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断捨離の果て

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 その言葉がトラウマになり、今の自分が考える理不尽さの根底にあるものだということは最近気が付いた。
「先生の言うとおりにすればいいって何なんだ?」
 日頃から。自分で考えて何でもできるような人間にならなければいけないと言っていたではないか。それはウソだったのか?
 自分がした質問が、よほど先生の癪に障る話だったのか、そうでもなければ。ここまで投げやりで他人事のような怒り肩をするわけはないだろう。
 先生は自分の言葉の何を不満に感じたというのか、怒りを隠してまで……。
 人間には、一つや二つ、そんな言い合わしを感じることがあるものだ。それを感じたこともなく一生を終わることができる人間がどれほどいるというのか、この言葉を聞いて、そこが自分のターニングポイントになったとすれば、いくつそんなポイントがあるというのだろうか?

                身勝手さ

 鳥飼は、自分の興味のあることだけを中心に話をするので、自分と趣味の合う人とはすぐに仲良くなれるが、相手の話を訊かなかったりするので、相手が歩み寄ってくれているとしてもそのことに気づかぬまま、相手を不快な思いにさせて。嫌われるということが多い。
「あいつは二重人格だ」
 と言われることもあるが、正直そんなことはない。
 逆に分かりやすいと言ってくれる人が多くて、
「味方が多いが、敵も多い」
 と言われるだろう。
 中間はあまりおらず、敵か味方に別れるという不思議なタイプであった。
 さすがにどんなに味方がいたとしても、三割いればいい方だろう。そうなると敵が多いことになるが、鳥飼はそれでいいと思っている。
 清水刑事と辰巳刑事が捜査した段階でも、、敵か味方にハッキリと別れる知り合いの話を訊いていると、辰巳刑事などは、
「俺に似たところがあるのかも知れないな」
 と思うのだった。
 勧善懲悪であるということは、誰よりも辰巳刑事が自分で分かっていた。何よりの勧善懲悪というのが、自分にしか分からない感覚で、分かりやすいとまわりが思っているとすれば間違いだと思っている。それでも、辰巳刑事は鳥飼という男を、
「分かりやすい男」
 だと思っている。
 勧善懲悪以外にも自分に似たところがあるのではないかと思うのだった。
 鳥飼という男について聞かれた評判で共通しているのは。
「あいつは身勝手だからな」
 ということであった。
 自分が嫌だと思ったことは絶対にしようとはしない。完全に拒否している。
「でも、彼がわがままだっていうことではないんだよな」
 と、皆が頭を傾げていたが、それは彼に何か一定の評価らしきものを持っているからなのかも知れない。
「でも、これって彼のことを知っている人間でないと及びもつかない思いなんじゃないかって思うのよ。女性だからこんな風に思うのかしら?」
 と、一人の女性が言っていた。
 彼女は、一時期、鳥飼と付き合ったことがあると言っていた。
「話もよく合って、一緒にいてこれほど気が合う人はいないと思っていたし、一番安心できる人だったんです」
 と言っていた。
 彼女になろうと思うのであれば、それくらいの感覚を持っていて当然であり、逆にそれくらいの感覚を持っていなければ、彼女になろうなどと思いもしないだろう。
「でもね、すぐにそれが勘違いだって思ったんです。それは分かったという感覚ではなく、思ったと言った方がいいんだと思うんですが、その理由は、きっとすべてを分かっていて付き合っていたんだと思うからなんです」
「というのは、別れるかも知れないという思いを最初から抱いていたということですか?」
「それに近い感覚だとは思うんですが、やはり違いますね。鳥飼さんが見ていたのは私だけではなかったんですよ。かといって、他に好きな人がいたというわけでもないようなんだけど、何とも言えない感覚ね」
 と彼女は言った。
 さらに彼女は続けた。きっと彼のことを思い出したのが、一瞬なので、思い出した間にいってしまわないと、自分でも、二度とこんな感覚を味わうことができないのを寂しがっているからのようにも見えた。
「彼が誰かと付き合っても、また同じ感覚に相手の女性は陥ると思うの。そして、きっとまた次の人もって感じるんでしょうね」
 と、言った。
「そこまで分かっているというのもすごいっですよね」
「でもね。こうやって感じるでしょう? すぐに忘れてしまうのよ。下手をすれば。こうやって喋っているうちに、たった今何を考えていたのかということすら忘れてしまっているような感覚ね」
 という。
「それは少し大げさな感覚に思えるけど、、話を訊いているか限りでは、ウソではないとは思えるんだよな」
 と、辰巳刑事は言った。
「ただね、彼はいつも何かに悩んでいたの。ジレンマに陥っていたと思うんだけど、彼は悩んでいないと、彼ではないような気がしてくるんだけど、おかしな感覚よね」
「彼は何に悩んでいたんだろうね?」
「その時々で違っているとは思うんだけど、その悩みがどこから来るものなのか、私には分かりそうな気がするのよ。きっと、彼が悩んでいる姿を見ていると、私の中でそれが意識として残っているの。そしてきっとその日の夢に彼が出てきて、その結論を出してくれるように思うんだけど、目が覚めると覚えていないのよね。夢を見たという感覚はあるんだけど、それを思い出そうとすると、他のことを忘れてしまいそうで、怖いの。だから、夢から覚める時は、いつも気を落ち着かせるようにしながら、ゆっくりと目を覚ますことにすると、その時一瞬だけ幻を見るのよ」
「その幻というのは?」
「私が断崖絶壁の谷にかかっている吊り橋の上にいるのよ。どっちが前でどっちが後ろなのか分からない。どこから来てどこに行こうとしているのかが分からない。最初に見た前を見ると、鳥飼さんが、こちらを向いて手招きをしている。身体を捻らせるのが怖くて、そのまま首だけで反対側を見ると、そこにも彼が手招きをしているのよね。でも、明らかに違う彼なの。その時に、これが夢だって気付くんだけど、気付いた瞬間に、夢から覚めてしまうの。でも、そんな時に見た最後の場面だけは、目が覚めるにしたがって忘れていくということはないの。それが夢の続きだったのか分からないんだけど、私にこんな夢を見させる彼というのが、次第に怖くなっていって。最後に別れた原因はそんなところにあったんじゃないかって思うの」
 と彼女が言った。
 彼女の話は支離滅裂な感じを覚えたが、オカルト小説を読んでいるような感覚で聴いていると、実に斬新で、どうしてもウソには聞こえないのだ。
 もちろん、そんなオカルトめいた話があるわけでもなく、この感覚は、彼女の強い意志もかなりの部分で働いているのだろう。それを生かすかのように感じさせるのが、鳥飼という男の存在なのかも知れない。
 彼女に、
「鳥飼さんが殺されました」
 というと、
「あ、そう」
 というそっけない返事が返ってきた。
「こんなにそっけない返事、刑事さんも初めてなんじゃなくって?」
 と言われたが、初めてではなかったが、本当に稀であった。
 付き合っていた女性が、彼に裏切られたか何かで、
「いい気味だわ」
作品名:断捨離の果て 作家名:森本晃次