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二人一役復讐奇譚

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 サトシは、いつもならまだ二か月ほど、賞与迄機関があったのだが、みゆきに会いたくて仕方がなくなっていた。もはや、
「サービスを受けたい」
 であったり、
「癒されたい」
 などという感覚ではなく、ただ単に遭いたいという思いが衝動となって気持ちを揺さぶるのだった。
 もう、その時点でみゆきはナンバーワンになっていたが、さすがに高級店、予約さえすれば、前日の予約であっても、十分に余裕があった。その日もみゆきはいつものように出迎えてくれた。
 ほぼ四か月ぶりであったのに、まるで昨日も会ったかのような錯覚を覚える。これは半年ぶりであっても同じことで、それがみゆきの一つの魅力であり、あやめには感じられないことだった。
 だからと言って、あやめとは単純に比較できないところがある。そう自分に言い聞かせたサトシだった。
 その日、サトシは、あやめにしたように、みゆきにも、
「他のお店に君に似た女の子がいる」
 ということを話した。
 みゆきはそれに対して、ほとんどノーリアクションだった。
「そうなのね。やっぱりいたんだ」
 と言って、何かを考えているようだ。
「知っていたのか? 誰か他のお客さんから聞いたの?」
 と言われたみゆきは、
「いいえ、何となくそんな気がしていたんです」
 というではないか。
 知っているとすれば、何かきっかけになるようなことがあるはずだが、本人が見かけたりしない限りは、やはり誰かからの話でもなければありえないような気がした。
 すると、みゆきから意外な言葉が飛び出してきた。
「それは、前に付き合っていた男の素振りで分かったんですよ」
 という。
「前に付き合っていた男っていうと、このお仕事を始める前ということ?」
「ええ、そうなの。私はその男のせいで、借金を抱え込まされてね。それで今こういうことになってるんだけどね。その人がある日、私を見て、すごくビックリしたような顔をしていたのね。その時に、何だろう? って思っていたんだけど、この間、サトシさんも私に何か不思議そうな顔をしたでしょう? 同じ表情というわけではなかったんだけど、私にとって、同じ衝撃に感じられたのよ。それで今のお話を訊いて確信したの。あの時のあの男が私を見てビックリしたのは、似ている女の子を見つけたからじゃないかってね」
 とみゆきは言った。
 その言葉に間違いはないだろうと、サトシは感じた。
 みゆきは勘のいい女性である。そこがみゆきのいいところだと思うのだが、みゆきの勘の良さは、その雰囲気から醸し出されているような気がする。みゆきは、あやめと違って、絶対零度を感じるのだ。冷たすぎて触ってしまうと、すべての感覚がマヒしてしまいそうになり、そのまま金縛りに遭ってしまい、動けなくなりそうな予感があるのだった。
「その子に遭ってみたいわね」
 とみゆきは呟いた。
「えっ?」
 この言葉は意外中の意外だった。
「私はなるべくこのお仕事をしている間、同業者の女の子とはあまり接触したくないと思っていたんだけど、その子にだけは遭ってみたい気がするの。いえ、会わなければいけないんじゃないかっていう気さえしてくるのよ。何だろう? 彼女によからぬことが起こりそうな気がして、それを止めることができるのは私しかいないような気がしてね」
 とみゆきはいうのだ。
――似た者同士という言葉があるけど、それは容姿ではなく、雰囲気や性格のことなんだけどな。でも、顔が似ていると、雰囲気は違っても性格は似ているのかも知れないな。そうでなければ、この俺が二人を好きになるということはないはずだから――
 とサトシは感じていた。
 好きだという感情は、もちろん、彼女や恋人に対してのものではない、そもそも好きだという感情があれば、付き合わなければいけなかったり、何か、お互いを拘束するような関係にならなければいけないということはないはずだ。黙って感じているだけであれば、そこにお互いを縛るものは何もないはずだ。
 あやめに対しても、みゆきに対しても同じことを感じている。サトシが二人に遭いにいくのはその感情を確かめたいからだった。だから、あやめと会った日の帰りに思い出すのはみゆきであったり、みゆきと会った日の帰りに思い出すのは、あやめのことであったりするのだろう。
 その日、サトシはみゆきと会って、そのことを確信した気がした。みゆきがあやめに遭ってみたいと言った時、サトシも自分の感情を理解するに至ったような気がした。
――やっぱり、今日来てみてよかったな――
 と、サトシは感じていた。
「みゆきは、自分にそっくりな人がこの世に何人もいたら、気持ち悪いと思う方なのかい?」
 とサトシが聞くと、
「うん、あまり気持ちのいいものではないかな? ただ、それも話を訊いているだけで終わってしまった場合ね。会ってみるとそうでもなかったりするものなのだろうけど、そう思うと、自分が普段から、人見知りだということを意識しないようになるのかも知れないわね」
 と、みゆきは言った。
 さらにみゆきは続ける。
「でもね、さっき私に似ている女の子に遭ってみたいって言ったでしょう それは本心からであって、今のお話とは別、その女の子は私とただ似ているだけって気がしないのよ。やっぱり彼女も前の彼氏と少なからずの関係には遭ったんでしょうから。同じ気持ちを抱いているかも知れないと思うのよ。もちろん性格は違っているんでしょうから、感じ方は違っているかも知れない。でも、最後に落としどころは近いものがあると思うのよ。そう思うと、やっぱり会ってみたいっていう気がするの。もし、その子が私が理解しているような状況だったとすれば、同じことを感じるんでしょうね」
 と言った。
 みゆきの今の言い回しは少し曖昧な言い方であり、それだけいろいろと取れる意味を感じさせることで、何をどういえばいいのか、難しかった。
 みゆきは、少しうな垂れていたが、その様子は、みゆきが何かを考えている時であり、それを邪魔することはサトシにはできなかった。
 ただ、みゆきの頭の回転の早さは尋常ではないのだろう。すぐに我に返って、
「ごめんなさい」
 と謝ってくれる。
「いや、いいんだよ」
 というが、あれだけ自分の世界を形成して考え事をしていたのに、こんなに早く我に返ることのできる人は初めて見た気がしたのだ。
「サトシさんは、もし、自分にソックリな人を他人が見たと言えば、どんな気分になるのかしら?」
 とみゆきが言い出した。
「そうだなぁ、正直にいうと、気持ち悪いかな? そういう意味では、今僕が言った話は無神経だったかも知れないね。申し訳なかった」
 というと、
「そうじゃないの。私はあなたを責めているわけではないのよ。あなたが考えていることがどういうものなのかを知りたいと思っているの。さっきあなたが、気持ち悪く感じるって言ったでしょう? それってきっとドッペルゲンガーのようなものだと思うのね。知ってるでしょう? ドッペルゲンガーって言葉」
 とみゆきに言われて、
「ああ、知っているよ。ただ似ているというだけではなく、その人本人が同じ時間、同じ次元で別の場所に存在しているということだよね?」
 と言って、ハッとしたサトシだった。
作品名:二人一役復讐奇譚 作家名:森本晃次