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十五年目の真実

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 後悔しても時間が戻ってくるわけでもなく、もやもやした気持ちの中で帰宅しなければならないと思うと、今度は、またしても、二人への怒りがよみがえってくる。怒りに任せてもやもやした気持ちでいると、今度はまたしても、そんな自分を苛めてしまっていることに気づく。
 結局、同じ感覚を堂々巡りで繰り返しながらその日一日を過ごさなければいけないと思うと、気持ちが沈んでいく気持ちになり、
「この感覚が鬱状態を作り出すのかも知れないな」
 と感じた。
 中学生になってから、鬱状態というものを感じ始めていた。
「今が鬱状態なんだ」
 と考えると。急にそれまで考えていなかった自分のまわりを感じるようになっているのだった。
 まわりのことを考えていると、自分が今どのあたりにいるのかをまず考えてしまう。時系列で自分はその場所に止まっているのでなければ、かならずどちらかに向かって動いているのであり、そこには、スタート地点があり、ゴールが存在する。
 その間の自分がどこにいるのかということを、無意識に感じてしまっていることに気が付いた時、
「俺は今、鬱状態なんだな」
 と感じるのだと、西村は感じるのだった。
 それは夢の中で見た吊り橋を思い起こさせる光景であることを感じさせた。
 吊り橋がかかっているのは、断崖絶壁の上であり、当然底なしの谷の上にかかっているので、相当な風が吹いているのを感じていた。
 自分がその橋の真ん中にいる。どうしていきなりその場面から始まるのかという疑問ではあるが、
「夢を見ているから」
 という理屈で解決できた。
 少々強引であったが、
「どうせ、目が覚めたら忘れているだ」
 という意識から、解決することができる。
 橋の真ん中にいると思っているのだが、その理由は、正面を見ている距離と、後ろを振り返った教理とが同じに思えるくらいに、その光景はまったく一緒だったからだ。後ろに関しては身体を動かして後ろを正面にする形で見たわけではない。そんなことをすれば、身体のバランスを失って。そのまま谷底に落っこちてしまうか、あるいは、後ろを振り返ってしまうと、もう二度と前を向くことができなくなってしまうのではないかという危惧を感じたからだった。
 西村は、結局そこを真ん中だと理解したようだが、実際には違っていた。
 以前、田舎のあぜ道をただ舗装しただけのような一直線の道を、果てしなく歩いた経験があった。初めて歩いた田舎道、誰も一緒に歩いてくれる人もおらず孤独な道だった。
――そういえば、こんな感覚、一度ではなかったかも知れない――
 と、思ったが、二度目というのは、例の正月に友達の家に皆泊るということになったのに、自分だけが親の許可を得られず、帰ることになってしまったあの時の屈辱感で歩いた道が、田舎道を果てしなく歩いたあの時に似ていた。
 田舎道は昼間だったので、歩けども歩けども、目的地が見えてこないことが分かってくると、今度は、
「どれだけの距離をあるん単打?」
 ということを確かめたくなるというのも当たり前というものだ。
 歩いてきた距離を感じようと振り返った時、身体も一緒に反転させたにも関わらず、歩いてきた距離を確認できなかった。
 なぜなら、後ろを真正面にして捉えた時、まるで進行方向で見ていた光景と、まったく変わっていないように感じたからだ。
 そのうち自分がどっちに進もうと思ったのか分からなくなった気がした。その時は運よく進む道が分かったが、その時の怖さから、後ろを振り向く時は、身体を真正面に向けないように気を付けようと思うようになったのだ。
 だから、その時も決して後ろに対して真正面にならなかった理由の一つとなったのだ。
 そのせいもあってか、前後不覚に陥ってしまった。どっちに進んでいいのか分からなくなったことで、平衡感覚を失ってしまい、前に進んでいるつもりでも、後ろに進んでいるつもりでもない。きっと親の見てはいけない秘密を見てしまったという思いと、見てしまったことをどのように処理していいのか分からずに、ただ歩いていただけなおだろう。その時に以前の夢を思い出してしまったことで、意識が朦朧としてきたのか、その朦朧とした意識を正当化させるために、
「これは夢なんだ」
 という意識を持たせたのかも知れない。
 そう思っていると、自分が何かにつまずいた気がした。
「あっ」
 という声を出して、気が付けば、その場に倒れていたのだ。
 何につまずいたのか、起き上がって見ると、
「ウソ」
 思わず、そう叫んで、目を凝らして、目の前のものを見た、
 さっきの親の不倫現場を見たよりも数倍、
「見てはいけないもの」
 のはずだった。
 だが、それよりも、
「どうしよう」
 という思いが先だった。
 起き上がってその物体に近づいたが、触ってはいけないものであることはすぐに分かった。
「俺って、意外とこういう時、落ち着いているものなんだな」
 と思ったのは、その物体が絞殺死体であることが分かったからである。
 首には縄のようなものが残っていて、顔色は完全に土色をしていて、まるでモノクロ映画を見ているか、ゾンビ映画を見ているかのような顔色のなさに、明らかに死んでいることは分かった。
 魔は完全に飛び出すかのように前を直視していて、ただ、その先にあるのは虚空でしかなかった。口はかっと結ばれていて、歯を食いしばっているのか、苦悶の様子を表していた。
――ああ、この人は苦しみながら死んだんだろうな――
 と感じ、その視線の先には、生前の最後に犯人を見ていただろうなと感じた。
 だが、その思いが違っていることにすぐに気付いた。
 その男、被害者は男なのだが、その人は後ろから首をしえられたようだった。首の前の方は紐が繋がっているところが見えたからだ。
「あっ」
 とまた西村は我に返った。
 この様子を想像したのは、あくまでも夢の続きであって、現実ではなかった。もう一度夢から覚めた気がしたからだ。
 だが、どこから夢の入ったのかが分からなかった。目の前にある死体はさっき目が覚めた時と同じ状態で目の前に横たわっているからだった。
「こんなリアルなものをいきなり夢で見るというのはおかしいよな」
 と思ったのは、一度見たからだということを意識したからだったが、それが少し違った意味で感じたことだということを、誰がその時に気付いたであろうか。
 そして、夢の途中だと思ったような感覚を二度目は感じたわけではなかった。同じように、
「ウソ」
 とは感じたが、それは最初に感じたものとは違っていた。
 あの時は、死体を見たことに対して、
「ウソ」
 という言葉が自然に出てきたものであったが、二度目に感じた思いは少し違っているようで、
「そこに死体があること」
 に対して感じた、
「ウソ」
 だったのだ。
「同じことではないか」
 と思うだろうが、西村の中では違っていたのだ。
 ただその思いが、死体がそこにあるということをまったく予期していなかったということなのかどうか、そのことをすぐには分からなかったことで、すでに自分がどのあたりなのか完全に夢の世界に入り込んでしまっていることを感じていた。
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次