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十五年目の真実

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 ただ、彼がいうように、日本に来る連中が日本を知らずにやってくること自体間違っている。これは日本人が海外に留学する時にも言えることであるが、ちょっとした行き違いが大きな事件に結び付く。そういえば、何年か前にアメリカでハロウィンの時に、銃で撃たれたという話もあったくらいで、外国に行くにはそれくらいの覚悟が必要だと言えるのではないだろうか。
 そんな話をしているうちに、事件は急転直下を迎えることになった。辰巳刑事が駅で被害者の話を訊いていた時、まだ、表には出てきていないはずの先生が、外人殺しで自首してきたのである。
 先生は、正当防衛を主張していた。あの男が自分のプライバシーを侵害するような不倫現場を撮影したということで、殺害に至ったという。その不倫相手が西村の母親であることは分かり切ったことだった。
 そのことも先生は正直に告白した。
「ええ、殺害したのは、ちょうど、多目的トイレで男が苦しんでいるのを見たからです。なぜやつがトイレで苦しんでいたのか分からなかったが、頭から血を流していたので、元々誰かに殴られたか何かをしたんだと思いました。今ならこの男から、証拠になるデジカメを奪えるんじゃないかって思ったんです。幸いにもやつの手荷物があり、そこからデジカメが覗いていたので、トイレの中に入って、こっそりとデジカメを抜こうとしたんですが、抵抗されて、それで首を絞めてしまいました」
 と先生は供述した。
「どうやって首を絞めたんだ?」
「マフラーで絞めました。やつは思ったよりも力が強く、傷ついていたということもあって、こちらが誰なのか分からない様子でした。自分がデジカメを取ろうとしたのを怪しいと思ったのか、猛烈に反発してきます。本当に私の首を絞めてきたんです。こっちも必死でした。殺さなければ自分が殺されると思ったのかも知れません。何とかやつの首を絞めて絶命したので、自分が助かったことが分かると、急いでデジカメを持って逃げました。あいつがデジカメで撮影なんかしなければ、こんなことにはならなかったんだ」
 と言って、先生は悔しがっていたという。
 取り調べは、続いたが、先生はトイレで殺したということは白状したが、なぜ死体がラブホテルの近くで発見されたのかは知らないという。誰か自分以外の人が運んだんだろうというが、その部分の謎が残った。
 謎は残ったが、証拠としては、先生が被害者のデジカメを所持していたということ、そして多目的トイレの前にある防犯カメラで、死亡推定時刻近くに、出没していたということが分かり、先生を立件できるだけの証拠は揃っていた。
 しかも、自首してきたということと、周囲の状況から考えても、先生のいう、
「正当防衛」
 に近い状態だったことが、その時間が、朝のラッシュ時だったにも関わらず、他の人に見つかることもなく犯行が行えたということで、裏付けられるという内容の元に、先生は起訴された。
 さすがに、正当防衛までは認められなかったが、十分に情状酌量の余地があるとして、執行猶予付きの判決で、刑務所に入ることはなかった。
 先生としての仕事ができなくなったのは仕方がないとして、先生はこの街を去ったが、西村家では、妻の不倫が分かり、離婚問題に発展した。
 だが、離婚の際も、父親の封建的な態度に対しての妻の不倫ということが認められ、慰謝料はなしで、西村の親権は父親に移った。母親は養育費だけは払うことに結審したが、さすがに今回のことで父親も懲りたようで、次第に大人しくなってきた。
 西村も成長してきて、父親としても、成長した息子にそれほどひどい仕打ちができるわけでもなく、それまでの封建的な態度は鳴りを潜めていた。
 母親の方は、しばらくして先生と再婚したようだった。
 辛い時、苦しい時に一緒にいてくれた先生と別れることはできなかったようで、貧しいながらも幸せであったということだ。
 数年して、先生も禊を終えた形で教職に戻っていたが、どうしても前科が付きまとうことで、昔のような担任というわけにはいかなかったが、教師に戻れたのはよかったのだろう。
 だが、結局この事件は謎が残ってしまった。犯人が自首してきたことで、どうして被害者の死体が、他で発見されたのかということ、そして表に出てきていないことで、被害者を最初に殴ったのは、誰だったのかということが、結局表には出てこなかった。
 ただ、犯人が自首してきて、その裏付け捜査に矛盾はなかったことで、一件落着のような形をとってしまったが、本当にそれでよかったのだろうか?
 他の事件関係者の人たちがどう考えていたのか分からなかったが、少なくとも西村には納得のいく結論でなかったことで、不完全燃焼に終わったのは間違いなかった。
 どうして西村に、ここまで違和感が残ってしまったのかというと、事件の裏に回ってしまった、被害者を殴ったのが、下北であり、下北自身が事件の蚊帳の外に置かれたということ、そして、死体を発見した自分が、その直前にラブホテルから出てきた母親と先生を見かけたということ。それぞれが本当に偶然だったのか、今となっては、分からないことが多すぎるが、どう解釈すればいいのか、考えさせられてしまう。
 そんな状態で西村は父親と一緒に過ごさなければいけなくなったことで、自分が父親を恐れているのと同じで、父親も自分を恐れているのが分かった。
 今までは子供だったこともあって、父親の存在が偉大で、逆らうことのできないもの、しかも母親もそんな父親に恐れを抱いていると思うと、味方がいるわけでもないことほど恐ろしいことはないと感じた。
 母親が先生に靡いてしまった理由も分からなくもない。
 しかし、西村が成長して、大人になってくると、その感情も少し変わってきた。
――先生は、ある意味、我が家の被害者だったのではないだろうか?
 という思いが頭にずっとあった。
 家族に見切りをつけた母親が慕ったのが先生であれば、先生が母親を好きだったというよりも、
「好きになられたので、好きになってしまった」
 というそんな状態だったとも考えられるからである。
――もし、母親が他の男性に靡いていたら、結果はまったく違っていたかも知れない――
 とも考えたが、
――いや、母親は、先生のようなタイプの人にしか靡かなかったような気がする。だから先生だったんだ――
 という思いである。
 中学時代にラブホテルから出てきた二人を見た時、今から思えばイチャイチャしていたという意識はあるが、お互いに好き合っていたという意識はなかった。だから、そんな二人を見て、嫌悪を感じたのだし、上っ面の浮気にしか見えなかったので、それを見てしまったことを後悔したような気がした。
――俺は子供心に、分かっていたのかも知れないな――
 と感じていた。
 しかし、両親が離婚したことに関しては、悪いことだとは思わない。二人の間は完全に冷めきっていて、このタイミングでなくても、どこかで別れていたのではないかと思うと、納得できる。
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次