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十五年目の真実

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 そうなると、いくら第一容疑者としての動機があったとしても、鉄壁のアリバイが存在していれば、犯行は不可能。そこで自分は容疑者から外れることになるが、警察も一応、共犯の線も洗うであろう。実行犯が別にいると考えてのことであろうが、まさかその相手がまったく面識のない人出あるなどと、思いもしないだろう。せめて、利害が一致する相手しか、共犯としては考えないはずなので、それも当たり前のことである。
 そしてそんな人物は存在しないと分かると、そこで完全に自分は捜査線上の外に置かれることになる。
 一見、安全に見えるだろうが、ここからが難しい。
 まずお互いに完璧なアリバイを作っておく必要があるので、お互いの犯行は同じタイミングではまったく意味がない。
 ということは、犯行はまったく別のものだと思わせなければならず、連続殺人などとなると、下手をすれば交換殺人を疑われなくもない。これがまったく違う犯罪であれば、よもや交換殺人などという話を考える捜査陣もいないだろう。それでこそ完全犯罪というものだ。
 交換殺人の危険性は、トリックや犯行手順の不手際から考えられるようなものではなく、もっと奥の深い、精神的なところから派生してくるものである。
 何といっても、交換殺人で必要なものは、
「お互いに立場は対等である」
 ということが必要なのだ。
 どちらも相手と面識があるわけではない。ただ、自分の殺したい相手をその人がロボットのように実行犯として殺人をしてくれればそれだいいだけだった。
「自分も殺すから、あなたも殺して」
 というようなもので、そこに対等性が欠けてしまっては、犯罪自体が成り立たない。
 そうなると、交換殺人には致命的な問題があった。それは他でもない、
「殺人結構の時間的なずれ」
 から生じるものである。
 時間をずらすということは、絶対にどちらかが最初に犯行を犯すということであり、その犯罪が行われた時点で、実行犯は明らかな犯人、しかし主犯は、自分にはその時、鉄壁のアリバイが存在しているのである。アリバイがなければ、そもそも結構されない事件なので、殺人が行われたということは、主犯には完璧なアリバイがあるということで、そうなると、彼はその時点で、誰よりも有利な立場になっているのだ。
 死んでほしい人間はこの世から消えてくれた。そして、自分には鉄壁のアリバイがある。もし、実行犯が自首して、自分にそそのかされたと証言しても、鉄壁のアリバイや、それまでにお互いの関係をまったく誰にも知られないようにしていた下準備から、実行犯の言葉は虚しく響くだけだ。
 唯一可能性があるとすれば、実行犯と被害者の間に利害がないということになるのだろうが、それも衝動的な殺人だと言われれば、どうしようもないだろう。
 交換殺人の場合、殺害手段ややり方に凝る必要はない。むしろごく自然な犯罪であることの方が望ましいだろう。下手に難しくしてしまうと、そこに犯人の何か意図があるのではと探られてしまい、余計な先入観を捜査員に与えてしまう。それもあってはならないことだった。
 そうなると、実行犯の立場はますます悪くなり、主犯は鉄壁になってくる。つまりは、お互いの立場が明らかに天と地ほどの差になってしまうだろう。
 しかし、これが交換殺人であり、
「現実の犯罪としては考えにくいこと」
 となるのであろう。
 交換殺人を犯さなければならないほどの切羽詰まった事情があり、他に何も思い浮かばなかった場合にやってしまうということも考えられなくもないが、矛盾がどうしても残ってしまい、どうもうまくいくようには思えてこない。
 実行犯が捕まられれば、本当はそれが一番なのだろうが、それよりも、実行犯が捕まって、事件が一段落する方がいいのかも知れない。
 しかし、これは現状に表に出ている犯罪を考える上では、犯人として実行犯が捕まってくれる方が自分は安全だ。
 だが、捕まった実行犯はどうだろう?
 もし裁判で有罪が確定したとしても、普通の殺人で、しかも、動機がないということで、情状酌量の余地も十分に考えられることから、無期懲役や死刑になることはありえないだろう。
 そうなると、いずれその男は刑期を終えて出てくる。その時の二人の心境はどうだろう?
 服役から出てきた男としては、復讐に燃えているかも知れない。こちらが犯罪を犯さなければ、やつが今は滅亡していたかも知れないのに、自分だけがこんな目に遭った。そう簡単に見ずになど流せるはずもない。
 主犯の男の方はどうだろう? やはり実行犯の復讐を恐れているだろうか?
 いや、その可能性は低い。なぜなら、復讐が怖いと分かっているのであれば、最初から彼を裏切ったりはしないだろうからである。
 あのまま犯人が見つかることなく、迷宮入りさせようと思うはずで、それであれば、復讐もない。ただ、彼が死んでほしい人は相変わらずこの世に君臨していることになる。そちらを少しでも主犯がカバーできるかどうかが、ここから先にかかっていることだった。
 それが、交換殺人の危険なところと、そのシミュレーションであり、筋書きでもあったりする。
 しかし、交換殺人というのは、成功すれば、これ以上の完全犯罪はない。しかし、人間の心理から考えれば、現実の世界ではありえないのだ。立場が天と地との差になった時点で、すでに交換殺人は無理なのだ。よほど相手が状況を把握できないような人間であるか、そして自分が計画したのだとすれば、その計画に酔ってしまい、
「絶対に成功する」
 と考えている場合以外にはありえない。
 それでも自分に残っているのは、
「相手が殺してほしい相手を殺す実行犯になる」
 ということである。
 犯罪を犯す前に我に返って気付くであろう。このまま自分が計画を忠実に実行することが自分のためにならないということをである。
 何と言っても、交換殺人は、
「たいていの場合は高い確率で失敗するが、成功すればこれ以上完璧なことはない」
 と言えるのだ。
 何しろお互いにまったく面識のない人同士が、面識のない人を殺すのだ。しかもそれぞれの死んでほしい人が死んだ時には自分には完璧なアリバイがある。本当のアリバイなのだから、アリバイを崩すなどありえないのである。
 そんなミステリーを一度は書いてみたいと思っていた西村だったが、そんなことを考えているうちに、まさか自分が殺人の第一発見者になるなどと思ってもいなかっただろう。
 ただ、それは第一発見者というだけの意味で、他に別のことを考えていなかったというわけではない。
 ここでは、そのことに言及することはしないが、死体を見ても、最初はビックリして怯え切っていた様子だったが、シダに落ち着きを取り戻すと、別の意味での怖さを感じるようになっていた。
 その方がむしろ、犯罪としては強い感覚であり、やってくる刑事たちになんて説明すればいいのかを、一人で考えていた。目の前の少し離れたところには、死体が発見したままの状態で放置されている。
「早く、お巡りさん来ないかな?」
 と考えているその姿は、本当にただの中学生だった。
「君かな? 連絡をくれたのは」
作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次