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未解決のわけ

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 青葉、ホトトギス、初ガツオと三つも入っていて、しかも最初は六文字と、字あまりまでしている作品である。このような作品も名句として存在しているのだから、俳句というのは面白いものだ。
 とはいえ、何でもありというわけでもなく、ある程度の法則は網羅していなければいけない。それが感覚的なことであっても、それはしょうがないこと。そんな俳句を、
「楽しいものとして紹介することは、教授するということよりも気楽なことであり、広く楽しむことを布教するという意味で、まるで伝道師にでもなったかのようで、実に楽しい気分になっていた。
 そんな俳句も、さらには、昔でいうところの「うた」である短歌などは、もっと昔から、いわゆる平安貴族の教養、あるいは遊びとして親しまれてきたものだ。
 平安貴族などの短歌の場合は、恋愛であったり、叙情的なところであったりと、心の内面を描いたものに対して、俳句の場合は、どちらかというと自然と戯れることで出来上がった文学のように感じる。
 もちろん、そればかりだとは限らないが、有名な句を考えて比較してみると、そうとしか思えない感じがする。
 俳句というものを生徒に教えるというよりも、
「一緒に楽しむ」
 という方が誰にとっても楽しいはずだ。
 時間と予算が許せば、表に出て吟行会を開くのもいいのだろうが、何しろ、時間が夜なので、漆黒の闇での吟行は、少し無茶というものである。それでも吟行に出なくても、想像でできるようになれば、それはそれで素晴らしいことだ。そう感じた若狭教授は、ゆっくりとお茶を飲んだりしながらの教室は問題ないとした。
 コーヒーの人も最初はいたが、さすが俳句に親しみたいと思っている人だけに、次の日からはほとんどの人がお茶にするようになった。
 飲みながらだと、いいアイデアが浮かぶのか、俳句を作る時間になると、結構いい作品が皆思い浮かんでいるようだった。
「やはり俳句は楽しいものだ」
 と、若狭教授は感じていた。
 若狭教授の教室に、来ていた一人の奥さんが、ここ数日顔を出していない。その主婦は、後になって、
「誰かと不倫をしていたのではないか?」
 というウワサが流れたが、実際に出てきた男性の名前は一致していなかった。
 それだけに奥さんの不倫というのも、根も葉もないウワサとして信憑性のないものに落ち込んでしまったが、果たして真実はどうなのだろうか?

                  工事現場の死体

 あれは年の瀬を感じさせる寒風の吹きすさぶ時期である十一月の末のことだった。一人のサラリーマンが年末の忙しさからか、
「最近はずっと終電近くになる」
 とぼやいていたくらいに忙しい毎日を過ごしていたが、駅を降りてから自宅まで普通に歩けば似十分以上かかるのだが、今までは十分ほどで帰れていた。
「昨年の今頃は、十五分もかからなかったのにな」
 と思って、昨年と何が違うのかを考えれば、すぐに分かった。
 駅前から少し線路沿いを歩くと、途中にあった児童公園が一時期更地になり、さらには、そこにマンションや駐車場。そしてショッピングセンターができるという、区画整理が行われたことで、このあたりに土地を持つ地主が、一気に外観が変わるほどの思い切った再開発を始めた。
 一年前に来たことがある人でも、久しぶりに訪れれば、
「前にも来たことがあったはずなのに、まるで初めてきたような感じだ」
 と、いわゆる、
「逆デジャブ」
 のような気分になることだろう。
 しかも夜になると、照明もお情け程度についている程度で、つけていないと車に突っ込まれでもしたら大変なことになる。
 工事が遅れるだけではすまず、誰かが死にでもしたら、それこそ、一生の問題になってしまうだろう。
 様子が一変し始めたのは、秋口からのことだった。
 夏の間に公園や近くにあった倉庫のような古い建物は更地になり、その周辺を立ち入り禁止の札のついた縄が張られている。
 そのうちに、足場が組み立てられ、そこにシートをかぶせて、
「いよいよ本格的な工事の始まりか?」
 と感じさせる雰囲気になってきた。
 中には工事を請け負っている人足連中の詰め所になるプレハブが立てられ、そこから黄色いヘルメットをかぶったいかつい連中が出入りしているのを何度か見たことがあった。
 中ではタバコを吸っているのだろう、表にまでタバコの臭いが臭ってきて、実に溜まらない思いだ。
「あいつらには、法律なんか関係ないんだ」
 と、昨年から段階的に勧められている、自動喫煙禁止法などで、まったく動じることもないのだろう。
 しょせん、そんな連中に、道徳的なことを言っても始まらない。
「どうせ、生きている世界が違っている」
 ということを一番自覚しているのはやつらだろう。
 そんな連中にまで差別的だということで、擁護するというのは、どこかが違うと思いながら、このサラリーマンは出勤していた。
 考えてみれば、自分たちの方がよほど社会のしがらみに悩まされているわけで、気楽な人足とは違うと言ってもいいだろう。
 それはさておき、夜になると、そのあたりはそれほど厳重な戸締りをしているわけでもなかったので、通り抜ける人も少なくはなかった。
 実際には、途中で通り抜けられるような小さな道もできていたのだが、中にはそこまで行くと遠回りになってしまう人もいて、そんな連中は、おかまいなしに中を通って通り抜けていたのだった。
 その向こうにはバス停があり、バス停から駅前まで歩く人もいて、彼のように駅から郊外へと帰宅する人よりも、日が暮れてからでも、時間帯によっては多い時間帯もあるくらいで、結構な人どおりになっていた。
 そんな状況を管理会社は知ってか知らずか、別に入れないようにするための工夫が施されるというようなこともなかった。
 時間的にはまだ夜の八時頃であっても、このあたりは、ほぼ人通りが少なくなる。サラリーマンは知らなかったが、ここにはマンションが建ち、公務員住宅のようなものになるらしい。普通のサラリーマンに比べればかなり安値で、ある程度いい部屋が借りれるという。
「公務員住宅だって? そんなもの、俺たちの税金の無駄遣いじゃないか? 公務員くらいになれば、自分でマンション借りれよな」
 と普段からそういう言葉を発している本人だっただけに、今はまだ知らぬが仏であろう。
 まだ、このマンションは建ち始めてすぐだということで、それほど対して忙しくはないようだ。夕方は日暮れ前くらいからその日の仕事を終えて、皆帰っていく。この時期ともなれば五時には誰もいないという楽な商売に思えた。したがって、夜六時を過ぎるとこのあたりは一気に過疎化状態になってしまっていた。
 七時過ぎくらいまでは、まだ通勤時間のイメージなので、人通りもそれなりにあるが、八時を過ぎると、もう深夜と変わらない雰囲気になる。
 このサラリーマンのように、毎日日にちが変わるか変わらないかぐらいになると、ほぼ誰かに遭うのが奇跡なくらいだった。
 その日は風が生暖かい日だった。季節が秋に逆戻りしたのか、最高気温が二十度を超える日が数日続いた。
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次