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未解決のわけ

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 つまり、交換殺人というのは、密室殺人や、顔のない死体のトリックなどのように最初から分かっているものではなく、一人二役のトリックのように、トリック自体が捜査陣にバレてしまうと、すべてが終わってしまう。絶対に交換殺人は相手に考えさせるだけでも犯人側には致命的になってしまうのだ。
 もう一つのデメリットであるが、これは、ある意味一番考えられるデメリットであり、
「お互いが平等ではない」
 ということだった。
 交換殺人のメリットである、
「アリバイ作り」
 というものは、本当に殺意のある人がその時間、遠くにいて、殺人を実行できない。あるいはその時間、必ず誰かに見られていたり、どこかにいることが証明されなければいけない。
 つまりは、アリバイを完璧にするために策を練らなければいけないということだ。その時に動いてはいけないということが前提だ。
 しかし、そうなると、必ず交換殺人の実行には時間差が必要になってくる。
「先に殺す人、そして後に殺す人」
 である。
 そう考えると、実に交換殺人が不公平であるかということが分かってくる。
 なぜなら、最初に自分の目的である殺したい相手を、他の人に殺してもらった人の心境と、自分が相手の殺したい相手を殺したのだから、その感謝の意味も込めて今度はその人が自分のために実行してくれるという心境があったとすれば、その感情には埋めることができない溝ができてしまっているのだ。
 最初に殺してもらった人間はどうであろうか?
「もう、自分の目の上のタンコブは死んだのだ、自分が今度は危険を冒してまで、人を殺す筆はないのではないか」
 と考えるのではないだろうか。
 それは当たり前のことである。自分にアリバイが成立し、一番安全になってしあっているのだ。これ幸いにのうのうと生きていればそれでいいのではないか。交換殺人の相手が何と言おうとである、
 そう、何と言おうと、相手が殺人を実行したのだ。自分がそそのかしたわけではないと言えば、それまでなのだ。アリバイも成立しているし、もし、相手が捕まったとして、動機がないと分かっても、それが自分に向いたとしても、完璧なアリバイができているはずだからである。相手が何と言おうとも、警察は自分を逮捕できないのだ。つまりは、自分だけが得をして、罪を相手に擦り付ければいい。いや、実行犯は相手なのだ。それは揺るぎのない事実である。
 では、そんなことにならないようにするには、どうすればいいか?
 それは、一つしかない。
「同じタイミングで相手を殺し合う」
 ということしかないだあろう。
 となると、これは根本から主旨に反しているということになる。
 なぜなら、交換殺人というのは、アリバイ作りができるからこそ、交換殺人のメリットなのだ。お互いに同じ時間に殺してしまっては、せっかくの鉄壁なアリバイなどないではないか。まったくの無意味である。
 そこまで考えてくると、交換殺人が成功する確率は、万に一つもないと言えるのではないだろうか。実際に交換殺人というのは、小説やドラマでは時々見かけるが、やはり、交換殺人というのが分かってしまうと、一巻の終わりであった。だが、実際の事件で、交換殺人など訊いたことがない。やはり、現実にはありえない犯罪計画の一つなのであろう。
 入れ替わるという意味では、顔のない死体のトリックというのもある。
 こちらも、ミステリーでは定番のトリックであるが、その目的は、顔が分からない。つまり、被害者を特定できないということで、利害関係のある人物が行方をくらました場合に考えられるのがこの、
「顔のない死体のトリック」
 である。
 顔の識別がなかったり、特徴のある部分を消されていたり、手首から先を切断し、指紋による被害者の特定をできないようにすると、被害者が誰であるか分からない。それによって、
「犯人と被害者が入れ替わっている」
 と思わせえることで、真犯人が死んでしまったことになるというトリックだ。
 かなり奇抜な発想だが、これくらいなら、まだリアルにあったかも知れない。ただ、これは今の時代にはそぐわない殺人である。昔のように科学犯罪の黎明期であれば、考えられないこともなかったが、今では顔を隠そうとも手首がなくても、DNA鑑定ができる部分が残っていれば、被害者の特定はできる。
 では、
「死体が見つからないようにすればいいのではないか?」
 と言われるが、それもまったくのお門違い。
 死体が発見されなければ、当初の目的である、
「死んだことにする」
 というのが達成できなくなる。
 殺人だけのために死んだことにするだけであれば、死体が見つからないというのでも犯罪の露呈という意味では同じなのだろうが、もし、
「借金取りに追われている」
 などの別の意味での自分の抹消が必要であれば、死体が見つからないというのは、犯罪が露呈しないということで、自分にとっては都合が悪く、実際には本末転倒な話となってしまうのだ。
 しかも、
「顔のない死体のトリック」
 は最初から分かっているトリックであり。それでも、昔であれば、成功率は高かっただろう。
 それに比べて
「交換殺人」
 というものは、リスクが高すぎるという意味で、これほど非現実的なものはないと言ってもいいだろう。
 清水刑事がどうして、
「交換殺人」
 というものを連想したのか、辰巳刑事は考えてみた。
 交換殺人には、お互いに殺したい相手がいて、一緒に計画するという意味では、共犯者という発想緒あるだろうが、殺したい相手が一致しているわけではないところが、他の殺人計画とはまったく違うところだ。しかも、まったく自分に関係のない相手を殺すというのは、どんな気持ちになるのだろう。殺したい相手がいて、憎悪が渦巻いている頭で殺すことをシミュレーションしながら考えていると、次第に殺意がこみあげてきて、いよいよという時に、頭の中は殺害に対して最高潮になるだろう。
 しかし、交換殺人というのは、まったく違う。実際に殺す相手には、何んら恨みがあるわけではない。しかも、面識すらない。殺害相手として決まってから、様子を見ることくらいはあるかも知れないが、殺す相手に直接的な接触は、リスクを深めることになるので、本当の殺害実行の場面以外では会うこともない。被害者もそんな相手に殺されるのだから、何が起こったのか分かってもいないだろう。
 自分が殺されたなどという意識もなく、この世から消えてなくなるのだ。理不尽極まりないことだ。
 ただ、実行犯は、自分に殺意を持った人間に雇われた殺人ロボットと考えることができるかも知れない。その報酬は、自分が恨みに思っている人間を、自分がロボットになったと同じように、相手もロボットになってもらい殺してもらうことだった。
 清水刑事が言った
「交換殺人」
 という言葉は、共犯者の存在を意識した時に出てきた言葉だった。
 清水刑事の頭の中には、共犯者の存在が出てきた時には、心のどこかに交換殺人という言葉が見え隠れしているということではないだろうか。
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次