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断捨離の果て

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 と思っている場合などは、なるべく本心を隠すくらいの気持ちで表情には出さないようにするだろう。
 なぜなら、自分が殺したと考えられてしまうからだった。だが、刑事の勘というのはなかなか鋭いもので、それくらいの感情はすぐにお見通し、それを分かっているからか。相手も右往左往、右を見ても左を見ても、敵だらけにしか見えないだろう。
 それも一種のジレンマだが、鳥飼が感じていたジレンマというのは何なのだろう。いまだ松本先生とコンタクトが取れていないことで、面会はかなわない状態だが、会えた時、鳥飼が殺されたと聞けば。どんなリアクションを取るだろう?
 イメージとしては、あまり騒ぐことはなく、顔にも驚きは見せない気がする。鳥飼と松本先生の間には、何か人は分からない何かがありそうに思うのだが。それは、人間同士の感覚ではなく、本能の力の強い、
「人間以外の同種の極み」
 というような感情が二人の間にあるような気がしていた。
「二人のことはまったく知らないはずなのに」
 と感じる。
「鳥飼という男はもうこの世にいないのだから、二度と話すことはできない。そして同じような思いを松本先生にも感じた気がする」
 この思いは。
「まさか、松本先生もこの世の人ではない?」
 と思えてならなかったからだ。
 これも勝手な思いであった。
 彼女が急に何かを思い出したかのように、
「ところで、皆さんは彼の部屋をごらんになったことがありますか?」
 というので、
「ええ、被害者の自宅を捜査するのも警察の仕事ですからね」
「じゃあ、あの殺風景なお部屋もご覧になったんでしょう?」
「ええ、まるで断捨離でもしたのではないかと思うような部屋だったですね」
 と辰巳刑事がいうと、
「断捨離? ああ、そういえばそんな感じだわ」
 と、彼女はその言葉を聞いて、不機嫌な気分になったようだ。
 そして、さらに続ける。
「あの部屋は彼の考えを象徴しているかのような部屋なのよ。余計なものは置いてないでしょう? 彼にとって余計なものって何? 何度も何度も彼女を取り換えて、私のことだって好きだったのかどうか分からない。彼はきっと、私たちが彼をフッたと思っているんでしょうけど、実はそうじゃない。彼の本心が見えたから。だから、彼の部屋を見た女性は必ず彼と別れることになる。それが分かっているのに、彼は必ず付き合っている女性をあの部屋に招くんですよ・そしてあの部屋で感じるんです。この人は自分の興味のあること以外は決して好きにはならない。だから、そのために余計なものは置いておらず、部屋に余裕もある。だから、彼に彼女ができるたびに、その趣味も微妙に変わっている。つまり彼が飽きっぽいということも、女性の勘で感じるんですよ。初めて入った部屋なのに、おかしいですよね」
 と彼女はいう。
「じゃあ、彼の部屋は、結構模様替えがされているということなんですか? 断捨離に見えるのはそれだけ彼が興味を持ったことに対してだけ、一生懸命になるという性格を裏付けていると思っていいということでしょうか?」
 と清水刑事が聞いた。
「ええ、少しニュアンス的に違っているような気がしますが、概ねそれでいいと思いますよ」
 と彼女は言った。
「断捨離という言葉で言い切るから、彼の性格が分からないのかも知れませんね」
 と辰巳刑事がいうと、
「ええ、ぁれは結構、押し付けがましいところがあるんです。好きになった相手は、自分のそういう考えを認めてくれるというような思いがあるんですよ。だから、女性はそんな彼の性格が見え隠れしているのに、疑惑の目を持って感じる。その思いが間違っていなかったことを、彼の部屋に行って感じるんです。自分たちも彼の趣味の中の一つでしかないということにですね」
 と彼女がいうと、
「でも、こういってしまうと失礼に当たるかも知れませんが、恋愛というのは、そういうところも多分にあるんじゃないかと思うんですが、違いますかね?」
 と辰巳刑事が訊ねるように聞いた。
「ええ、それは私たちにも分かっています。でも、彼の部屋の雰囲気は、お互いが平等ではないということを教えてくれるんです。男尊女卑のような精神が彼の中にあって、それが自分中心主義の彼の気持ちを掻き立てているということをね。だから、彼のような男性が女性と付き合ってはいけないんですよ。お互いに不幸になる。もし、彼が最後に何かのジレンマを感じていたのだとすれば、このことを感じていたのだと私は思いたい。いろいろ言いましたけど、私だって、彼のことを好きになった一人だし、正直まだ彼に気持ちがまったくなくなってしまったと言い切る自信がないくらいなんです」
 と言って、彼女は下を向いて、身体を震わせていた。
 どうやら、泣いているようだ。
「ところで、あなたは彼が死んだというのに、それを聞いた時、悲しそうに見えなかった気がしたんですが、何か彼が殺されることを予測でもされていたんですか?」
 と直球の質問を敢えてしたのは、清水刑事だった。
 今までの清水刑事にはこんな質問は珍しい。一気にする質問としては、明らかに順序が違っているような気がした。
 そもそも、今日は事情を軽く聞くだけのつもりだったはずなのに、清水刑事は何か感じるものがあったのだろうか?
「殺されたというのはビックリしましたけど、彼が死んだということに関しては。それほどビックリする感覚ではないです。これは彼に関係のあることではなく、私が勝手に思っていただけで、それを感じた理由があるとすれば、やっぱり彼の部屋を見た時ですかね。今から思うと、彼が自分の知を予感していたことが、あの部屋を殺風景にしたのではないかと思うんです。それこそ今刑事さんが言われたような『断捨離』という言葉を証明しているかのような気がするんですよ」
 と彼女が言った。
「あなたがいっている言葉に、私はウソを感じないんですよ。信憑性があるというか。彼があなたに乗り移って我々に何かを伝えてくれているような感覚さえあるんです」
 と辰巳刑事がいうと、いつもであれば、こんな表現をうまく制してくれる清水刑事からの反論がなかった。
 逆にそれを聞いて。
「あなたは。それについてどう感じますか?」
 と清水刑事は彼女に追い打ちをかけるかのように聞いた。
「そうですね。言われてみればですが、そうも思いますね。彼が死んだことに対して驚きがないのは、たぶん刑事さんも感じている疑問なんでしょうが、私は彼が自殺だったのではないかと思うんですよ。逆に自殺だと言われると納得できるんですよね」
 と言った。
「それは自殺をするだけの何か理由というか、雰囲気があったと理解するべきなのか、逆に人から殺されるわけはないという根拠のようなものがあるからなのか、どっちかなんでしょうかね?」
 と言われ、
「そのどちらもかも知れないですね。自殺する雰囲気も人から殺されるほどの理由もないこともありますが、誰かに殺されるくらいだったら、彼は自分から命を断つイメージが強いんです。だから、自殺だと言われると納得はしますが、誰かに殺されたというと、少し違和感があるんですよ」
 と彼女は答えた。
作品名:断捨離の果て 作家名:森本晃次