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十五年目の真実

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 クラスでもその話題が持ち上がり、先生のことをみんなで無視するというやり方を取ったが、先生にはあまり通用しなかった。どんなに自分に靡かない生徒が、何をしようとも自分には関係ないということであろうか。
 伸びる生徒は自分がおだててすかして伸びさせて、伸びた分を自分の田柄のようにするが、堕ちていく人間は、もうどうでもいいという感じで、助けようともしない。下手に助けようとして、自分が被害でも被ったりすれば、目の当てられないと思っているに違いない。
 そんな先生のどこを尊敬しろというのか、見ていて惨めに感じるだけである。
 そういう意味で、先生と母親は、
「似た者同士」
 に見えた。
 さっき、二人の決定的瞬間を目の当たりにして、ショックを受けたと言ったが、実際にはそうではない。弱みを握ったことで、この秘密をしばらく自分の中だけで隠し持って行こうと思っていたので、犯罪ごときで、せっかくのおいしいチャンスを逃したくないという思いが強かった。
 この思いは父親に対してもあったことで、二倍のおいしい思いに感じられた。そもそも西村は父親のようを憎んでいた。昭和の匂いの残る父親に、その古臭さがどんなものか教えてやりたかったくらいだったのに、母親はそんな父親を見てみぬふりをして。それどころか、息子の味方をしようともしない。
 普通の家庭は、旦那よりも息子の肩を持ってくれるという話をよく聞くのに、うちは逆だった。父親の力に屈して、息子も丸め込もうとしているかのようだ。
――それとも、父親に対して何か弱みでもあるのか?
 と思っていたところに、今回の目撃である。
 それであれば話は分かる。父親に弱みを握られているわけではなく、後ろめたいのだ。
 ということは父親も知らないことだろう。知っていれば、あの父親のことだから、人目もはばからずに罵倒したり、暴力をふるうに決まっている。それをしないということは、この不倫は父親の知るところではないということであろう。
 西村は、父親も知らない秘密を持ったことで、母親には面と向かって。父親には隠しながら、弱みを握っていることを有頂天に感じていた。
 そのうちに母親や先生に対してのショックは薄れて行った。
「先生だって、別に聖人君子というわけでもない。魔が差したくらいにしか思っていないのかも知れない。どちらかが離さないとすれば、母親の方だろう。先生がどう思っているかは別にして、母親が先生にのめり込んでいるのかも知れないと感じた。
 先生は独身だけど、男である。母親は妻子がいるが、女性である。立場としては、どちらが強いのだろう? もし父親が知るところになれば、父親はきっと先生を責めるだろう。そして先生を責めた後、先生に慰謝料と、母親に離婚を迫るかも知れない。もし離婚ということになれば、どうなるのか、彼はそれ以上考えようとはしなかった。考えるだけ、余計だと思ったからである。
 父親がどういう性格なのか分かりかねていた。しかし、最近では分かってきたような気がする。
「世間体を憚って、離婚まではしないであろうか?」
 それとも、
「感情に任せて、世間体など関係なく、離婚に至るだろうか?」
 友達の家から帰るように言われた時も、相手がどうのではなかった。
「皆泊るって言っているのに」
 と言っても、
「よそはよそ、うちはうち」
 と言って聴かなかったという。
 そこから考えると、世間体など気にすることなく。離婚に踏み切るのは目に見えているような気がした。
 離婚に踏み切られると、自分も困ることになる。父親には母親の離婚を教えてはならない。それだけは分かっていることのようだった。
 そう考えていると、母親の不倫現場を見たということは、ショックではない。とりあえず、そのことは警察の事情聴取では黙っていなければいけないことだと思った。
 最初にここで二人の不倫現場を見てから、そろそろ一時間以上が経とうとしている。この間に臆病風に吹かれていた自分だったのに、いつの間にか、悪魔のような考えを持つことのできるもう一人の自分が現れた。いつもは表に出ているのが臆病な自分から、たまに出てくる、悪魔のような考えを持てる自分が、たまに本当の自分なのではないかと思うことがあるが、それを考える自分は、二人とは違う自分なのだろう。
 そんな自分は、きっと父親からの遺伝がもたらした人物だと思えてきた。
 母親の不倫現場を見たことで、母親に対しての怒りが次第に引いてきた。
――別にあんな小さい考えしか持っていない母親は、自分とは違うんだ――
 と、そう思うと、どのように母親を言いなりにしてしまおうか、楽しいになってきた。
 思わずほくそ笑んでしまいそうな気持ちを、刑事に気づかれないようにしないといけない。ここで、刑事に何か不信感を抱かせると、後々面倒になることは分かっているのだった。
 ただ、冷静になってから、さっきの母親と先生を思い出してみると、どちらもビクビクしていたように見えたのが不思議だった。
 確かに不倫なのだから、お互いに人目を気にしているのは分かる気がする。
 しかし、すぐ前を通りかかって、一瞬、どっちに隠れようか戸惑ってしまった自分に気づかなかったくらいだから、まわりを気にしているように見えて、その実上の空だったのかも知れない。
 不倫というものがどういうものなのか、まだ中学生に西村には分からなかったが、あそこまでビクビクするものだとは思わなかった。
 別にビクビクしているからと言って、まわりが本当に見えていないというのは、やはりおかしい。あの時の自分に気づかなかったのは、本当に上の空だったと思っても仕方のないことだと西村は感じていた。
 西村は二人の刑事が事件のことで話をしている間に、これだけのことを考えていたが、実際には、そんなに時間がかかっていないようだった。
 二人の刑事の話は、
「被害者の死体がどこかから運ばれたのではないか?」
 ということを議論しているようだった。
「死体を動かすというのはどういうことなんでしょうね?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「一般的に考えるのは、死体がその場所にあっては困る場合。例えばアリバイトリックか何かを使っているとすれば、死体がその場所にあっては困る場合。また、その場所にあることで自分が疑われると思った犯人が、移動させた場合。しかし、この場合はかなりの危険性がある。死体を動かすくらいなら、自分が殺す場所にいって犯行を犯せばいいのではないか。アリバイは別にしてだけどな。でも、それができないと考える場合、死体を遺棄した場所では人通りが多すぎて、殺害には適しないなどだけど、死体を運ぶ時に見られる可能性だってないとは限らない。やはり死体を動かすことはかなりの危険が伴うことになる」
 と、清水刑事が言った。
「私はもう一つ考えているんですが。共犯者がいて、その人が死体を運び出すというのもありではないですか?」
 と辰巳刑事が言った。
「それもありかも知れないけど、具体的にはどのようなものか、言えるかね?」
 と清水刑事に言われると、
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次