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短編集113(過去作品)

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 顔が学生時代から変わっていない。何も考えずに過ごしてきたことの反動であろうか。きっと、そんな状況に陥ると、思い切り老けてしまうか、まったく変わらないかのどちらかではないかと思えてならない。
「相手の気持ちも次第に分かってきたわ。そう、車の運転と同じで、気がつけば慣れてしまっている。悲しいことなのかも知れないわね。でも、そんな時に知り合った男性がいたの。彼は私の身体の異変に気がついてくれて、入院をさせてくれたわ。そして毎日のように見舞いに来てくれた」
「その人が気に入ってしまったの?」
「そうね。愛人契約を結んでいた人との契約では、他に男性と付き合ってはいけないということはなかったので、次第に惹かれていったのも事実かもね。彼も私の立場を分かってくれていたし。それに入院生活って、寂しさからか臆病になるのよ。どうしてもそばにいて支えてくれる人しか見えてこなくなるものね」
「よかったじゃないか」
「ええ、彼とは退院してから正式に付き合い始めたの。でもね、またすぐに身体を壊して再度入院したの。最初は同じような現象だったんだけど、入院して治療を受けていると違ったのね」
「どういうことだい?」
「鬱病だって言われたわ。最初は彼がいることでとても安心感があったんだけど、でも、自分のやっていることを冷静に考えると、自分を許せなくなるのね。そしてまわりが次第に見えなくなる」
「……」
「電車に乗っていて、ブラインドを誰かが下ろすと気になるの。とにかく周りが見えていないと安心しないの」
 それは木下と同じではないか。
「いつ頃からだい?」
「そうね。あなたと一緒にいる頃からかしら。それまではあまり意識がなかったんだけどね」
 その言葉を聞いて、愕然としたとともに、今まで感じていなかったはずのことに気がついてくる。
 そして、自分に関わった人たちがひょっとして自分の気付かないところで、大きな影響を与えていることを初めて知った。自分はまわりの影響を受けてきて、そしてまわりに馴染んできたと思っていたが、意外とまわりが自分に近づいてきたのかも知れない。
 そう考えると、自分のまわりの世界が狭まってきていることに恐怖を感じていた。
 ブラインドでまわりが見えないのが怖いのは、狭まってきている世界を薄々感じていて、それを認めたくない自分がいるからに違いない……。

                (  完  )

作品名:短編集113(過去作品) 作家名:森本晃次