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十五年目の真実

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「そうだな。それがいいかも知れないな」
 と口ではそう言いながらも震えが止まらない下北だった。
 彼にしてみれば確かにそうかも知れない。西村は部外者なのでいいが、下北の場合はそうではない。
 下北は恐怖の構図を二つ考えていた。
 一つは、皆が考える通り、その外人が死んでいて、自分が犯人にされてしまうという最悪の考えだ。しかし、この可能性が一番高いような気が下北はしていた。どうしても当事者というのは、最悪のことを考えてしまうもので、西村のように客観的に、そして他人事のようには考えられないものだ。
 そうなると、トイレは施錠されていた理由が分からない。もし誰かに死体が発見されたのであれば、その人は警察に通報し、係の人が立入禁止にするはずだ。そして警察の捜査が入れば、現場は聖地となり、完全に関係者以外は立入禁止となるに決まっている。それなのに、ただ閉まっているだというのは納得がいかない。となれば、もう一つの考え方として、外人が蘇生したと考える方だ。そうであれば、扉が閉まっていた理由も前述の通りである。
 だが、これでめでたしめでたしとはならないだろう。
 なぜなら、もし外人g蘇生したのだとすれば、やつは、この自分に復讐を企てるかも知れない。いや、きっと企てるだろう。何しろあれだけ怒りを爆発させて追いかけてきたのだ。あいつは何に対して怒りを爆発させるか、日本人には理解しがたいものがあるのだろう。
 そう思うと、
「やっぱり、外人は危険だ」
 と思わないわけにはいかない。
 復讐について、西村の考えは前述しているが、下北の考えもあまり違いはない。相手にやられた以上のことで復習しないと気が済まないというのは、人間の心理だともいえよう。それは日本人であろうと、外人であろうと変わりはない。だが、気性が分からないだけに非常に恐ろしかった。
 下北は知らなかったが、西村も実は外人が嫌いだった。もし、この事件の立場が下北ではなく西村だったら、もっと悲惨なことになっていたかも知れない。
 西村は二重人格ではないが、何かに夢中になると、我を忘れてしまうことがある。自分が危険に晒されて。自分が殺さなければ殺されるとなると、相手のことなど考えている暇もなく、やっつけてしまうことにあるだろう。
 その分躊躇はない。攻撃することで、自分の理性が保て、精神的に安定してくることがわかると、その安定を自分の中の正当性だと考えてしまうことで、相手を完膚なきまでにやっつけるという行動に出るだろう。
 そういう意味では西村は、下北よりも狂暴で、容赦はなかった。
 そのことを西村は自覚していない。
――俺は、冷静沈着なタイプだ――
 と思っているが、それも間違いではない。
 確かに冷静沈着で、滅多なことはしないが、その滅多なことをする状況になると、手加減ということを知らない。正当性に守られた理性だと思っているので、どんなに残虐なことをしようが、自分であれば許されるとも思っているのだ。
 そんな西村だったので、自分が人には言えない秘密を持った時が、少し怖いと思っていた。それが先生と母親の不倫現場だったのだが、なぜか西村は、その時、二人に対しての怒りがそれほどなかったということを意識していた。
 確かにその後、死体を見つけたりして、気が動転したというのも間違いではないが、それはそれであり、時間が経てば、まったく違っている事実だということで、再度考えをリセットできるはずだった。
 西村は、そんな自分の性格を分かっているだけに、
――何かがおかしい。普段とリズムが違っているようだ――
 と感じていた。
 西村と下北はそれぞれに違う思いを抱いてその場を離れ、それぞれ普段の生活に戻った。西村が死体を発見したのはその日の昼過ぎのことで、朝の事件の焦点であった駅の多目的トイレが、平常であるというのを確認すると、
――やっぱり蘇生したんだろうな。よかった――
 と思って、そのまま電車に乗って家の近くの駅まできて、自転車に乗り換えて家路についたその途中で、まさか死体を発見するとは思わなかった。
 それもそうであろう。
 そんなに都合よく、朝友達から、
「外人を殺したかも知れない」
 と言われ、トイレを確認しに行ったり、実際にそれから半日しか経っていないのに、本物の死体を発見するなど、話が出来すぎているような気がするくらいだった。
 だが、その偶然は、
「偶然と言えば偶然だが、ある意味、繋がっているとも言える」
 とも思えたのだ。
 警察の方から連絡があり、どうやら被害者の身元が割れたということであった。
 電話での話だったのだが、
「被害者の名前はグエン・ミンという人で、ベトナム人のようなんです。その人は、角館俊二という日本人のところに寄宿していて、どうやら日本に来てからまだ一か月くらいのものだそうです」
 ということだった。
「留学生なんですか?」
 と聞くと、
「ええ、来年の春から日本の学校の外人枠で入れるような話になっているそうなんですが。そこには、角館という人の力が働いているようですね」
「その角館という人はどういう人なんですか?」
 と聞くと、
「角館氏は、どうやら、教育委員会の人のようで、毎年数人、外国人の世話をしている人なんだそうです」
「なるほど。日本人じゃなかったんですね?」
「ええ、目下、なぜ彼が殺されなければいけなかったのか、彼の交友関係それから、あの場所に何か意味があったのかという点から捜査しています」
 ということだった。
 これだけの情報をくれたのは、警察の方としても、少しでも情報がほしいということで、西村に話をしたのだろう。ただの第一発見者に警察がここまで話をするのは、不思議な気もしたが、もし疑っているのだとしても、実際に自分と死んでいた外人とではまったく面識がないので、疑いようもないち思うと、却っておかしな気がした。
――それとも何か、それでも警察が自分を疑うだけの根拠のようなものがあるのだろうか?
 と考えたが、考えれば考えるほど共通点などあるはずがなかった。
「分かりました。被害者は外人だったんですね?」
「ええ、その通りです。しかも、日本に来てまだ間もないということもあり、何か動機を持った人がいるとも考えにくいので、交友関係自体を探るのもそこまで苦労はしないと思います。ただ、そうなると、衝動的な犯罪ということになり。捜査は逆に難しくなる。衝動的な殺人だとすれば、正直困ったものですね」
「ところで一つ聞きたいのですが?」
「はい?」
「結局死因は何だったんですか?」
「死因は紐状のもので締められたのが致命傷です。でも、その前に頭を強打しているので、それも見逃すことのできないことですね。相手を殴っておいて。その後で念のために絞め殺す。その犯人にとってこれは、衝動的な殺人ではあったんでしょうが、この男に何か狂暴なことがあるのを知っていて、復讐されるのが怖かったという考えもありますね」
 という意見を、
「これは私のあくまでも私見なんですが」
 という前置きをしながら話した。
「なるほど分かりました。でも僕は本当にただの第一発見者なので、それ以上のことは分かりませんよ」
 というと、
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次