未解決のわけ
「いいえ、公務員住宅とは、表立って発表していませんから、別に公務員でなくとも、慈善事業を行っているような会社の社員であれば、大丈夫なようなんです。もちろん、不動産側の審査はありますけどね。実際に、マンションが建ってからの入居者もすでに何人か決まっていて、そのうちの数人がそのマンションに住むことになっているということなんです」
「そうだったんだな。でも、それと今回の事件に何かあるのかい?」
と清水刑事が聞くと、
「実は死体が見つかって、すぐに現場にいった時、途中で騒ぎを聞きつけた近所の人の野次馬がいたんですが、その谷治梅の人が話しているのが聞こえてきたんですが。どうやら、あのマンションのオーナーは、スポーツ大会代行業のオーナーなんだそうです。だから従業員が住めるということなんですが、その社員の中の一人が、最近よく、あのあたりに出没していたっていうんですね。建設現場を外から嗅ぎまわるような態度を取って見たり、カメラで何かを撮ったりしていたそうなんです。そのことが気になったので、この間の聞き込みの時、その奥さんを探して聞いてみたんですが、奥さんがいうには、殺されたのはその人ではないかというんですね。自分が見たわけではないから分からないけど、夜中もたまに誰かが、門を開けて侵入していると言っていましたからというんですよ。これって何か気になりませんか?」
という辰巳刑事に対して、
「うーん、何か感じるものがあるね」
と清水刑事も唸っていた。
「ちなみの、そのスポーツ大会代行業というのも、どこか胡散臭さがあるような感じなんですよ。元々スポーツ大会の誘致というと、地域住民の中でも賛否が分かれるじゃないですか。人によっては、地域が潤って経済が活性化して、商店街に活気が戻るなんて思っている人も多いでしょうよ。でも、それはオリンピックと同じで、大会前の特需があって、大会中にどれだけ売れるかというのは問題になるでしょう? でも、終わってしまうと一気に不況ですよね、逆?字とでもいえばいいんですかね」
と辰巳は言った。
「なるほど」
と清水刑事はまた唸った。
調子に乗って、辰巳刑事は、どんどん自分の説に酔っているようだ。
「オリンピックがいい例じゃないですか。招致が決まるまでは、招致合戦を行って、プレゼンに精を出す。だけど、そういう時はインフラの整備、それから街の安全性を示すために、治安や教育、そして風俗に目を光らせる。ギャンブルであったり、風俗営業の店などは一番にやり玉に挙げられて、潰されてしまう。さらにインフラの整備で区画整理が行われると、その土地にいた人が立ち退きのあおりを食う。しかも、立ち退いたとしても、その場所に新しい店が建つわけでもなく、区画整理の前の方が賑やかだったりするところは全国にもたくさんある。新幹線が通る駅だからと言って、新幹線が開通する前よりも人通りが少ないなんてザラですからね。その分、在来線が減ってしまうと、外から来る人はいいけど、実際に住んでいる人は溜まったものではない。区画整理は土地開発などというのは、そういう問題が裏返しにあるんですよ。それを思うと。虚しくなってきますよね」
と辰巳刑事は溜息をついた。
「それは私もいつも感じていることさ。風俗の街なんて、場所によっては、街全体が滅亡してしまうのを意味している場合もある。昔は普通の商店街だったものが、バブルが始めた影響や、郊外型の大型ショッピングセンターが流行ってくると、いちいち駅前の商店街には行かないからね。そんな場所の復興にと、苦肉の策で、風俗の誘致を行う。そのおかげで風俗の街として、滅亡を免れて、せっかく細々とやってきたのに、スポーツ振興のためという名目で、大規模な規制が入り、次第に営業ができなくなる店が増えてきて、最後には百件以上あったお店が、数件になるなどという壊滅を見ることになるんだよ。俺は損な店をたくさん見てきた。風俗の店なんて、横町にあるちょっとした店と同じだからね。一軒潰れると、連鎖で潰れる。潰れた店の常連がこっちに来てくれるわけではない。常連の店がなくなったら、もうこのあたりには寄り付かなくなるだろうね。一応スポーツ大会という話が出ていての衰退だということが分かっているので、衰退していく街にずっと通い続けたりはしないものだからね」
と、清水刑事は言った。
「そうなんですよ。そのまま潰れてしまうと、しばらくは、もう草も生えないという状態ですよね。一度は何とか立ち直ろうとして頑張った人たちも、ここに至ると正直、気力をなくすでしょうからね」
と辰巳刑事は言った。
「で、そのスポーツ代行業というのは、どこから面倒見るって?」
「承知のところからですね。区画整理の計画やプレゼンなどは、今までのノウハウがあるから、それをひな形にして、行政と一緒になって詰めるわけです。その時に、街の買収や、ちょっとヤバい買収も彼らに任されるんですよ。要するに、行政が立ち入ることのできない泥臭いところを、彼らが受け持つ。まるで、パチンコ屋の用心棒のような感じのところから始まるようですね」
と辰巳刑事がいうと、
「それじゃあ、最初からヤバい行動を表立ってやることになるということかな?」
「もちろん、暴力や脅迫は最後の手段でしょうが、ある程度、お金で解決できるところはお金でというのが基本でしょう。そのためには、どこかの政治家と繋がっていた李、財界も掴んでいないと、こんな組織はやっていけないでしょうからね。そういう意味では、やつらも利権の犬とでもいうところかも知れません」
「ということは、健全と言われるスポーツも、ドップリと利権に塗れて。二進も三進もいかないという感じなのかな?」
「そういうことでしょう」
と辰巳刑事がいうと、ちょっと会話が途切れたが、辰巳刑事は何かを思い出したかのように話し始めた。
「でもですね。やつらのような団体も、詐欺的なことはしないのが普通なんですが、どこかで詐欺とつるんでいるという話があるんです。そうでもしないと、いくら政財界に繋がっていると言っても、そう買収資金はでませんからね。それで見えてきたのが、さっきから話題になっていた『ハゲワシ集団』なんです。やつらとスポーツ運営代行業とはどこかで繋がっているというウワサを訊いたことがありました」
というのだ。
「その話は、今思い出したのかい?」
「ええ、話になる前も何か引っかかっているものがあったんですが、さっきハゲワシ集団という話をしていると、思い出したのは、スポーツ大会運営代行業だったんです。実は話しているうちに何かを思い出せればいいという思いだったんですが、まんまと思っていたような記憶に辿り着きました」
と辰巳刑事は言った。
「今一番最初に確認してみたいのは、昨日やってきた奥さんに、もう一d聞いてみたい気がするね。あの時の旦那の写真も貰っておけばよかった」
と言って、清水刑事はいった。
「じゃあ、あの後、奥さんが旦那の捜索願を出しているだろうから、それを確認に行ってみましょう」
と辰巳刑事は言った。