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断捨離の果て

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「交換殺人で裏切った方は、警察に対して絶対的な安全性を手に入れたわけだが、もう一人の犯人との関係はどうであろう? 自分がその男の目の上のたん瘤を殺してやったから得られた自由を守ろうとする。しかし、裏切られた方は、自分は殺人犯で、しかも、何の恨みもない人を殺したのだから、情状酌量などもない。動機のない殺人として調べられるだろう。当然警察に動機を訊かれて、交換殺人の話をしても、信じてもらえる確率は少ない。それでも信じてくれたとして、いくら捜査しても、交換殺人の証拠は見つからないだろう。何しろ、お互いに交換殺人を成功させるために、まったく連絡も取らなかっただろうし。証拠は隠滅されているはずだ。何か残っていたとしても、それは自分が不利になるものでしかない。いくら犯人を指摘しても、それは言い訳にしか聞こえない。逮捕されるということは、キチンと証拠も揃っているはずなので、どうしようもない。その証拠だって、裏切ったあいてが、でっちあげたものかも知れない。物証は残っていないとしても、証人くらいはでっちあげられる。死んでほしい人を殺したことで、いくらかでも財産が手に入る立場にいれば、証人の一人や二人、でっちあげるだけの買収用のお金だって手に入るというものだ。そうなると、十中八九実刑を食らうことになる。ただ、いくら凶悪犯として逮捕されても、懲役数年で出てくることになるだろう。裏切った方は今は安全でも、彼が出所する時のことまで考えているだろうか?」
 と、言って、少し言葉を切った。
「なるほど、さすが清水さん、なかなかの分析ですね。確かに言われてみると、警察に対しては安全だけど、恨みを買ったまま生きていることになりますからね」
「そうなんだ。そういう意味で行くと、ここからが、第二幕の始まりだと言ってもいいだろう。交換殺人は解決してしまってから第二段がまた問題になってくるわけだね。刑期を終えて出所してくると、きっと世の中は変わっているだろう。ひょっとすると、自分が交換殺人で依頼した人との関係はすでに切れているかも知れないし、彼が殺人犯で刑務所に入った時点で、関係は切れてしまったかも知れない。そうなると、刑務所の中で考えていたことは、自分を裏切った相手に対しての恨みだけではないだろうか。その男に対しての復讐をいかにして行うか、今度は彼としても、余計な計画を立てることはないだろう。ひょっとすると、相手と刺し違えてもいいとまで思っているかも知れない。もし、そう思っていたとすれば、これほど怖いことはない。裏切った方は、せっかく自由を手に入れたということで、人生を謳歌でもしていれば。相当な油断があるだろうし、今度はお互いの立場はまた違ったものになっているだろうね」
「なるほど、そうなってしまうと、数十年は長いのか短いのかを考えさせられますね」
「そうなんだ、その年月に対しての感覚の違いがそのまま、自覚の違いでもある。出所してきた方は、復讐に凝り固まっているし、裏切った方は、相手が逮捕されるまでは、不安もあっただろうが、逮捕されてしまうと、いつかは出所すると思っていても、まさか本当に復讐にくるとは思わないかも知れない。それだけ平和ボケしているんじゃないだろうか?」
「考えてみれば、本当に怖いですよね」
「だから、復讐者はきっと容赦はしないだろうと思う。復讐することだけを考えて生きてきたのだとすれば、この数年間は彼にとって、長いようで短かったはず。そして裏切った方は、短いようで長かったんだよ。そこが二人の運命の分かれ目だよね」
「でも、どんな理由があるにせよ。復讐なんて許されることではないですよね?」
 と辰巳刑事がいうと、
「案外辰巳君は、まともなことを言うんだね? 本当にそうなのかい?」
 と言われて辰巳刑事はドキッとした。
 清水刑事の方が冷静沈着で、復讐などというものは、いかなる理由があっても、認めることはできないと言わんばかりの人だと思っていたのに、この言い草はどういうことであろうか。
 辰巳刑事は清水刑事の表情をじっと見つめて何を考えているのか、探ってみた。
 その表情には何か不敵な笑みが浮かんでいて、そこから普段とは違う意味での余裕のようなものが感じられる気がした。気持ちの上では復讐者のような感覚になっているのだろうが、そこまで切羽詰まっているわけではないという気持ちが、清水刑事に余裕を与えるのあろうか。少なくとも今の清水刑事は復讐者の気持ちが乗り移ったかのようになっているようであった。

             ノアの箱舟

 鳥飼が殺されてから、三日が経っツ公園では、鳥飼の死体が放置されていた場所は立入禁止になっていた。現状保存が警察の仕事でもあり、公園自体も、半分は通れないようになっていた。
 何しろ表での殺人だっただけに、雨でも降って、現状が荒らしてしまうわけにはいかない。ビニールシートはもちろん、風にも飛ばされないように、足場もシートも厳重に施されていた。
 その公園は、住宅地の近くで、しかも線路のそばという比較的都会の様相を呈している場祖であるにも関わらず、結構広めに作られている。昼間は子供が主役の児童公園だが、早朝や、日が沈んでからは老人の散歩や、スポーツ選手のロードワークなどには最適で、よほどの森羅でもない限り、人が途絶えることのない場所だった。
 それなのに、犯人はよく誰に見られることもなく犯行に及ぶことができたのか。最初からこの場所を選んだこと自体で、これが計画犯罪であることに気付く人もいたであろうほど、この公園のことを知っている人は、ここで人殺しがあったことに対して、不思議に感じられたであろう。
 例の喫茶「ダンケルク」のマスターもこの公園は知っていて、
「あそこで殺しって、犯人は何を考えているんだろう?」
 ということをボソッと言っていたのを思い出したのだが、その言葉を忘れていたくらいに、マスターの言葉に違和感がなかったという証拠であろう。
 半分は公園が使えないとして、さすがに昼間の公園を訪れる人や、ここを遊び場にしている子供は、よそにいくことであろう。全面を使って遊ぶことが基本である子供は不自由な思いをするくらいなら最初から違う遊びをしていることだろう。いくらでも遊び方はあり、別にこの公園にこだわる必要はなかった。
 しかし、夜や早朝の散歩をする老人は、他に行けるほどの時間と体力は持ち合わせていない。少々小さくとも、他に行くことを思えば、ここに来るのが一番だった。ロードワークも同じで、コースを少し変えればいいだけで、公園をコースから外す必然性はどこにもない。
 ペットの散歩にしてもそうだ。
 基本、狭かろうが広かろうが、ペットがよほど嫌がらなければ別に狭くても関係はない。別にリードを外すわけでもないのだから、ペットには何ら関係のないことであった。
 朝、犬の散歩をさせるのが日課になっている一人の大学生がいた。
 彼は、家から離れて都会の大学に入学したのだが、最初は大学の近くに部屋を借りようとしたが、すでに遅かった。
作品名:断捨離の果て 作家名:森本晃次