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十五年目の真実

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 しばらく死体を意識しているあまり、まわりのことがまったく分からず、自分が今何をしているのか分からなくなりかけていたが、疲れてきたのか、少し眠気がさしてきた。そのおかげで少し落ち着くことができたのだが、その分、意識も朦朧としてきていた。警察を呼んだことすら、意識から離れていくくらいだった。
 そんな時、自転車に乗ってやってきた警官に声を掛けられ、ビクッとしたが、そこにいたのが警官だったことで、少し安心していた。
「こんなところに一人でいれば、気も滅入ってくるよね。ゆっくりでいいから、お話を聞かせてほしいんだ」
 と言われて、西村は、
「お話と言っても、別にはないですよ。通りかかったら、ここで死んでいる人を見つけたというだけですからね」
 と言って、わざとそっけない雰囲気にした。そっけない雰囲気を醸し出すことで、自分が警察を嫌いだと思わせると、警官も、余計なことは訊いてこないだろうなどという安直な考えであった。
「まあ、そう邪険にしなさんなって、ゆっくりでいいからね」
 と言ってくれたが、西村はその後にやってくる刑事の方がよほど怖かった。
――余計なことを口走らなければいいが――
 と思ったのだが、余計なこととは無論、母親と先生の不倫現場を目撃してしまったということである。
 よほど、自分の立場が危なくならない限り、そのことはこの事件とはまったくの無関係だから、話す必要はないのだ。
 ただ、西村が感じていたのは、もう一つ余計なことがあって、そっちを話さないようにしようと思うと、母親の不倫を口走ってしまうかも知れなかった。
 それは西村にとって許されることではなかった。そっちの方が分かってしまうことを思えば、母親の不倫くらいは何でもないことだった。
 そんなことを考えていると、遠くからパトカーの音が聞こえた。どうやらここに入ってくるようだということは、すぐに分かった。それは警官がソワソワし始めたからだ。
「もうすぐ刑事さんたちが来るので、僕に話さなかったことは、刑事さんに話せばいいよ。きっといろいろと聞いてくるかも知れないけど、事件解決にとって大切なことなので、君も申し訳ないけど、協力してくれないかな?」
 と言われて、
「はあ」
 としか答えることができなかったのは、西村にとって、無理もないことだったかも知れない。
 西村は自分の母親の不倫現場を見た次の瞬間、
「そこにあるはずのない死体」
 を見てしまったことですっかり気が動転してしまった。
――死体を見るくらい、何でもない――
 と自負していたことは誰にも話したことはなかったが。死体というものをこれほど不思議なものだという思いを感じたこともなかったのだった。
 ドラマや映画で見る殺害現場は、やたらと殺伐としているが、寂しさは画面からでも感じられた。
 まわりがこれだけ騒いでいるのに、その中心にいる人は微動だにせずに、ただ横たわっているだけなのだ。
 それは当たり前のことで、殺されたのだから、びくともしない。少しでも動けばこれほど恐ろしいことはなく、発見者というだけでも、かなりの恐怖を感じるのではないかと西村は思った。
――死体は、誰かに見つけられてよかったのだろうか?
 人から殺されたのであれば、その仇を取ってほしいと思うのだろうが、仇を取ってもらっても、その人が生き返るわけでもない。
 これほど虚しいものはなく、
――まさか、俺が死体を発見するなんて――
 と、そこには見つけてしまったことへの後悔のようなものが漲っていた。
 それにしても、西村はただの第一発見者なのに、どうしてそこまで怯えるのだろう?
 まさか、自分の母親と先生が共謀してこの男を殺したと言えなくもない。不倫していたわけではなく、ここで人を殺したのだということを考えないでもなかったが、
「それはありえない」
 とすぐに否定し、こんな風に感じたのは、母親と先生の不倫を自分が目撃してしまったことへの否定の気持ちが働いたからなのかも知れないと感じた。
 刑事さんは二人いて、一人は鑑識の人と一緒に現場検証を行っている人で、もう一人が西村のところにきて、事情を聴くという役割になっていた。
 だからと言って、最初は二人とも一緒に犯行現場を検証し、その後、二手に分かれるというわけだった。
 西村のところに来た刑事は、辰巳刑事という。警察手帳を提示され、その写真があまりにも真面目腐った表情に見えたのが、少しおかしかった。
「君が第一発見者の西村君だね?」
 と聞かれ、
「はい、そうです」
 と答えた。
 自分が西村という名前だということは、最初に到着した経験から聞いたのだろう。
「少し事情を話し手もらおうかな?」
 と言われて、西村はそれまでにない緊張感から身体が強張ってくるのを感じた。
「ええとですね。僕は中学二年生なんですけども、今は試験前ということで、学校も午前中までだったんです。それで、いつも自転車で通学しているんですが、今日は少し近道をしようと思ってここを通ったんでsy」
「ということは、普段はこの道は通らない?」
「ええ、普段のように夕方まで授業があれば帰りは暗くなっているんですよ。暗くなるとこのあたりは真っ暗になるだろうから、なるべく通らないようにしていたんです。それに、このあたりのホテル街に、真っ暗になって通りかかるのも嫌な気がしたので、普段はもっと明るい道を通って帰ります」
「なるほど、試験前で昼過ぎなので、明るいと思い、今なら大丈夫と思ったわけだ」
「ええ、そうです。それでここを通ったんですが、まさかそこに死体があるなんて思いもしませんから、ビックリして警察に連絡を入れたというわけなんですよ」
「そうだろうね。死体を発見するなんて、人生の中でそうあるものではないからね」
「ええ、気が動転していたんですが、とりあえずは警察に通報しなければと思って、電話しました」
「それは、ありがとうございます。ご協力には感謝いたします。さらに事情聴取迄受けていいただいたことはありがたいと思いますよ。ところで君はこの次第には触れていないと思っていいのかな?」
 と聞かれ、
「ええ、いいですよ。僕もまったく触っていません。現状保存が捜査にはどれほど大切なことなのかって分かっているつもりですからね」
 と、西村は言った。
「ここで死んでいるこの人、あなたはご存じないですかね?」
 と訊かれて。もう一度覗き込んだが、
「いいえ、知らない人です」
 というと、刑事は安心したように、頷いていたが、後ろの現場検証の中で、もう一人の刑事と、鑑識の人間が口論しているように聞こえてきた。少し声のトーンも上がってきていて、辰巳刑事はビックリしたように、後ろの様子を気にしていた。
「君はいつ頃このあたりに入ったんだね?」
「今から三十分ほど前だったかと思います。すぐに警察に通報しましたから、たぶんそのくらいだと思います。自分としてはもっと時間が経っていたように思ったのですが、錯覚ですね」
 と西村は言った。
「君はこの様子を見て。すぐに死んでいると思ったのかい?」
 と訊かれて、
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次