会社が違い、取り扱う部署も違うということで、工事は結構バラバラであった。
 一気に工事を行う時期もあるかと思えば、一か月ほど、誰も工事現場に足を踏み入れる人もいないというような場所もある。駅を利用している人たちには意識はないだろう。いくつもの現場があって、一日を通してどの現場にも工事が入らないということはないからだった。
 その日も、スーパーになる予定の場所には夕方まで工事関係者がたくさんで作業をしていたので賑やかだったが。テナント部分は、ほとんど人の出入りはなかった。特に奥の飲食街になる予定の場所は、ここ数日。いや、下手をすれば一月近く作業をしていない様子で、特に奥の方なので、誰も気にしてはいなかった。
 それでも、一月に一度くらいは誰かが見まわることになっていて、その日は朝の九時の、スーパー関係の工事が始まるタイミングを見越して、飲食街を管轄している市の職員が、見回りにやってきていた。いくら立入禁止の札があったとしても、乗り越えれば簡単に入ることができる場所である。若者集団の屯する場所としては最適なのかも知れないが、それを見越して、ゴミならいいが、何か危険物であったり、禁止薬物などが使われているなどの犯罪行為が行われてはいないかということを、五日に一度くらいの割合で誰かが一度は来ているが、細かいところを見ていないので、一月に一度は、全体を見渡すようになっていた。
 市の係の人間が三人ほどで、この一帯を見て回る。ほとんど何も建設されているわけでもないので、一見。この場所がどんな様変わりをするのかなど、話には聞いていても、この場所をまともに見てしまうと、想像などできっこなかった。
 時間としては、昼くらいまで、一通り確認できればいいので、それほど切羽詰まっているわけではないが、とにかく空気も感想していて、埃がすごいので、いくらマスクやヘルメットをしているからと言って、お世辞にも長居を慕い場所であるはずもない。
 まだ工事はこれからという場所ではあるが、準備のための資材はある低緒運び込まれていたりする。奥にはロッカーのようなものもあって、基本的にはカギは閉まっているはずだった。
 そのあたりも係員は確認していたが。一か所閉まっていないところがあり、無造作に開けたその瞬間、
「うぎゃっ」
 という声にならない声をその係員は挙げた。
 本当は大越を発したいのはやまやまだったのだが、なぜかその時の係員の頭の中に、
「ここは大声を挙げると、何もないだけに反響して、誰もが驚愕で身体が動かなくなるのではないか?」
 と考えたことで、自分が受けた驚愕を途中で押し殺そうとしてしまったのだろう。
 しかし、時すでに遅く、その声を戻すこともできないまま、まるでカエルを踏み潰したかのような声を出してしまったことに、却って恐怖を煽ってしまったのに、後から気が付いた。
「一体どうしたんだ?」
 と、係員のリーダーが、震えている彼の元にやってきた。
 その表情には、血の気は失せていて、真っ青な顔は虚空を見つめていた。目は一点だけを見つめているのだが、うつろに見えるのは、なぜだろう?
 さっきの叫び声でも、まるで断末魔の声ではないか、表情も断末魔にしか見えないではないか。
 リーダーはそれまで自分は何があっても、それほど驚いたりはしないと思っていた。しかしその時の作業員の表情は明らかに異常であり、想像してはいけないことを自分が想像していることに気づき、それが外れているとはどうしても思えないと感じたのだ。
「うわっ」
 今度は別の係員が叫んだ。
「おいおい、お前までなんだ」
 とリーダーは聞き返すと、今度はリーダーの目にもどうして今係員が叫び声を挙げたのかが分かった。
――これなら彼でなくとも、誰だって声を出すわい――
 とばかりに覗き込んだその場所は、普段から使われていない何もないコンクリートの上に、埃が待っているだけと思っていたが、何やらヌメヌメとしたものが付着しているのに気付いた。
 それはまるで黄粉に餡がこびりついたようなベッタリとしたもので、想像してはいけないものを確実なものにしてしまったかのようで、
―ー見るじゃなかった――
 と思わせた。
 それはリーダーが思っただけではなく、そこにいてその物体に気付いた人間は皆そう感じたに違いない。
 そこまで分かれば、この状況が何を意味しているのか分かる人だっているだろう。誰か一人が、
「医者だ、警察だ」
 と狂喜乱舞のように大声を立てたので、そこで金縛りに遭っていた連中はすぐに我に返った。
 この現場で、元救急救命をしていたやつが一人いて、彼が目の前に横たわっている、
「動かぬ物体」
 と、調べていた。
 顔色はすでになく、明らかに死んでいることは明白だったが、とりあえず脈をとってみた。
 彼はリーダーに向かって、無言で首を横に振ると、
「そうか」
 とリーダーは言い、
「誰か、警察に連絡を」
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次