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断捨離の果て

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「そんなに固く考えないでいいんじゃないですか? それは二重人格というものが悪いものだという固定観念のようなものが自分の中にあるからではないでしょうか? それは逆にいえば、もう一人の自分の否定。否定しようということは、もう一人の自分の存在を意識していて、それでいて、逃れられないと思っている。逃れられないのではなく、守ってもらっていると思えれば。気が楽になるんだと思うけど、きっと清水さんは、そういう考えに至ることのできない人なんだって、私は感じました」
 と、辰巳刑事は言った。
「辰巳君のような考えになれれば、気も楽なのかも知れないな」
 と清水刑事がいうと、辰巳刑事はまたしても苦虫を?み潰したかのように、苦笑いを浮かべながら、
「なれますよ」
 と一言呟くように言った。
 断捨離というものに、今までほとんど縁がない辰巳と清水は、お互いに何も知らないことを、ああでもないこうでもないと言って詮索しても始めあらないことはわかっていた。確かに二重人格という線から見てみるという方法もあるのだが、どうしても二重人格とものを捨てる、整理整頓とは結び付かなかったことで、断念した。
 二人はこの部屋をそれ以上見ても何もないような気がした。ただ、何か殺風景なためか、部屋がやたらと狭く感じられる。普通であれば、荷物が少ないと部屋が広く感じられるものだが、それがなぜなのか、最初は分からなかった。
 すると、
「あっ」
 と辰巳刑事が何かに気付いたようだ。
「この部屋には、ビジュアル系のものが何もないんだ」
 と言った、
「ビジュアル系?」
「ええ、そういう言葉があるのかどうなのか分かりませんが、写真であったり、アートに繋がるようなものが何もないんですよ。ポスターもカレンダーも何もない。だから殺風景な気がしたんですね」
 と言われて、改めて清水刑事がまわりを見渡したが、なるほど、カレンダーの一つもない。
 机はあるが、卓上カレンダーもない。もっと言えば時計もなかった。
「人間がクラス部屋とは思えないな」
 壁には何も貼っておらず、白い壁紙が四方にあるだけだった。窓際に机があり、机の上に、似十冊くらいの文庫本が置かれていた。その横には本棚があり、本が所狭しと並んでいた。
 いかにも、
「書斎」
 という部屋であるが、やはり整えられているというよりも、何もないと言った方がいいだろう。白壁が大きすぎれば大きいほど、部屋が狭く感じられる。圧迫させる雰囲気に息を呑まれる感覚だが、ここまで何もなくて、殺風景であると、断捨離をしたというよりも、最初から何もなかったと考える方がいいのかも知れない。

                      犯罪談義

 本棚にある本を見ていると、何か心理学の本が数冊あった。それ以外というと、ほとんどが歴史に関係する本であり、文庫本の数冊が小説関係の本だった。
「堅苦しい本ばかりかと思ったけど、小説なんかも読むんだな」
 と清水刑事は言った。
 その小説は、昔の探偵小説で、大正末期から、昭和初期の探偵小説の黎明期のものであった。
「いやあ、懐かしいな」
 と辰巳刑事はその探偵小説を見て、懐かしがっている。
「これらは、高校時代に読み漁りましたよ」
 と言った。
「私もこれらは、大学に入って読んだかな? 少し遅いかと思ったけど、意外と大人が読んでも感じるものがあったよ」
 と清水刑事が言った。
「僕の場合は、時代背景が古いので、想像力を掻き立てることができるので、それだけ大げさに想像できたようなんです。特に戦前の話というのは、時々ドラマや映画では見ていたので、情景が浮かんでくるようでね。しかも、その時代の服も結構好きだったりするんです。意外と今着て居たら、トレンディだったりしないですかね?」
「そんなものかな? でも、私はちょっと違った目で見るんだ。私は時代背景にある歴史を感じながら読んでいると、昭和初期の動乱と、軍が関与している犯罪などを考えたりすると、結構違った意味で想像力が豊かになる気がするんだ」
 二人は、探偵小説談義に花を咲かせているようだった。
「当時の小説は、猟奇的な話が多かったり、どこかサスペンスタッチなものが多かったりするんじゃないかって思うんですよ。私立探偵が活躍する話には、そういう時代背景が多いですからね。結構格好良かったりするんでしょうね」
 と辰巳刑事はいうと、
「辰巳君は、猟奇的な話が好きなのかな?」
 と清水刑事に訊かれて、
「やっぱり、現代との違いを、猟奇的なところに求めるのは、自分が刑事になったからだという感覚はあるかも知れないですね」
「じゃあ、君は謎解きやトリックなどを駆使したいわゆる『本格探偵小説』というのをどう思うね?」
 と訊かれて、
「嫌いではないですよ。むしろ好きな部類ですよ。高校の頃などは、探偵小説が好きな仲間が集まって、トリックや謎解きを自分たちで考えたりしていたものですよ」
 と辰巳刑事がいうと。
「とことで、まだ黎明期だというのに、同時であっても、すでにトリックのネタは出尽くしていると言われているのを知っていたかい?」
「ええ、当時の売れっ子作家の一人が、評論の中で書いていることですよね。殺人や殺害方法にもいろいろあるけど、基本的なものは、ほぼ出尽くしているという考え方ですよね?」
「ああ、そういうことだ。先にいっておくが、これはあくまでも探偵小説の話だから、フィクションだということにしてだな。トリックの種類を並べてみようか?」
 といきなり、清水刑事の頭は探偵小説に入ってしまったようだ。
 辰巳刑事もこういう話は嫌いではないので、こういう話ができるのも、願ったり叶ったりというところであるが、清水刑事も結構しているということで覚悟してかからねばなるまい。
 辰巳刑事は少し考えてみた。
「それは、アリバイトリックとか、密室トリックというやつですか?」
「ああ、そうだ」
「分かりました。じゃあ、まず今のアリバイトリックに、密室トリックでしょう? あとは一人二役のトリックに、顔のない死体のトリック。あとは、探偵小説にしかありえないことであるが、叙述トリックなるものでしょうね」
 と辰巳刑事はすぐに浮かんできたトリックを並べてみた。
「なるほど、ほとんど網羅されていることだよね。ところでこの中でそれぞれに分類できるとすれば、どれとどれで分類できるかな?」
「例えば?」
「例えば、そうだな、密室や顔のない死体のトリックは、最初から早い段階で分かっていないと話にならない。つまりは、謎解きだよね。でも一人二役の場合は最後まで隠しておかなければならないトリックになる。つまり、一人二役だと分かった時点で、犯人も動機もすべて分かってしまうということだね。さらに、密室などは、アリバイトリックに遣われたり、顔のない死体のトリックは、被害者と犯人が入れ替わっているという公式が成り立つかどうかということこがミソだった李するね」
 と清水刑事はいった。
作品名:断捨離の果て 作家名:森本晃次