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未解決のわけ

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 捜索願が出されたら、警察のデータベースに保管されるので、基本的には、そちらを見るのが正解である。辰巳刑事はさっそく検索してみた。だが、不思議なことに昨日この警察署から出された捜索願の中に、昨日の奥さんに該当する者はなかった。
 ちなみに隣接の警察署も見てみたが、昨日の捜索願として、三十歳くらいの奥さんから、旦那さんが行方不明になっているという旨の捜索願はなかった。
「どういうことなんでしょうか?」
 と辰巳刑事は訝った。
「昨日の奥さんは行方不明にもなっていない旦那を探してほしいと言ってきたのか、それとも、警察ではあてにならないから、警察以外の探偵事務所などに行って、直接お願いしたのかのどちらかなのではないだろうか? もし、他の探偵にでも頼んでいれば、それはそれでいいんだけど、もし、昨日の捜索してほしいという依頼事態に虚偽があったとすれば、果たしてどういうことになるのだろう?」
 と清水刑事は言った。
「奥さんが、いきなり刑事課に来たというのもおかしなことだよね。確かに昨日は殺人事件があったので、被害者の身元が分からずにいたことで、奥さんに遭ってみようと思ったが、もし何もなければ、我々が会うこともなかったでしょう。それなのに我々のところに来たというのは、事件の存在を知っていたということも考えられなくもない。それでいて捜索願を出していないというのは、やはりあの申し出は彼女の狂言だったのかも知れないですね」
「じゃあ、君はあの奥さんが誰か知らない人か、あるいは失踪もしていない自分の旦那の写真を見せて、あたかも失踪したかのように装ったということだろうか? 一体何の目的でそんなことをするんだろう?」
「考えすぎカモ知れませんが、本当に旦那さんは失踪しているかも知れませんね」
「どういうことだい?」
「奥さんはわざと我々のところに来て、旦那が失踪したと訴えた。遺書ともとれるような文章を残して行方不明になったという印象を植え付けて、写真まで見せてくれたが、その写真と今回の被害者が別人であることを奥さんは最初から知っていたのではないかと思うんですよ。つまり、我々に失踪事件があったが、どこかで今捜査している事件と結びついているかも知れないと思い、再度男の顔を確認しようと、きっと出したはずの捜索願を確認しようとするが、捜索願が出されていない事実が判明する。我々はそれwどう感じるか? きっと奥さんの狂言だと思うだろう。もしそれが狙いだとすると、その目的は何であったとしても、写真の旦那さんがひょっとすると、もう捜索しても見つからないところに葬ったのではないかと考えるのは、あまりにも突飛ですかね?」
 と辰巳刑事は言った。
「うーん、確かに突飛ではあるが、それを否定できるだけの考えが私の頭の中には浮かんでこない。ただ、これがさっきから感じている胸騒ぎの中の、『自分たちのまだ見えていない事件』だったとすると、何となく理屈に合いそうな気がして、ぐっと信憑性も高くなる気がするんだけど、そうなると、旦那はすでにこの世の人ではなく、死体も上がらないということになっているように思えるんだ。奥さんは我々にそのことを感じさせたくないので、わざと狂言めいた芝居を打ったのではないかという考えになって、結局君の意見に辿り着いてしまうんだ」
 と清水刑事はいい、二人の考えがどこかで一緒になって、交錯した場所から、絡み合うようにして、強い糸を紡ぐように感じられてきた。
 そんなことを聞いていると、今度はまた別の人が、
「被害者を知っているかも?」
 ということで、出頭してきた。
 すでに事件の内容は夕刊に出ていたので、夕刊を見たのか、ひとりの男性だった。被害者は自分の兄かも知れないというのだ。
 さっそく死体との対面をしてもらったが、
「これは兄です」
 というではないか。
「お兄さんの写真か何かありますか?」
 と聞くと、
「いいえ、ありません。でも、警察であれば、持っているのではないでしょうか?」
 というので、ビックリして聴いてみると、
「兄は以前、詐欺を行って、警察に捕まっているので、その時の写真が残っているはずです。でも……」
「でも?」
「以前、逃走中に兄は整形手術を施しているので、その顔は写真では分からないと思います。僕は兄の身体の特徴を知っているので、兄だと断言しましたが、普通であれば、身元は分からないでしょう」
 という話だった。
 清水刑事と辰巳刑事は顔を見合わせた。
 なるほど、そういう事情で、しかも生計をしているとすれば、身元が簡単に分からなかったのも無理はない。所持しているお金があったが、身元が分かるものを所持していないのは不思議であった。運転免許や保険証すら持っていなかったのを、もっと不思議に思うべきだった。それを思わなかったのは、顔も分かっていることだし、すぐに身元が判明するとタカをくくっていたからであろうが、偶然に近いとはいえ、弟が名乗り出てくれたことは本当に幸運だっただろう。犯人側からすると、被害者の身元が分かるのは、いつであってもよかったのか、それとも、やはり簡単に分かってしまうのを恐れていたのかも分からない。そもそも被害者の顔が整形であるということを犯人が知っていたのかというのも疑問である。整形した後の被害者の人生の中で知り合った相手であれば知らなくても当然のことであり、不思議ではないだろう。しかし、知り合ってからどれくらいが経過した時点で、毒殺迄して相手を葬ろうという思いになったのか、そのあたりは重要であろう。被害者が詐欺を行って逃げているということが本当であれば、犯人は、以前、その男が働いた詐欺による被害者だったのかも知れない。そうも考えられないだろうか?

                 畜生道と衆道

「それにしても、整形をしていたというのはビックリだね」
 と清水刑事は言った。
「でも、その弟という人物の話。どこまで信憑性があるんでしょうね」
 と辰巳刑事は言ったが。
「いや、確かに弟の言った男性は、以前警察に詐欺としてマークされ、その際に一度捕まっているという。弟は、だから兄が整形したっていうんだけど、なんかちょっと腑に落ちない気がしないか?」
 と清水刑事は言った。
「どういうことでしょう?」
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次