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未解決のわけ

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 だが、やつらのいいのはそこまでだった。基本的に三種類の見積もり方法があると向こうは言う。
「優秀作品には出版社が全額を出資し、本を作成する企画出版。いい作品だが、リスクを考えるとお互いが折半して出資する協力出版。そして、趣味の出版ということでの、今まで通りの全額筆者の自費出版」
 である。
「自費出版は、出版社がなるべく贔屓目に見て安い価格で」
 などと言っていたが、信憑性もない。
 ほとんどは、協力出版(同業他社で微妙に名前が違うというおかしな現象ではあるが)として勧められる。
 そして送られてきた見積もりを見ると、ハッキリと言って、計算が合っていない。定価に部数を掛けた金額を、筆者に払えというやり方だ。
「そんなのはおかしい」
 と営業の人が掛けてきた電話で話をすると、
「本屋に置いたり、図書館に置いたりするのにお金がかかるからだ」
 というが、納得がいくわけがない。
「定価というのは、原価に対して、その分の経費すべてを上乗せして。利益になる分もすべていれて、定価を決めているんじゃないんですか?」
 というと、それに対してのハッキリとした回答はないのだった。
 当然、その作品で、協力出版などありえないので、断ることになる。
 筆者は、何とか企画出版を目指して原稿を送り続ける。そのたび、毎回同じ問答である。
 そういうのは、五、六回と続くとさすがに相手も痺れを切らしてくるようだ。
「これまでが私の力で、優先的にあなたの作品を出版会議に上げてきましたが、もうこれが最後です。今協力出版しなければ、もう、会議に上げることはありません」
 という、一種脅迫めいたことを言ってくる、
――ははん、これが相手の本音だな――
 と、筆者側もそう感じて、
「いいですよ。それでも送り続けます」
 というと、
「もう誰も見てくれる人なんかいませんよ」
 と言って、露骨にその声色が完全に変わっているのが分かる。
 完全に相手を脅迫している声であった。
「いいですよ。それでも」
 というと、今度は最後のお願いに入ってくる・。
「今だったら、お金を払って、出版したら、誰かに見てもらえるかも知れないじゃないですか。このまま作品を世に出さないというのは、あまりにも惜しい」
 と言ってきた。
 その前のセリフがなければ、ひょっとすると靡く筆者もいたかも知れないが、もうどんなにバカな筆者でも、ここまで言われいればそのセリフは焼け石に水だった。
 もちろん、相手もそんなことは分かっている。分かっていて。最後に捨て台詞を吐くのだ。
 それこそが、本当の本音であり、言いたかったことなのかも知れないと思った。言われた方は、ショックを通り越して呆れる気持ちが出てきて、電話口で相手を嘲笑う気持ちになった人も少なくはないだろう。
 そのセリフというのは、
「あなたのような素人には企画出版は百パーセントありません。出版社がお金を全額出すのは、最初から売れるかも知れないと思った人が書いて初めて企画出版になるんです。そんな人とというのは、芸能人か、犯罪者しかいませんよ」
 というものであった。
 バカにしているというのをはるかに超えていて、それを聞いた時、本当にバカバカしさから、鼻で笑っている人がどれだけいるだろうか。そんな連中に乗せられた自分が、どれだけバカだったのかを自分で嘲笑っているのである。
 人のウワサというのを聞いた時、この芸能人の話を思い出したというのは、その話を聞いた時、自分もまるで騙されたかのように思った証拠であろう。そんな気持ちになる自分がなぜ、このような持ち上げ屋と言われるような団体にいなければいけないのかと複雑な気持ちだった。
 このような集団はそれほど全国でも多くはないと思われるが、その中でも彼が所属している通称、
「ハゲワシ族」
 と呼ばれる団体は、このような組織の中で最初の頃に出来上がった集団だから、通称がついているという。
 昔は、もっとたくさん似たような組織はあったのだが、割に合わないであったり、あまりにも偶然に頼りすぎて、計画性がないなどという理由で、解散していくところが多かった。
 だが、このハゲワシ族は、なぜか昔のやり方を伝統として、ずっと続いてきている。本当であれば、新しいものを取り入れることをせずに、伝統にばかり頼っていると、そのうちに摘発されるというのが大きいのだろうが、実は、この業界は、昔からのやり方の方がいい場合もある。
 実は、このような闇業界ができた時も、今もそうであるが、世間一般には目立つものではなかった。逆に目立つということになってしまうと、そこは世間も警戒する。さらには警察も黙ってはいない。
 実際に警察もこの業界への手立てとして、他の闇の組織をも網羅する闇組織専用の部署を設立した。これはあくまでも、警察の既存の部署の名を隠れ蓑にしているもので、実際に公開された情報ではない。相手も隠すのだから、こちらがバカ正直にオープンにする必要もないということだ。
 警察の方も、法律(条令のレベルであるが)を密かに作っていた。しかし、業界の方もさらに抜け道を探すことになる。すると、警察もその抜け道を通さないようにするために、法改正を行う。それはまるで、コンピュータウイルスが蔓延っている時代に、お互いが開発競争を行っているのと似ている。それこそ、ハツカネズミが檻の中で、ひたすら丸い輪を漕いでいるかのようなものであった。
 つまり、警察がどんどん新しい法律を改正するようになるのだから、元々のやり方に戻れば、警察は手を出すことができない。もし警察が法律を元に戻せば、こちらはまた別の足り方をすればいいだけだ。
 警察は法律を一度決めたら、そう簡単に変えることができない。その点、組織の方は小回りが利く。相手をかわすことなど朝飯前のことだった。
 そういう意味では、他の勢力はどんどん商売替えをしてくれることで、商売敵は減ってくる。警察も法律が定まらないことで、手出しができない。これほど自由で広大な市場はないというものだ。
 どうしても運任せのところも大きいが、そのあたりを克服すれば。これほど、
「ぼろい商売」
 もないというものだ。
 ただ、一つの欠点は、この集団が、この手口に関してはプロ集団なのに変わりはないが、その他のことに関しては、まったくの素人、一般常識的な発想もなければ、知らない人が見れば、
「どこか足りないんじゃないか?」
 と言って、嘲笑われるのがオチだろう。
「まるでヲタクみたいだ」
 と思う人もいるだろう。
 ただ、何が一般常識なのかということである。ヲタクだって、それなりの常識を持って行動している。中には異常なやつもいるかも知れないが、ごくわずかな異常な人間のために、皆が悪く言われるのは理不尽というものだ。
 喫煙者の中でも心無い非常識な喫煙者がいるおかげで、謂れのない視線で見られてしまうことこそ理不尽である。禁煙車よりも、
「たった一部のバカどものために、自分たちまでも不心得者だと思われるのこそ理不尽だ」
 と思って、いるのは、一部の喫煙者だけだろうか。
 このような集団も、人から白い目で見られるようなことを本当にしているのだろうか?
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次