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十五年目の真実

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「顔色を見て、まずダメだと思いました。そして、身体がまったく動く様子がなかったので、身体が固まりかけているんじゃないかと思い、頬のあたりを、手の甲で触ってみました。もちろん、指紋を付けないようにするためです」
 というと、
「なかなか気を遣ってくれたようだね。それは助かったよ。それで冷たくなっているのが分かって、もうダメだって感じたんだね?」
「ええ、少し指の曲がるあたりで押してみると、硬くなっていたので、死後彫刻が始まりかけていたのかも知れないと思ったんです」
「ということは、この場所には一時間近くは少なくとも放置されていたということだろうね。この場所は寂しいところだけど、誰にも見つからないという保証があるわけではない。中途半端な場所ともいえるんだろうね」

               動く死体

「死亡したのはいつ頃だったんですか?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「ハッキリしたことは分からないが、今から五時間か、六時間前ということになると思うよ」
 と鑑識が言った。
「やはり死因は絞殺ですか?」
「それには違いないんだけど、絞殺される前に一度頭を殴られているようなんだ。それが犯人の仕業なのかは分からないが、頭を殴られて意識が朦朧としているところを紐で後ろから首を絞めたというところが正解なのかも知れないな」
「やはり首は後ろから絞められているわけですね」
「ええ、頭を殴っておいて、少し意識が朦朧としているところを絞め殺す。これは相手に恨みを深く持っている人間の仕業から、あるいは、女性や子供のように力のない人間でも確実に殺そうと考えてのことなのか、あるいは……」
 と言いかけたところで、
「そんなにあるんですか?」
 と辰巳刑事が聞いたので、鑑識も一瞬言葉が詰まったが、
「声が出ないような工夫の一つとして、このような念の入った殺し方をしたという考え方ですね」
 と続けた。
「なるほど、この三つであれば、考えられることですね。逆にいえば、そのうちのどれかのつもりでやったとしても、後の二つも意識をしないまでも成功しているということだから、一度相手の意識を朦朧とさせたとすれば、ありえる犯罪ですね」
 と辰巳刑事がいうと、あたりを捜索しながら二人の話を訊いていたもう一人の刑事が、腰を上げて、呟くように言った。
「それにしては、被害者を殴ったとされる石のようなものが、どこにも見つからないというのはどういうことだ?」
 言われてみれば、このあたりに人を殴れるような拳よりも大きいと思えるような石はおろか、この付近はほとんどが舗装されていて、田舎の寂しい道だとしか思っていなかったのに、舗装されていない場所がないくらいなので、小石すら見つけることは難しかった。
「そういえば、そうですね。清水刑事の言われる通りです」
 と、辰巳刑事は答えた。
 ということは、一緒に来たもう一人の刑事は清水刑事というのだと、西村は理解した。
「それともうひとつなんだけど、この被害者は髪の毛がかなり乱れているように見えるにも関わらず、近くに被害者の髪の毛が落ちている様子はないんだ」
 と清水刑事が言った。
「髪が乱れていると言っても、髪の毛が抜け落ちるとは限らないんじゃないですか?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「そうなんだけどね。でも、彼の衣服には、明らかに抜け落ちた毛がいくつも付着しているんだよ。おかしいと思わないかい?」
 という会話を聞いて、西村はドキッとしていた。
 その様子を二人の刑事は気付かぬかのように、していたが。
「確かにそうですね。石が見当たらないことをみても、考えられることというと一つしかないような気がしますね」
 と辰巳刑事は言った。
「どういうことになるのかな?」
 と、もう相手が分かっていることを感じているのか、ニコリとしながら、清水刑事は聞き返した。
「殺人現場はここではない? 殺されてここに運ばれて遺棄された?」
 というと、
「そうだね、そういうことになると思うんだけど、そうなると、またいろいろな疑問が出てくると思うんだ。まず一つは、なぜ放置する場所がここだったのかということだよね。ここは確かにすぐには見つかる場所ではないし、ラブホテルから出てくる人には発見されやすいのえはないかと思うんだが」
 と清水刑事がいうと、
「確かにここは今回、彼がたまたま近道をしたから見つけたんですよね。ラブホテルの客の場合は。ホテルという場所なのもあって、なるべく通報する人はいないと思ったんじゃないですか? それに、ここに来る人はほとんどが車の人が多いだろうから、特にインターが近いからね。徒歩で立ち寄る人もいるだろうけど珍しいですよね。車で立ち寄っている人から見れば、死んでいるかどうか分からないじゃないですか? なるべく早く立ち去りたいと思っている人たちだろうから、後ろめたさを感じているんでしょうね」
 と辰巳刑事は言った。
 それを聞いて、またしても、ドキッとしたのは西村だった。
 西村がドキッとしたのは、今回の会話の中に二つのことがあったからだ。
 一つは。
「殺人現場はここではない? 死体はどこかから運ばれてきた?」
 という疑問である。
 実は、違う意味で、二人の刑事と同じように、死体を動かしたということが気になっていたのだが、
――まさかこんなにも簡単に、刑事というのは、肝心なことに気づいてしまうものなのか――
 と感じていた。
 ミステリー小説などでは、結構早い段階で事件の核心をついているような話も少なくはないが、現実の捜査では、細かい物証や状況からの判断を積み重ねていき、犯人を追い詰めていくものだと思っていたので、この二人の刑事は、まさに、
「刑事をやりために生まれてきたような二人だ」
 と思えて、警察にもこんなコンビが本当にいるのかと感じさせられたものだった。
 それともう一つ西村が気になったのは、
「ラブホテルには、普通は車でくるものだ」
 という言葉だった。
 さっきの不倫の二人は、車を使っていなかった。だから表に出てきたところを西村に見られたのだ。西村が咄嗟に隠れたことでちょうど影になり、見つからなかったのは、お互いによかったのかも知れない。
 しかし、西村はハッキリと見たのだ、相手は気付いていないようだったが、この時点で西村は、
――俺は、母親や先生に対して絶対的な優位に立ったんだ――
 と感じていた。
 最初は不倫を目撃したことで、息子としてはショックだという思いがあったが、それよりも利用できるのであれば、利用しようと思ったのだ。
――何と言っても、憎らしい相手ではないか。俺に憎まれても仕方のない母親だし、普段からどうせ親父の言いなりになっているんだから、俺のいいなりにだってなるはずだろう――
 と感じていたのだった。
 その時の西村は、きっともう一人の邪悪な自分が出てきていることを意識していたが、それはあくまでも自分ではないと言い聞かせることで、正当性を保っていた。
 先生にしてもそうだ。
 西村は先生が嫌いだった。担任だった頃、見ていると、先生のいうことをよく聞く生徒にばかり贔屓して見ているような露骨なところがあった。
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次