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短編集113(過去作品)

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 最初は、全体的にこじんまりとした佇まいに見えるのではないかと想像していた。小さい頃に見たものを大人になって久しぶりに見ると、全体的な景色がこじんまりと見えるからだったが、それは自分自身が小さいからしょうがないといえばしょうがないことでもあった。
 慣れているはずの一人旅だったが、一人旅の目的は、友達を増やすことでもあった。それが女性であれば最高で、しかも旅の恥は掻き捨てという気持ちがあるので、気分が多少大きくなっている。今までの旅行の目的のほとんどが女性と知り合いたいと思うことだったといっても過言ではない。
 邪な感情だったかも知れない。知り合った女性も何人かいるが、知り合って友達にはなっても、それ以上の進展はない。
 平山はそれでもいいと思っている。元々の目的は旅行であって、ナンパではない。その気持ちがあるから、友達でもいいのだった。
 おかしな心境であった。だが、これも平山の性格である。
――ところどころに伏線を引いておく――
 それで傷ついたりショックを受けるのを最小限に食い止めたいと考えていた。
 消極的な考えであるが、それも仕方がないのかも知れない。冒険を嫌い、着実な人生を歩むのは、親からの遺伝だと思っていた。
 父親は一般サラリーマンで、会社では課長代理の職についている。
「俺はきっと行っても課長どまりだからな」
 酔って帰っては、そんなことを口にすることもあった。普段は無口な父親がたまに酒を呑むとこうなる。
「はいはい、分かりました。早く奥で寝てください」
 いなすように母親に促されて、素直に奥に引き込む。小心者の典型的な姿なのだろうが、母親も慣れたものだ。逆らうことなく、しかも適当にいなしていれば相手も素直に従ってくれる。これほど扱いやすいタイプもないのだろう。
「お父さんのどこを気に入ったの?」
 母親に聞いたこともあった。
「そうねぇ、子供のように純情なところかしら?」
 と言って微笑んでいたが、本音は違うところにあるのかも知れない。あれこれ考えたくないのも母親の性格で、だからこそ、父親の操縦にも長けているに違いない。
 そういえば、母親からあまり叱られた記憶はない。
――いつも優しいお母さん――
 というイメージが強い。だが、こういう人ほど怒らせると怖いものだ。なるべく怒らせないようにしないといけないと思い、普段からビクビクしていた。
――僕も小心者なんだろうな――
 と考えるようになってから、父親の遺伝を意識し始めたのであった。
 小心者のくせに下心があると、結構顔に出るものなのかも知れない。だから知り合うことはあっても、それ以上深い仲になることがあまりなかったのだろう。
 かといって、まったくなかったわけではない。
 大学一年生の時の夏休み、知り合った女の子がいた。
 その時はすでに旅先で一人男の友達ができていて、彼女からは普通に友達同士での旅行のように写っていたことだろう。
 まだ彼女は高校三年生だった。
「学校で補習があったのかい?」
 知り合った相手は饒舌である。質問は彼がほとんどしていた。もし彼と知り合っていなかったら、この娘とも知り合っていなかったに違いない。
――これも何かの縁だ――
 と感じたものだった。
「補習といえば補習ですね。でも、私は高校を卒業すると、大学には行かずに就職することにしているんですよ」
 微笑んだ顔があどけなくて可愛い。
 制服に包まれた身体はポッチャリとしていて、普段着であれば、少し太めに見えるだろう。学生服はあまり意識させることがないだけに、平山には眩しかった。
 平山は、中学高校と男子校だった。それだけに制服にはコンプレックスのようなものがある。
 女性に興味を持ち始めるのが遅かった平山は、男子校に行ったことを後悔していた。
「もし、男女共学の学校に通っていれば」
 その先に、
「彼女ができていたに違いない」
 と言いたいのだが言えないのも小心者の表れであろう。
 だが、ある意味男子校でよかったのかも知れない。小心者の平山に対して多くの女性は興味も示さないだろうし、何よりも自分のまわりに女性にもてる男がいるだろうことが耐えられるかどうか自信がなかった。
 小心者のくせに羨ましい人の存在が疎ましくて仕方がない。自分にできないことをできる人が羨ましく、そのことでさらに賞を受けている姿など、まともに見れたものではない。部活の全国大会への出場が決まった連中の壮行会などが学校を挙げて行われるが、果たして皆本当に手放しで応援できる心境にあるのかどうか、信じられなかった。
――いや、小心者だからこその性格なのかも知れない――
 言ってみれば救いようのない性格ではないだろうか。
――だが、自分が望んだものではない。これだって父親からの遺伝なのだ――
 と思ってしまうのは逃げの心境に違いない。
 だからこそ、暗かった中学高校時代の自分がいたことを意識する。
――大学に入ったら変わるんだ――
 という意識がそのまま生きている。
 大学に入って、今までの自分を一新したかった。実際に一新しているはずである。友達も増えたし、まわりは高校の頃までの自分を知らない人が多い。中には知っている人もいるが、意識して付き合うようにしなければいいだけである。
 一人旅もそんな気持ちの表れであろう。そして何といっても高校時代までの自分との完全なる訣別を意味していたのである。
 大学に入ってから知り合う女の子は、皆垢抜けている。ほとんどの女の子が高校時代物静かなタイプだったに違いないと思うと、まるで自分を思い出す。
――自分を変えたい――
 と思っているに違いない。それだけに相手に敬意を表する意味で、以前のことを想像するのはルール違反のようにさえ思えた。
 旅先で知り合ったあどけない高校生の女の子、
――高校時代に知り合っていたら、本当に知り合えただろうか――
 本当は高校時代に知り合いたかったという思いの方が強い。だが、お互い物静かな高校生であるとなかなかその場の雰囲気を想像できない。皆無と言ってもいいくらいだ。相手も大学生相手なので、少し警戒するはずだと思うのだが、それがないということは、平山と知り合った相手の二人は、彼女から信用されていると思っていた。
 会話は他愛もないもので、どんな会話だったかはほとんど覚えていない。連絡先を教えあってその場は別れたのだが、平山は連絡するのに少し間をおこうと思っていた。
 理由があるわけではなかったが、いきなりよりもインパクトがあるのかも知れないと感じただけだった。
 だが、平山よりも知り合った相手の方が行動力には長けていた。彼は帰ってから連絡をしたのではなく、何とその日の夜にさっそく電話を入れてみたようだ。
 もちろん、昼間話をしてくれたお礼が主旨だったのだが、彼の誠意は十分に伝わっていた。
 もっとも彼はもう少し垢抜けた女性が好きなタイプで、最初から彼女に興味があったかどうかは定かではない。
 しばらく二人の間でメール交換のようなものが続いていたようだった。
 平山が初めて連絡したのが知り合ってから三ヵ月後だった。
――忘れた頃くらいの方がインパクトがあるよな――
 中途半端な下心だった。
作品名:短編集113(過去作品) 作家名:森本晃次