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短編集114(過去作品)

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 母親はどうやら知っていたようだ。知っていて取り乱さなかったのは、せめてものプライドだったのか、それとも、自分の人生への情けなさを感じていたのかではないだろうか。
「タマゴが先か、ニワトリが先か」
 母親もこの言葉を口ずさんだことがあった。いつだったのか忘れていたが、ママさんから聞かされて、やっとそれが父の葬儀の時だったということを思い出した。あまりにも突飛な言動で、しかも、葬儀の間ほとんどは葉は無口だったので、聞き違いだと思い込んでいたのだ。
 母親は、緒方の性癖を知っていたのかも知れない。
 高校時代は、「ロリータ雑誌」を部屋に隠し持っていたことがあり、まさか息子にそんな性癖があるなど想像もしていないと思っていたから、厳重に隠していたわけでもない。
 見つかることが嫌なわけではなく、見られることの恥ずかしさが嫌なのだ。
「見ないで」
 従兄弟の恥ずかしい姿を見てしまったことで、それまで隠れていた性癖が顔を出した。父の死が、そんな緒方へどんな影響を与えたのか本人には分かっていない。
「私、若い頃に不倫していたの。自分の父親くらいの人だったのよね。その人にはおかしな性癖があって。幼い女の子を好むの。どうして私だったのか分からないんだけど、私って、結構内面と表に出るところにギャップがあると思っているの。だから、友達が私で試してみたかったというのも分かるのよね。あなたがこのお店に入ってきたのは偶然だけど、私にはそうは思えないの。あなたに懐かしいものを感じるのよ。その時に感じたのが、タマゴとニワトリのお話だったのね。パラドックスを逆説と言って、絶対に解明できないことのたとえのようだけど、それを偶然で片付けるのは簡単。でも、思っていれば出会えるものなのかも知れないわ。私はそう感じたの」
 ママさんのお話を聞いているうちに、母親の面影が見えてきた。幼い女の子に対してのイメージが母親のイメージと重なる時、包容力が今の自分に大切だと思った。
――出会うべくして出会った。やはり、同じ性癖を持つ父親が、子供のために立ち直るためのきっかけを作ってくれたんだ――
 と感じた。
 自分が志なかばで死んでしまったことで、彼女に別れを告げられなかったことでの惜別の念、そして、死の瞬間に気付いた自分の本性、父親の中にあった感情が、手に取るように分かる気がしていた……。
 自分の左右に鏡を置いて、永遠に写り続ける中のどこかに、父親が微笑んでいるのが目に浮かんでいた。次第に鏡が迫ってきて、狭くなる恐怖を感じながら・・・・・・。

                (  完  )


作品名:短編集114(過去作品) 作家名:森本晃次