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断捨離の果て

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「交換殺人というのは、そういう意味で、それぞれに時間を空ければ空けるほど、いいということでもある。ただ、それはあくまでも理論上のことで、そこに心理的な問題、いや精神的な問題というべきか。それが絡んでくると、少し話は違ってくる」
 という辰巳刑事に対し、
「それで?」
 と煽るような言い方をした清水刑事だが、清水刑事がこういう風に聞くということは、彼には大体辰巳刑事が何を言いたいのか、ほぼほぼ分かっている証拠である。
 ひょっとすると、最後まで言いたいことのすべてを分かっているのかも知れない。
 清水刑事と辰巳刑事の関係の神髄はそういうところにある。
 相手が何を言いたいのかを言わせるのがうまく、先読みできるのが清水刑事であり、自分から意見を言いたいという思いが強く、それを引き出してくれる清水刑事に敬意を表しているのが、辰巳刑事であった。
 彼らが、
「名コンビ」
 と言われ、ずっとコンビ解消にならない理由はそこにあった。
「つまりですね。普通の殺人では、犯罪を犯す実行犯と、犯罪を犯すことによって得るメリットがある人というのは、基本的には同一人物であるか、血縁縁者などのような、かなり深い関係でなければならないですよね。稀には脅迫されて殺人を行うなどの例もありますが、ここではややこしくなるので、除外しましょう。でも、交換殺人の場合はそれがお互いにタスキを掛けたような形になるので、それぞれの立場があくまでも対等でなければいけないわけですよ」
「うんうん」
 清水刑事も辰巳刑事が何を言いたいのか、次第に分かってきたが、その状態を維持しながら、前のめりで話を訊いている。
「でもですね。もし、相手が自分の望み通りに自分が殺してほしい人を殺してくれて。自分に完璧なアリバイを作ってくれたとすれば、どうなります? これは今度は僕の立場になっての話なんですけどね」
 と清水刑事に訊いた。
「そりゃあ。もう何もしないだろうね。今の君の話にあったように、二人は対等ではなくなったわけですからね。相手が自分の利害のある人を殺してくれたことを幸いに、そこから先は何もしなければ、自分の完全犯罪ですよ。自分には完璧なアリバイがあるのをこれ幸いに、一番優位な立場にいるわけです。相手は逆に追い詰められた感じだよね。なぜなら、まったく恨みも何もない相手を殺したわけだから、もし捕まっても情状酌量の余地もない。もし、これを交換殺人だと言ったとしても、捜査員はそんな言葉は戯言だとしか思わない。実際に起きることはないと思っているし、何よりも、その男がやったことにはアリバイもなければ、他に犯人もいない。そうなってしまうよね?」
 と清水刑事はいうと、
「ええ、その通りです。つまり、交換殺人は対等の立場でなければ成り立たない。相手が殺人をしてくれれば、もう自分がしなくてはならない義理はあるかも知れないが、あくまでも義理であり、義務はないということですよ。相手に梯子に上らせて、その梯子を取り外すと、降りてくることができないという理屈と一緒ですね」
 と辰巳刑事は言った。
「要するに、相手を有利にするために、自分が利用されただけだということだよね?」
「ええ、その通りです。相手も、こんなにおいしい立場になっているのだから、もうここからは余計なことをする必要はない。最初から二人の関係はお互いに隠し通してきたわけだから、いまさら何を言っても誰も信用してはくれない。だか、交換殺人は失敗するんですよ。これは普通の共犯でもなく、誰が見ても単独犯でなければいけないように装うのが一番のミソだということです」
「殺人犯は、決して許してはいけないし、殺人に情状酌量などはないとしても、ここでの立場で裁判をするとすれば、相手に罪を着せるのと同じ意味で、殺してもらった方は地獄行き、騙された方は、恨みを持ったまま苦しむことになるという。どちらにもいいことのない運命が待っているような気がしますね」
「お互いにいいことないよな。失敗すると、本当にろくなことはない。しかも成功する確率はほぼないしな」
「ええ、立場が対等ではなくなった瞬間から、交換殺人は終わりないです」
「なるほど、この犯罪はお互いの関係性で成り立つ殺人とも言えるわけだな」
「その通りです。それに、交換殺人を見ていると、他の犯罪の教訓にもなるんですよ。例えば他に共犯を持てば、その共犯が多ければ多いほど、相手に裏切られやすいとも言える。共犯が三人いるとすると、相手が全部グルになって。自分だけが悪者にされてしまうことだってないとは言えない。犯人が一人で、自分が犯人ではないと言っている人の中には、本当に冤罪であり、共犯者に裏切られた人というのもいるかも知れないですね」
「そうだね、そう思うと、普通の殺人でも、共犯と主犯はそれぞれの立場で、対等でなければいけないということだろうね」
「というと?」
「主犯と共犯というと、まるで社長と社員のようなものだとすれば。社長は社員に仕事をしてもらう代わりに、給料を保証し、逆に社員は給料を保証してもらった代わりに、仕事で奉仕するという関係。それは、それぞれで主と従なのかも知れないけど、お互いにタイ島ともいえる立場でもある。そういう意味で、主犯と共犯もその関係性が壊れると、裏切った方は裏切られた人を身代わりにして、自分が表に出ないようにすることだって可能なんだ。何しろ、共犯しか主犯の犯罪を知らないし。動機も知らない。裏切ろうと思うと簡単なのだろうが、お互いの関係を崩すことが、自分を絶対に安全にできるかというと、難しいよね」
「なるほど、そうですよね。交換殺人で相手が自分の殺してほしい人を殺してくれれば、その瞬間に自分が絶対に安全になるわけだ。逆にこの時以外、安全な時はありえないわけだ」
「そういうことだ。だけど、これはあくまでも警察に捕まるという意味で、主犯を裏切ることで自分が安全だということになる。これをもっとリアルに考えると、少し違った見え方が出てくるんだよ」
 と清水刑事が今度は、衆道系を握ってきた。
 さらに清水刑事は続ける。
作品名:断捨離の果て 作家名:森本晃次