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十五年目の真実

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 事情を聴取することはやっていたが、実際の意見を聞くようなことはしない。だが、その中で辰巳刑事だけが、彼に捜査内容を結構話していたのは、彼に何かを感じたからであろうか?
 ただの第一発見者というだけではなく、何かを隠しているというようなことであったり、重要なことを握っているのに、それを重要だとは思わずに、話をしていなかったりと、どうも西村に対して、そして西村が警察に対しても煮え切らないような感覚になっていることをいかに考えているというのか、それを探っているようだった。
 西村少年が気になって仕方のなかった辰巳刑事は、清水刑事にだけは、気になっていることを話し、
「今は他に大きな事件がないからいいが、もし持ち上がった時は、そっちは中止して、戻ってきてくれ」
 という条件を出し。捜査を続行することになった。
 まずは、被害者の交友関係であるが、まったくないようだった。ハッキリ言って、角館という男以外に、他に知り合いは日本人にはいない。ただ、彼がトリテツと言われていることで、今は時間があるのでカメラを片手に電車を撮りまくっているというだけのことだった。
 来週からは範囲を広げて、他の県にも進出するつもりだったようだが、今はまだ地理も分かっていないだけに、近場だけで満足していた。
 ただ、一つ気になる情報があった。
 彼がトリテツであるということは、駅で毎日のように電車を撮っているので、駅の人間なら皆分かっていたようだ。
 その中の一人が、どうやら、下北とのやり取りを見ていたようで、
「ええ、一人の中学生くらいですかね。学校に向かっているところ、何か言い争いにでもなったのか、あの外人が罵声を浴びせていたんだけど、中学生の方がおじけづいたのか、急に走って逃げだしたんですよ。すると、後からその外人が血相を変えておいかけたんですよね。少年は必死になって逃げていました」
「逃げきれたんだろうか?」
「ホームの階段から姿を消すまでは結構距離があったと思うので、うまくやれば逃げれたと思います」
「一体、被害者は何にそんなに怒ったんだろう?」
「よくは分からないけど、どうも中学生がボソッと何かを呟いたみたいなんですね。それで怒り狂ったわけなんだけど、それにしても、異常ですよ。まったく通じない自分の国の言葉を連発していたので、きっと日本語はまったく喋れないんだって思いました」
 駅員の想像は当たっていた。
「それにしても、駅で初対面の人間に罵声を浴びせるというのは変な気がするが、二人は面識でもあったのかな?」
「それはないと思います。少年は苛立ちながら、まわりを見て助けを求めている感じでしたが、誰も関わりません。それだけ酷かったんですよ。もし面識があったら、大衆の面前であそこまではないと思うんですがね」
 と駅員は言った。
「その時、外人はカメラを持ったまま追いかけたのかい?」
「ええ、カバンごと、肩にかけて、一目散で走っていきました。カバンがあるのも、少年が逃げ切れたと思った証拠ですね」
 と駅員は答えた。
「それからどこへ行ったか分かりますか?」
 と訊かれて、
「いやあ、私も業務がありますから、このホームを離れるわけにはいきません。後は少年が逃げ切ってくれたことを祈るだけですね」
 と駅員は答えた。
 辰巳刑事は、防犯カメラをチェックしていてが、どうにも人が多くて、しかも薄暗かったこともあってか、ハッキリと分かる映像はどこにもなかった。もちろん、多目的トイレの前もチェックしたが、一度見ただけでは分からない。
「駅の外に逃げ出したんですかね?」
「その可能性が強いね。もしそうだとすると、足取りを追うのは難しいかも?」
 という話だった。
 防犯カメラの映像をスルーしたのは痛かった。これで、あのトイレに二人が入ったということは、きっと誰にも分からないに違いない。
 ただ、一人だけ気付いている人がいたのだが、その人はややこしいことに首を突っ込みたくないと思っている掃除のおばさんで、その人はさすがにトイレ掃除の時、少しであったが、血が床に滲んでいるのが分かった。
 しかし、それほど大量の血ではなかったので、あまり気にしていなかった。まさか、トイレで格闘があったということも、ホームから逃げてきた人を警察が追っているということも知らないのだから無理もない。知っていれば、名乗り出たかも知れなかった。
 このことは誰にとってよかったと言えるのだろうか?
 例の外人が殺されてしまったので、やつにとってよかったかどうか分からない。ひょっとするとその時に分かっていれば、死なずに済んだかも知れないのだ。
 では、下北であろうか?
 もし、下北は暴行されたことが分かると、下北が一番の犯人候補であろうが、一人で果たして死体を運べるというのか、なにしろこちらは中学生でまだ子供である。大の大人を、しかも死体になった相手を五体満足のまま、誰にも気づかれずに運べるだろうか?
 下北が疑われれば、友達の西村も疑われることになる?
 しかし、まったく違う場所でその死体が見つかり。しかもその第一発見者がこの西村だというのは、あまりにも都合がよすぎるだろう。
 逆に疑ってかかってみたくなるというものだ。
 二人の刑事は、どうも駅では新たな情報が得られるわけもないということで、被害者の交友関係を洗うことにした。
 これは逆に完全な徒労だった。何しろ日本に来て間もない間に、どんなに友達ができるはずもない。せめて、トリテツで知り合ったくらいの人であろうが、その連中も言葉が通じるわけでもないので、片言で挨拶をするくらいだった。
 そんな間柄でしかない人間を、果たして交友関係と言えるだろうか。
 ただ、その中で一人。気になることを言っていた人がいた。
「あいつは、電車の写真もさることながら、電車の中に乗っている人の雰囲気や表情がきになったり、駅そのものが気になったりしていたんだ。だから、結構あいつの写真には、人間模様が隠れていると言われて、一部のマニアから、別の意味で評価を受けていたんですよ」
 と言っていた。
「ということは、何か撮ってはいけないものを撮ってしまったのかな?」
「そうかも知れませんよ。日本人とあいつらでは、文化が違うから、あいつらには許されることでも日本だったら許されなかったり、逆に日本だったら許されるのに、あいつらの世界では許されないことだったりがあるんじゃないかな? しかもまだあいつは日本に来てそんなに経っていないから、文化も分かっていない。俺なんかが思うに、外人が日本に来るんだったら、日本の文化をもっと勉強してから来いってんだよね。そうじゃないと、無関係の人が巻き込まれることになってしまうかも知れないじゃないですか?」
 と、その人は言った。
 だが、辰巳刑事はその時に訊いた今の言葉の中に、この事件の真相に近づく重要なカギが含まれていたことを見逃してしまった。
「一生の不覚」
 と言ってもいいかも知れないが、この事件では結構そういうターニングポイントがいくつもあるのに、それを見逃してしまうことが結構あったようだ。
 この時の辰巳刑事もしかり、一体誰が、この事件を解決しようというのか。
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次