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未解決のわけ

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「だって、詐欺で一度警察に捕まっているわけだろう? だったら、やつは何から逃げるために整形をしたんだい? 考えられることは二つ。一つは詐欺をした相手に命を狙われているのではないかという危険性を感じて、保身のための整形だったという考え方。そしてもう一つは、警察には一度捕まっていて。写真も撮られている。だから整形することで、また懲りずに詐欺を働くと考えると、すでに警察に保管されている顔写真とは違うのだから、違う新たな詐欺だということで、警察には手口という意味からもミスリードさせられる。警察が犯人をその男だと思って捜索するが見つからない。それはそうだよね? 何と言っても男緒は整形して別人に生まれ変わっているんだからね。でも、よしんば警察が被害者に写真を見せて。被害者が違うというと、新たな犯罪として、今度は自分本人への容疑が向くことはない。そのあたりを狙っているとすると、やつはまだ何かの犯罪に関係していたのかも知れないということだ」
 と清水刑事が言った。
「ということは、その新たな犯罪がこじれたのか、そのあたりが原因で殺されたとすれば、何かこの事件でやっと納得のできる道が見えてくるような気がしますね」
 と辰巳刑事は言った。
 被害者の名前は近藤周作という。弟の話でいけば、
「僕は弟と言っても、腹違いの兄弟で、父親が女性にだらしがなかったということで、実は僕と兄さん以外にも他に数人の兄弟がいます。面識のある人もいますし、見たことのない人もいます。私が把握しているだけで、三人はいます。そのうちの一人は女性なんですけどね」
 と言っていた。
 ちなみに弟の名前は、山村壮六というそうで、名字が違うのは、当然腹違いだからであった。
「整形手術までして一体この遠藤という男は何がしたいのだろう?」
 とまた辰巳刑事が言った。
 しかし偶然ではあっても、被害者の身元が分かったのはよかった。誰であるか分からなければ、捜査もしようがないというものだった。
 被害者の名前は近藤周作。そして、名乗り出てきた弟は山村壮六という腹違いの兄弟である。それを元に二人のことをいろいろ捜査を始めるということで、やっと警察としての舞台に上がることができたというわけであろう。それまで一人の奥さんが偽証して行ったという事実もあったが、そのことが遠回りにならないほどに、まだ何も分かっていなかったのだ。ただ、あの奥さんは何が言いたかったのか、そのうちに分かることになるのだろうが、それでもいいのか、辰巳刑事の頭の中で引っかかっていた。
 清水刑事はそこまで深く引っかかっていたわけではないが、きっとその違いは辰巳刑事のまっすぐな思いである勧善懲悪という意識が働いているからではないだろうか。
 一つのことが分かるとさすがに警察の捜査力は力を発揮する。近藤周作という男には山村壮六以外にもたくさんの兄弟がいるようだった。それは山村壮六という人物の証言通りだったのだが、この間の奥さんの証言もあるので、そnウラはしっかりと、そして確実に取るようにしていた。
 壮六の言っていた通り、確かに女性も一人いるようで、その人を捜査していると、辰巳刑事は驚愕の事実にぶち当たった。
「これは、まったく別人の写真を持ってやってきた。あの奥さんじゃないか」
 と写真を見た瞬間にビックリさせられたが、ひょっとして、あの時虚偽の証言をした奥さんと被害者が、何らかの形で繋がっているのではないかと思っていたが、まさか異母兄弟だったなどとは思ってもみなかった。
 ここまで繋がっているのであれば、今度は彼女が持っていたあの男性の写真がどのような人物なのか興味が出てきた。まさか、あまり関係のない人間の写真を勝手に持ってきたわけでもないだろう。そう思うと俄然、
「あの時、どうして写真を預かるかしておかなかったのだろう?」
 と感じた。
 しかし、あの時は彼女がちゃんと捜索願を出すものだと思っていたので、後で見ればいいという思いと、実際にあの奥さんの言葉に信憑性がなかったこと、それゆえ、この事件との直接的な絡みがまったく見えなかったことで、次第に意識から離れていくのを感じた。最初はあれだけ彼女のことを意識していたのは、彼女の目的を分からずとも、その意志に近づこうと、無意識に感じていたからではないかと思った。それが、彼女の無意識な思惑だったとすれば、末恐ろしさを感じた。
 さらにもう一つ、彼らの本当の父親はウワサであるが、実は若狭教授ではないかということだった。そのウワサに初めて辿り着いたのは、例の奥さんのところまでたどり着いてからであって、奥さんを訪ねてみた時、奥さんは行方をくらませていた。
 旅館に住み込みで勤めていたのだが、三日前から仕事を突然辞めて、
「田舎に帰る」
 ということだったようだ。
 宿の方も入れ替わりが激しいことで、それほど気にすることもなく、
「いつものこと」
 と言っていたそうであるから、彼女のことなど、いちいち意識などしていなかったことだろう。
 だが、後になって宿の人は、あっけなく辞めて行った彼女に少し苛立ちを持っているようで、その苛立ち解消のつもりで話してくれたのが、本当の父親の話だった。
「若狭教授って、あの俳句の権威の教授ですよね?」
 と辰巳刑事がいうと、
「ええ、そうですよ、彼女は若狭教授の娘さんなんですよ。それも奥さん以外の女性が生んだこともですね。何でも若狭教授の奥さんは子供が産めない身体だったということで、いっぱい表に女がいたということですよ。何人にも手を付けて。子供を産ましているんでしょうね」
 と言っていた。
「どうやら、奥さん以外が妊娠したんだから、女性たちも堕胎すればいいものをしないという心境になるようなんです。その真意は分かりませんが、今まで自分たちが歩んできた墜落人生を、ひょっとすると、あの卑劣な男の血が混じっているということで、歩ませてみたいという気持ちがあったのかも知れませんね。世の中に対する復讐なのか、何も考えていない父親に対しての抗議の意味なのか、堕胎する人がいなかったせいで、何人もの異母兄弟ができたというわけです」
 と、旅館の女将は憚らず大声で笑っていた。
 まるで悪魔の嘲笑である。
 それを聞いた辰巳刑事は、ごくりと喉を鳴らし、
「狂っている」
 と口にしていた。
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次