小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

十五年目の真実

INDEX|14ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

「そうなんですよ。可能性という意味ではありなのかも知れないんですが、この場合もいろいろと問題がある。そういう意味でいくと、死体を動かすこということは、かなりのリスクがあるということなんですね」
 と辰巳刑事が答えた。
 辰巳刑事は続けた。。
「ところで清水さん、死亡推定時刻からすると、かなりの時間が経っているということでしたが、確かにここは人通りも少なく、ラブホテルの客が車で出ていっても、カップルというのは、警察沙汰を嫌う場合があるので、見てみぬふりをしている場合もあるんじゃないですか? だから発見も遅れたのかも知れないし、実際に発見したのは、ホテルの客とは関係のない中学生の彼ですよね。ということは、犯人はそこまで計算してここに遺棄したということでしょうか?」
 という辰巳刑事に対し、
「それはありえるかも知れないな。死亡推定時刻から発見される今まであまりにも時間が経ちすぎている。一応公道なのだから、誰が通行していてもおかしくはない。それなのに五、六時間も放置されていたと考えるのは、少し非現実的だよね。そう考えると。さっきの鑑識さんの、殺害現場は別だったんじゃないかという理屈も成り立つわけだよな」
 と清水刑事は答えた。
「ところで第一発見者の西村君ですが、まだ何か聞いておくことありますか?」
 と辰巳刑事が言ったので、
「おっと、そうだった」
 と言って、清水刑事も我に返った。
 二人が事件の話に夢中になっていたこともそうだし、西村自身も他のことを考えていたということもあって、すっかり西村は忘れられた存在になっていた。
 それだけ西村という男は目立たない存在の薄い少年なのかも知れない。
 学校で苛められることがないのは、苛めっ子ほども存在感がないということを示しているのかも知れない。
 それがいいことなのか悪いことなのか分からなかったが、苛めに遭っていないということは悪いことではないことに違いはなかった。
 清水刑事は西村に寄ってきて、
「ああ、君。いろいろ話を訊いてすまなかったね。何か思い出したことでもあったかな?」
 と聞かれたが、
「いいえ、今のところはこんなところです」
 というだけで、
――第一発見者というのは、こんなものなのだろうか?
 と思ったが、最初はこんなものだろう。
 しかし、ミステリーファンの西村としては、気になるのは、
「捜査の原則は、第一発見者を疑え」
 ということであった。
 しかし、被害者と面識もない自分が疑われることはありえないと、西村はタカをくくっていた。
 実際に面識はないに等しいからだった。
 西村はそのまま解放され、急いで家に帰った。警察に尋問を受けていたので、家に帰りついたのは三時過ぎと、思ったよりも遅くなっていた。
「これじゃあ、普段とあまりかわりないじゃない」
 と思ったが、仕方のないことだった。
 家に帰ると母親はすでに夕飯の支度をしていて、この光景は今までとあまり変わらない姿だった。
 それを見ると、
――今までと変わらないということは、今までのいつが不倫だったのか分からないということでもあり、これからもきっと分からないんだろうな――
 と、今後も偶然が重ならない限り、不倫現場を見ることはないだろう。
 ということは、今後同じ光景を見ることは、よほど作為を弄しない限り難しいということで、その真意を確かめることも無理だと思った。なぜなら、二人の不倫を自ら作為を持ってまで、確かめようとは思わないということであった。
「ただいま」
 と言って、家に入ると、
「おかえり、遅かったわね」
 と言って、出迎えたその姿に驚きはないようだった。
「ああ、うん。ちょっと本屋に寄ってきたから」
 と言って、ごまかしたが、母親には死体を発見したことを話すつもりはなかった。
 あれこれ聞かれることはないとは思うが、今日はさすがに母親と話したいとは思わなかったからだ。
――余計なことを口走らないとも限らないからな――
 と思った。
 余計なこととは、もちろん不倫の話題であるが、その話になると、きっと長くなるのは必至だと思ったので、話そうとも思わなかった。もちろん、そのことを言えば、死体の話にもなるかも知れず、母親は話題を変えてくるかも知れない。
 さすがに今日は、人と長く話ができる気分ではないので、西村は何も言わずに自室に入った。
 これも普段と変わりのないことなので、母親も別に変わったリアクションを示すこともなかった。
 夕飯時間まで少し試験勉強をしていたが、いつもほど勉強に集中できなかった。いつもでさえなかなか集中できるまでには、時間がかかってしまうので、この日は余計に集中できないひだった。三時間は机に向かっていたはずだが、集中できた時間はその半分くらいではなかったか。椅子に座った瞬間、昼からの数時間が頭の中で反芻されていたが、咀嚼できずに頭の中で混乱していた。だから、前半の一時間半は、いつもよりも長く、後半の一時間半はあっという間だったような気がする。普段の三時間の勉強に比べれば、相当時間を費やした気分になっていたので、結構疲れた気がした。夕飯ができたという知らせを聞いた時、
「助かった」
 と思ったのも、今日みたいな日は集中しすぎると、えてしてその緊張感から抜けるまでにも時間がかかってしまうそうで、そういう意味では、ちょうどいい時間だったような気がする。
 呼ばれて助かったと思いながらリビングに向かうと、いつものようにテレビがついていて、食卓ができあがっていた。
 これまで母親のことを悪口しか書いてこなかったが、いつも西村は母親に対して腹を立てているわけではない。
 普段は普通に優しい、
「どこにでもいる母親」
 だった。
 その日も普段と変わらぬ笑顔で食卓を用意しているその姿を見ていると、数時間前に見た女性が、
――自分の見間違いだったんじゃないか?
 と思えるほどであり、不倫などありえないとも思わせた。
 そう思って、再度あの時目撃したことを思い出そうとすると、なぜか二人の顔がぼやけてきていることに気が付いた。
――自分の中で、否定しようとする気持ちがあるのかな?
 と感じていたが、あの時に見たカップルを、勝手に母親と先生だと思い込んでいただけなのかも知れないと思った。
 西村の思い込みの激しさはその時始まったわけではなく、小学生のことから感じていたことだった。それだけに我に返って考えると、
―ーやはり、思い込みの激しさから、違う人を見間違えたのだろうか?
 と思えてならなかった。
――一体、俺はどうかしちゃったんじゃないだろうか?
 そんな風に感じていた西村だった……。

              殺害への経過

 何かを見られたとしても、何も気にしない人と、異常に気にする人の二種類があることを知っている人がどれほどいるだろうか。そこには被害妄想であったり、猜疑心であったりが介在している。
 その二つの由来には嫉妬というものが絡んできていて、嫉妬心が気持ちを煽ることで見られたことがその人にとって、どのように作用するかが変わってくる。
 例えば、その人自身が誰かを監視していて、その様子を誰かに見られたと思うと、どんな気持ちになるだろう。相手は、
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次