小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

十五年目の真実

INDEX|20ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

「『目には目を、歯には歯を』という言葉があるけど、復讐って、それだけでは足りない気がするんだ。例えば、自分の肉親や恋人などが、殺されたとすると、復讐に燃える人は同じような殺し方では自分を満足させられない。なぜなら、これまで苦しんできたという思いがあるからで、最初の犯罪を一とすれば、復讐が二割増しになったりするんじゃないかな? それが成功すると、今度は相手がさらに二割増しの復讐を考える。負のスパイラルとは、次第にその輪を大きくしてしまうものであって、それだけにとどまるところを知らない。そこまで行っても、復讐が終わることはないんだ。なぜかというと、二割増しで行われた相手の復讐を相手は一だと思うからだよね。復讐者は、やられたことに対してすべて一だと思うから、二割増しを思いつくのさ。もし、負のスパイラルが、どんどんと増幅しているものだと最初から分かっていれば、果たして、一に対して一で満足できるだろうか? 満足できない復讐であれば、思いとどまる人も出てくるのではないか。それが負のスパイラルという復讐を終わらせられる唯一の方法なんだけど、それを意識してできるかということが問題になってくるんじゃないだろうか?」
 と西村は言った。
 その言葉を口にしながら、西村はまるえ自分に言い聞かせているかのようだった。
――確かに二割増しくらいにはなるわな――
 と考えながら話をしていたからだ。
 幸い今西村には、復讐による殺害など考える相手はいない。いくら父親が自分に対して絶望的な態度を示しているからと言って、復讐などという発想は浮かんでこない。
――あくまでもまだ、自分が子供だと思っているから、あんな態度を取るのではないか?
 という思いに駆られるからだった。
「一のまま、ずっと復讐が続けられていれば、どうなるんだろう?」
 と友達が言ったので、
「そうだなぁ、どこかで終わっていたとは思うけどね。人間には抑えることのできない感情があり、それを爆発させた行為が復讐なんだろうけど、その復讐を成し遂げると、その人がどうなってしまうかということで、ある程度決まるんじゃないかな? 人によっては、自分もそこで自害する人もいるだろうし、警察に捕まる人もいる。何しろ動機が一番あるのはその人だろうから、動機が判明した時点で、完全犯罪でもない限りは捕まるだろうね。つまりは、交換殺人がうまくいった時のような、信憑性が低い犯罪だね。そういう犯罪ってきっと犯罪計画だけではうまくいかないんだろうね。忠実に遂行していく中で、何かの偶然に恵まれたり、自分の予期せぬところで自分に有利な展開になってみたりというプラスアルファの何かがなければ、うまくいくものではないからね」
 と西村は自論を言った。
 ミステリー小説が友達も好きだったので、そこまで言えば、納得してくれているようだった。
 ただ、それは理屈に対して納得しているだけで、決して意見に対して納得しているわけではない。
 納得というよりも、
「理論的に話の内容が分かった」
 というだけで、自分がそれを容認できるかどうかは、別問題であろう。
 今度の下北が行った犯罪は、明らかに衝動的なものだった。
 いや、そもそも、これが殺人事件なんかどうなのかも、その時には分からなかった。
ひょっとしたら、殺したかも知れない」
 と言っているだけで、実際には戻ってみれば、殺害現場となるべき多目的トイレは使用中になっている。
 まさかそこに死体があれば、その場所を平気で使える人など誰もいないだろう。そうなると、警察に通報され、警察の捜査を見守る野次馬で、そのあたりは結構な人になるのではないか。そう思うと、不自然でしかなかった。
「下北君、君が夢でも見ていたんじゃないか?」
 と言いたくなるのも、冷静になって順序良く考えれば分かることだった。
 逆にいうと、それ以外の発想は、限りなくゼロに近いもので、それだけ不可解だったと言ってもいいだろう。
「下北君は、その男の顔を、配管のところに打ち付けたんだろう?」
 という西村に対して、
「ああ、その通りなんだ。だから、少しくらいの血痕が残っていても不思議はないんだけど、誰かがそれを拭きとったのかな?」
「もし、君が傷つけた相手が気絶していただけということで、その場を立ち去ったのであれば、意識は朦朧としているんだろうし、血を拭きとるのも意識がないかも知れないな」
 と西村がいうと、
「ひょっとしてあいつ、今意識が戻ったけど、朦朧としていて、すぐにその場から立ち去ることができず、もう少し落ち着くまで誰にも見られたくないと思って、自ら施錠しているんじゃないかな?」 
 と、下北は言った。
 その考えは、確かにありえることであるが、あくまでも都合よく考えられたことであって、西村も早い段階で、そのことも一度考えたのだが、話の内容から、死んでしまっていると思い込んでいたため、信憑性の低い考えであったが、よく考えてみると、この意見はこちらにとって都合のいいことではあるが、考えられないことでもないと思える。
 先ほど、復讐について考えていたこともあったこともあって、
「外人の男は死んでいる」
 と勝手に思い込んでしまっていた気がする。
 確かに意識が戻った、いわゆる蘇生したと考えると、意識は朦朧としていて、その場から普通に離れることがすぐにはできないと思うと、施錠して落ち着くのを待っているとも言えるだろう。
 彼は日本人ではなく、外人なのだ。外人というのはそれだけ何かあった時、日本人を信用できないと思うのではないだろうか。
 普段は馴れ馴れしい人であっても、別に慕っているわけではない。自分がうまく馴染めるようになるためにおべっかを使っているという風に思えるではないか。もっとも、下北が外人を嫌いなのは、そんなところが見え隠れしているところであった。
「やつの名前、グエン・ミン、何とかっていうらしいんだけど。実際には日本人に知り合いがいるようで、その人は角館俊二というらしいんだ」
 と、下北は言った。
「どうしてそんなことを知っているんだい?」
 と聞くと、
「彼の手帳に書いてあったんだ。きっと角館俊二という人が書いたんだろうね。まだの本後も話せないやつだったので、それくらいのことの説明くらいできないと何かあった時に困ると思ったんだろうね。それを手帳に書いたんだろう。やつを殴った時に胸のポケットからこぼれたのを、思わず触ってしまったので、しょうがないから持ってきてしまったんだ」
 という彼に、
「それはよかったかも知れない。やはり指紋が残っているものを残しておくのはまずいからね。君は指紋はふき取ったのかい?」
「ほとんど、どこにも触れていないんだ。でも、保木的トイレなんだから、下手に拭き取るよりも他の人の指紋と同じように残しておくという方がいいような気がしてね」
 という彼の意見ももっともな気がした。
 そういう意味では、手帳を持ってくるのは正解だったのかも知れない。

               殺害の欺瞞

「とりあえず、この話は俺とお前だけの胸に閉まっておこう。事件になっているわけでもないわけだから、下手に騒ぎ立てない方がいいからな」
 と西村がいうと、
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次