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未解決のわけ

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「そういえば、僕もちょっと気になることがあったんですが、さっき、昨日行方を捜したいと言ってきた奥さんがいたでしょう? あの人、どこかで見たような気がしたんです。昨日はもちろん覚えていませんでしたし、さっきまでも、まったく意識になかったんですが、清水さんは、やけにこの事件の知られざるウラという言葉を気にしているのを感じると、何か背中がムズムズしてきて、それがどこから来るものなのかを考えていたら、どうやら昨日の奥さんなんです。どこで見たのかまではハッキリとは覚えていないんですが、ひょっとしたら、何かの事件でかかわったことがあったかも知れません」
「それがどんな事件だったのかが分かれば、もう少し見えてくるものがあるかも知れないね」
 と清水刑事は言った。
「ところで俳句研究会なんですが、あれって若狭教授の俳句ですか?」
 と辰巳が訊くので、
「ああ、そうだよ。ポスターに書いてあったのは。若狭教授という名前だったと思う。テレビに出たりしている先生なんだろう?」
 と清水がいうと、
「何言ってるんですか、俳句の世界ではあの先生は名誉教授と言ってもいいくらいの、現代では第一人者の先生ですよ。それがこんな中途半端な街でカルチャースクールの先生など、以前ならありえないくらいの権威のある人でしたよ」
「君は詳しいんだね」
「ええ、実は、大学時代に俳句に凝った時期があったんです。お恥ずかしい話、好きになった女の子が俳句が好きなもので、いろいろ勉強しました」
 と辰巳は照れ笑いをしたが、
「それで上達は?」
「いえいえ、なかなかうまくいきませんでした。その時にですね、若狭教授についていろいろ余計な情報をくれるやつと仲良くなったんですが、そいつは若狭教授だけではなく、いろいろな人の裏話をネットで拾ってくるのが得意なやつで、こっちは半分信じて、半分信用していなかったんですが、若狭教授にはいい面悪い面いろいろありました。悪い面としては、隠し子がいるという話を訊いたことがあります。ただ、その隠し子というのは内輪では公然の秘密だったようで、知っている人たちがスクラムを組んで、教授の名誉を守ったそうです。だから、隠し子伝説というのは、どこまで信憑性があるか分からない部類の話でした。悪い方とすれば、若狭先生は有名人が死んだ時、忘れられたような人が多かったりするじゃないですか、昔の大スターなどでも、晩年は寂しくなんてよく聞きますよね。そんな人を探してきて、かつての栄光を大々的に宣伝して。英雄にするというような団体があるんですが、その団体に所属していたらしいというウワサです。その団体は今は半分鳴りを潜めていますが、それは詐欺じゃないかというウワサが立ったからで、そのうちにウワサが消えるとまた活動を始めるという感じで、今まで生き残ってきた団体です。ハゲワシ集団などという名前だったような気がしましたが」
 と辰巳刑事は言った。
「ハゲワシ軍団? 聴いたことがないな」
「そうでしょうね。変に有名になると、出る杭は打たれるという感じで、攻撃されやすくなるので、その前に有名になるのを避けようとするんです。それが彼らのやり方なんですが、若狭教授はその団体に所属しているという話でした」
「なるほど。それでその話には信憑性はあるのかね?」
「ええ、難しいところだとは思いますが、私はあるような気がしていました。若狭教授が俳句の権威になったのも、大金が動いたというウワサもあって、その金の出所が分かりません。教授が権威を金で買ったなどという誹謗中傷も少なからずにありました」
 と辰巳刑事は言った。
「ハゲワシ集団は、ハングレ集団と似たようなものなのかな?」
「少し違うと思います。彼らは若狭教授を筆頭に、頭脳集団なんですよ。でも、過激なことはしません。表に出そうになったら、すぐに隠れようとするような団体ですからね」
 辰巳刑事がどこまでこの集団のことを分かっているのかは知らなかったが、集団と若狭教授との間に何かがあるとすれば、若狭教授と鮫島が何かで繋がっているとすれば、彼もハゲワシ集団に関係があるのかも知れない。
「ちなみにそのハゲワシ集団というのは、まだあるのかな?」
「あると思いますよ。彼らは一応慈善団体になるんでしょうかね?」
「話を訊いている分には、そんな感じはないが、表に出てこないというのは厄介な集団だ。しかもそこに大枚が絡んでいるとすれば、それこそ、隠れた事件というべきなんだろうね」
 と清水刑事が言った。
 事件がどういう形に推移するか分からないが。清水は自分が確信を掴んでいるように思えてならなかった。
「それで、その集団は、詐欺をするんですか?」
「どんな手口なのかは分からないが、とにかくやつらは、かつて一度は絶頂期を迎えた芸能人やアーチスト、スポーツ選手などが、最後は悲しく人知れずにこの世を去ることに目を付けたんだ。本人たちはそれでもいいかも知れないが、家族や先生と呼ばれる人たちの名誉や知的財産を管轄している人にとっては。あまりにも寂しいことですからね。それをもう一度脚光を浴びるようになれれば、これ幸いですよね。そんな気持ちに付け込んで、一度は話題になるけど、やっぱり死んだ人なので限界もある、すぐにすたれるというものなんだけどね」
「確かにそうでしょう。今でも売れなければあっという間に忘れられるんですからね」
「でもやつらは、頼まれてからは一度は、一瞬でももう一度栄華を見せてくれるんだよ。でも忘れるのは世間だからね。いくらサクラを使ったりして人気が出たように思わせても、すでに世間は知らない人になっているんだから、まず再興は無理なんだよ。もちろん、彼らも頼まれてから、最初はそのことを念押ししているから、トラブルは起こらない。彼らにはどのようにお金が入ってくるのかまでは分からないが、ちゃっかり儲かったような形になっているんだ。それで、頼んだ遺族の方も次第にこの集団が胡散臭く感じられるようになり、ハゲワシ集団は詐欺だなどというデマを流したりしていたんだろうね」
「本当にデマなんですかね?」
「それは分からないけど、若狭教授のような有名人も入っているということをどう見るかだよね? お得意様に安心させるためか、それとも、若狭教授の自主的なものなのかが分からないので、これも何とも言えない。どこか、悪徳宗教っぽさはあるよね」
 なるほど、清水刑事のいうのももっともであった。
「そういう意味で、ちょっと立場や規模に違いはあるんですが、スポーツ大会運営代行業者というのをご存じですか?」
 と辰巳刑事は言った。
「ああ、聞いたことはある。何でも、アマチュアのスポーツ大会が毎年どこかの都市で開かれるので、招致の段階からかかわって、最終的に閉幕までの相談役であったり、運営などを担うという組織のことだろう? いろいろなところでウワサになっているので、俺もそれなりに知っているつもりだが、そこがどうかしたのかい?」
「実はですね。例の死体が発見された公務員住宅になるって言われているあのマンションですがね。あそこにもスポーツ大会代行業者の人が住めるようになるという話があるようなんです」
「えっ? あそこは公務員じゃないといけないんじゃないのか?」
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次