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未解決のわけ

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 そんな状態はある意味、社会問題となってきた。そのうちに、余裕のある都市しか招致を申し込まなくなり、せっかくのスポーツ大会の主旨が損なわれてくるようになると、スポーツ大会の開催や運営自体を疑問視する声も出てきたのだ。
「みすみす損をするのが分かっていてやることはないんだ」
 という声も出てきた。
 そこで何かいい方法はないかと模索していたところに出てきたのが、
「スポーツ大会運営代行業」
 なるものであった。
 大会の招致から、最終的な跡地の運営までをこの代行業者が請け負うことで、自治体の方では、一切の負担はない。経費も代行業の方で、一定価格なので、実績が出てくると、その成果はハッキリとした数字で見ることができる。
 もちろん、それぞれの自治体の規模があるので、経費の計算は段階を追ったものがいくつか用意されている。
 元々は、時系列的な段階から費用が見積もられ、そこで最終的な予算が決まってくるので、いくらでも予算のパターンは見積もりができた。だが、それも代行業の中にいるコンサルタントを担う人が、即座に予算を算出するので、見積もりから予算決めまでは、それほど時間もかからないのが、代行業のいいところだった。
 プレゼンなどのプロもいて、招致のためのプレゼン計画から、決まってからの大会の宣伝も十分にできる。
 どうやら、代行業のスタッフも、かついえは皆大企業のそれぞれの部署で実績を重ねてきたつわものが揃っている。それが強みであり、代行業の代行業たるゆえんだと言っていいだろう。
 代行業は、大会が定期的に開かれるようになってから、もう数年後には代行業計画がすた―としていて、実際に招致の自治体から依頼が多くなってきたのは、さらにそれから数年後のことだった。
 意外と早く、大会の運営を自治体が行うことに限界があることを分かったようだ。
「これなら、オリンピック招致などすれば、どんなことになるか、分かったような気がするな」
 ということを、自治体の皆が理解するようになっていた。
 オリンピックほどの規模でもないのに、ここまで深刻なのだから、もし失敗すれば、いや成功したとしてもその後が悪ければ、悲惨な末路しか残っていない。つまり大会が成功したかどうかという評価は、大会が終わった時点で出すことはできないということだ。むしろその後が問題で、解決しなければいけないことが、山積みになってしまうに違いないからだ。
 確かに世の中にはいろいろな商売がある。
「何でも屋」
 なる、何とも抽象的な商売もあり、このスポーツ大会運営代行業というのも、スポーツ運営に関しては。
「何でも屋」
 と言ってもいいだろう。
 この団体は、自治体相手だからというわけでもないのだろうが、最初に決められたことしかやらない。途中で問題が起こった場合などはしょうがないのだろうが、それ以外は何かを予見できたとしても、自分たちがまずい状態にならないと分かっている限りは、何も自分たちから行動はしない。しかも、危ないと予見できても、自治体に相談したりもしない。
 下手に話を持って行って、それが違っていたりして、却ってまずいことになれば、今度は違約金問題に発展する可能性がある。そんなことは本末転倒であり。絶対にやってはいけないことだった。
 それを思うと、最初に契約した予算以上のことは決してやらないし、自分たちの仕事をわきまえている。
 もちろん、見積もりや計画を出すのは自分たちだが、それ以外のことで、自治体側の理由により何かが生じる場合には、違約金、あるいは支払いの相殺をいやおうなしに行うが、自分たちの損になるようなことであれば、一切の責を負わないというのが、徹底したやり方だった。
 そんな代行業が、K市に対して、接近をしてきた。まだその時期は、大会招致などという話は一切表に漏れていなかったはずなのに、市長や、スポーツ委員に面会を申し出てきたのを知った時、これほどビックリさせられたことはなかった。
「どうして、ここに来られたんですか?」
 と市長が聞くと、
「我々もプロの運営代行業です。今までの傾向や、いろいろな自治体の事情や情報を調べていくうちに、こちらに行き着きました」
 と言っているが、何、実際には、
「下手な鉄砲」
 であった。
 確かに研究を行ってはいるが、一つに絞ることなどできるはずもなく、絞った中を片っ端から当たって見ているだけだった。自治体というのは、自分の収めているところが他の土地よりもいいところで、自分たちが一番その良さを分かっているという自信から、収めている地域に対しての自分たちに、絶対の自信を持っているのだった。
 つまりK市も絞られた数市の中の一つに過ぎないのだが、それでも、五市くらいにまで絞っているのだから、それだけでも大変なことだった。
 自治体の方も、ハッキリと方針が決まるまでは、なるべくオフレコにしておこうという意識があるようで、オフレコにすることで、立候補した時は、招致合戦に対して、市民が一体になれると思っている。
 それなのに、情報が漏れたと思っている自治体は、疑心暗鬼に陥る、最初は代行業者を雇う雇わない以前の問題で、この疑心暗鬼をどのように払拭するかということが問題だった。
 今までの大会は、ほぼどこも成功だったようだ。最初の三大会くらいは大成功だったと言ってもいいのではないだろうか。
 第一回の大会は、そもそも提案した市で行われたので、
「まずは大会を成功させること」
 ということで、選から漏れた自治体も、援助体制にやっていた。
 何しろ、継続させなければ意味がない。一度だけうまくいったからといって、そこで終わりではないからだ。
 三回目くらいまではうまく行っていたが、四回目あたりから何かの限界が見えてくるようだった。
 その限界がどちらの方向のどのようなものなのか、すぐには分からなかったが、四回目を終えて、大会が終わるまではよかったのだが、一番の懸念であった。
「大会後の施設の運営」
 に疑問が見えてきた。
「だったら、方向は分かっているじゃないか」
 と言われるかも知れないが、このような失敗には、そこに繋がるいろいろな要因が引っかかっている。
 そんな時に出現してきたのが、
「運営代行業」
 だったのだ。

                持ち上げる集団

 このスポーツ大会運営代行業者と似た時期に登場したのが、いわゆる、
「持ち上げ業者」
 と呼ばれるものであった。
 この集団は代行業者とは違い、世の中のあまりよくない状況の時に活躍するような団体であった。元々は、冠婚葬祭のディレクターのような仕事をしている人が独立して始めたのだが、こちらはあまり表に出ていない。
「持ち上げ集団」
 という名前で呼ばれるのは、死んだ人間が、生前知名度のある人物で、その人が実績のわりにあまりいい死に方をしなかった場合など、実際の事実を捻じ曲げる形で、その人に名誉を与えてあげるというような特殊な商売であった。
 もちろん、これだけでは食っていけないので、表では、いろいろな代行屋のような看板を掲げて、裏で請け負っている商売であった。
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次