短編集115(過去作品)
相手はこちらが違う相手だと思ってすぐに切った。それを知らずに自分は相手がいると思い、自分を相手に勝手な妄想に入っていたのかも知れない。
次第に意識が遠のいていく。独り言をいう気力もない。
――このまま死んでいくのだ――
後悔はなかった。なぜ後悔がないのかというのが却って心残りだったが、気がつけば、布団の中にいた。
――すべてが夢だったのだ――
独り言をいう自分を抹殺したかっただけで、後悔のないのは、独り言をいう自分の気持ちの後悔だけだったのだ。
――独り言――
それは、自分にとって、不満でもあり、楽しみでもあったのだ。抹殺してしまった以上、残ったものは、抹殺してしまったことへの後悔だけなのかも知れない……。
( 完 )
作品名:短編集115(過去作品) 作家名:森本晃次