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十五年目の真実

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「相手が外国人だというところが引っかかるんですよ」
 というではないか。
 まさかとは思うが、西村のまわりの人に彼が外人が嫌いだということを警察に話した人がいるのではないかと思ったのだ。
「相手が外国人で、しかも最近日本に来たばかりということであれば、彼に対して殺したいほどの恨みを持つということは考えられない。そうなると衝動的なものか、彼が何か見てはいけないものを見てしまったか何かしたか、そのあたりではないかと思うんですよね」
 と、刑事は言った。
「そこで、お聞きしたいのはですね。我々があのあたり一帯をいろいろ捜索した時、彼の荷物らしいものは何も発見されなかったんですよ。身元を示すものもなかった。当然財布もね。他で殺されたということだったので、こちらに運んできたわけだから、まわりに何もなくていいんですが、でもそれだと犯人は、他で被害者が殺されたということが分かってもいいと思っていたということですよね? そうじゃないと、彼の遺留品が何もないというのは、おかしなことですからね。そうなると、犯人が何をしたいのかが分からなくなってくるんですよ」
 と刑事は言った。
「ええ」
「本当にあのあたりに何もなかったのかって思ってですね」
 という刑事の言葉にドキッとした西村は少々怒りをあらわにし、
「それじゃあ、まるで刑事さんは。この僕がその人の荷物か何かを隠し持っているのではないかって思われるんですか?」
「そこまでは言っていませんよ。あなたが発見した時、そのあたりに、本当に何もなかったのかということですよ」
 というので、
「それは、すなわち僕がその男のものを持っていると言っているのと一緒じゃないですか。あの場面で死体を発見してから警察が来る迄、僕一人でずっと見ていたわけですからね」
 というと、
「それなんですよ。本当にあなたおひとりだったんですか?」
 と言われて、刑事は何が言いたいのか分からなくなった。
「他に人なんかいるはずないじゃないですぁ?」
 と憤慨していうと、
「いえね。どうやらあの場所に何かがあって、それを誰かが持って行ったふしがあるようなんですよ」
 ますます分からない。
「どういうことなんですか? 何かを持って行った後があるって、本当に最初からそこにあったか、被害者が花見離さず持っていたはずのものがあって。それが消えていたとかいう話なんですぁ?」
 というと。
「そうじゃないんですよ。実は死体から少し離れたところにですね。USBフラッシュメモリーがあったんですよ。USBご存じっですよね? データを保存する親指大くらいのメモリーなんですが、そこにですね。いくつかの写真が入っていたんですよ。どうもそれは電車や駅の写真ばかりで、そのことを被害者の世話を焼いている角舘という男に訊いてみたんですが、どうやら、彼は日本の鉄道マニアで、鉄道写真を収集するのが趣味だったらしいんですね。その日も写真を撮ると言って出かけたらしいんですが、彼が持っているはずのデジカメがないんですよ。犯人が持って行ったのか、それとも本当の殺害現場にまだあるのか、でも、それは考えにくい。死体を移動させたのは、殺害現場を特定されたくないからというのが一般的な考えなのに、殺害現場にカメラだけがあったというのもおかしな話ですよね。だから、カメラも死体のそばにあったのではないかと思ったんです」
 と、刑事はかなり詳しく説明してくれた。
 それを聞いても西村は、
「いやぁ、なかったものはなかったとしか言いようがないですね」
 と答えると。
「そうですか。分かりました。我々も別のところから当たってみます」
 とあっさりと切り上げたのには、少々拍子抜けsた。
 ここまでハッキリといろいろ話してくれたのに、この諦めの早さは何なのか。彼らの中で想定内だったということか。そうなると。別のことから当たると言っていたが、何か当てがあるというのだろうか。
 西村には、その当てが何なのか、さっぱり見当がつかない。捜査をすると言っても次にするのは、交友関係を当たるか、後は、本当の犯行現場を探すところであろう。
 刑事との電話を切った後で、西村はいろいろ考えてみた。だが、今の刑事の電話で分かった一番重要なことは、被害者が特定できたということであり、どうやらその外人は、下北が、
「殺したかも知れない」
 と言った人物だった。
 だが、彼はその後に別の場所で死体となって発見された。下北の話では、
「俺は、頭を配管に打ち付けた」
 と言っていたが、絞め殺したとは言っていない。
 そもそも、あんな紐のようなものを、普通は盛っているものではない。致命傷は首を絞められたことだと言っていたことから、少なくとも下北が犯人ではない。もちろん、下北の話を全面的に信じるからであるが、逆にここまで話をされて、いまさらウソをつかれるというのもおかしな気がする。
 頭を打って気絶したところ、彼がトイレで蘇生した。そして、そこを通りかかった人に対して気が狂ったように襲い掛かり、正当防衛から、その男を殺してしまった。そして怖くなった犯人が、ここに死体を遺棄した。
 その時、デジカメのようなものは持って行った。まさかとは思うが襲うところを撮られているのは怖かったからだ。場所がトイレの中というのもよかったかもしれない。出入りに防犯カメラの映像はあるかも知れないが、トイレの中にカメラがあるはずはない。それこそ盗撮になってしまうからだ。
 彼を運び出すのに、一人では難しいだろうから、誰か人を呼んで、ここから偽装工作が始まる。
 男の身元が分かりそうなものはすべて抜き取っておく。どうせ警察も被害者がこれから息する場所で死んだとは思わないだろうから、そこは問題ない。トイレで殺されたことを示唆させたくなかった。いくら防犯カメラに決定的な映像が映っていないとはいえ。怪しい人物として映っているかも知れない。あの場所で殺人があったなどということは誰にも分からないだろうから、死体をどこか静かな場所で、しかもそんなに時間が経たずに発見されることを望んだ。あまり発見が遅ければ、死亡時刻が曖昧になってしまい、死体を動かした意味がなくなるだろうと思ったのかも知れない。
 もしそうだとすると、いろいろ無理な点が多いが、犯人側とすれば、注意に注意を重ねて考えたつもりであろう。もしこの内容が犯罪を指し示しているとすれば、かなり曖昧な犯罪に違いないが、大体はこんなところで事件は推移するのではないかと西村は考えていた。
 ミステリーマニアらしい考えだが、それも、下北という友達の証言が頭に先入観としてあるから、考えられることであった。
 ただ、一つ気になるのは、犯人がデジカメを持って行ったということ、そこには何かの秘密があるということなのか、この外人は下北に対しても、かなりヒステリックに怒りをあらわにしたというではないか。この怒りというのは、デジカメと何か関係があるというのか。
 この外人は角館という人と、下北の証言で一致していることとして、
「鉄道マニアの、トリテツ」
 だということだった。
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次