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未解決のわけ

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「ああ、そうだ。昨夜の九時頃に殺されたということになっていて、発見されたのは午後十一時過ぎだったようだ。だから、夜中のことなので、君たちには連絡が行っていなかったので、さぞや驚いただろうが、そういう事情で、ここは当分立入禁止になる。現状保存が第一なので、君たちには申し訳ないが了承願いたい」
 と清水刑事が言った。
「はあ、そういうことでしたら、我々も協力しないわけにはいきませんからね」
 と詰所から出てきた男がそういった。どうやら、年齢的にもこの現場の監督はこの男のようだ。
「あなたがここの監督さんになるのかな?」
 と聞くと、
「へえ、そうですが」
 と答えたので、
「少しお話をお伺いできないでしょうか? 何分、事件が夜中だったので、我々にはこの現場の普段の状況が把握できていないんですよ。そのあたりからお伺いできればと思いましてね」
 と清水刑事がいうと、
「わかりやした」
 と、快く了解してくれた。
「ありがとう。さっそくなんだけどね。ここの現場は、いつ頃から、やっているんだい?」
 と訊かれて、
「ここには以前、児童公園や小さな倉庫がいくつか乱立している地帯だったんですが、行政の区画聖地というやつが入りましてね。それで、ここを解体し、新たにマンションを作るという計画になったんですよ。それが二年前ですかね。それで、一年前に解体が始まって、実際に更地になったのが半年前、それからここを全面立入禁止にして詰め所を作って、それからやぐらを組んで、表のコンクリートを壁は、ある程度でき喘のものを持ってきたんですよ。ただ、それはあくまでも仮説のもので、後からしっかりしたものにするんですが、どうやらこのやり方というのは、日本では珍しいらしく。我々も初めてなんですね。だから、最初は時間がかかってもいいからということで、モデルケースとして行っているんです。そのために、最初の方の工事というのは、本部でも試行錯誤、我々は本部の言うとおりにやっていればいいというわけですよ。だから、毎日こうやって通ってきてはいますが、作業自体はほとんどありません。下手をすると、中に入ることもしませんからね。本部の許しがなければ入れないという感じです」
 と親方は言った。
「なるほど、じゃあ、中で何かあっても、時間外であれば、誰も気づかないということがあり得るというわえですね?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「ええ、そうです。下手をすれば、もし中で誰かが死んでいたとしても、数日間誰にも見つからないなどということはあったかも知れません」
「そのことを知っているのは、お宅の会社の関係者以外ではありますか?」
 と聞かれた親方は、
「ほぼないとは思いますが。工事関係者に別に緘口令が敷かれているわけではなかったので、家族か誰かに気軽に話すくらいはあったかも知れませんね。ということは、それを知ってここを殺害現場に選んだということですか?」
 と、親方が今度は逆に質問した。
「いや、そうではないんだ。いずれニュースになるから分かることなんだけど、被害者は毒殺だったんだ。だから、ここでナイフで刺したり、絞め殺したりという修羅場があったわけではない。ただ、一人の男が苦しみながら、血を吐いて死んだということになるんだろうね」
 と、清水刑事が返答した・
 それを聞いて親方は唖然としていた。殺人事件というのは分かっていたので、しかも、誰にも見られることなく殺害するには一番好都合な場所であるだけに、彼ほど薬物による犯罪などを想像できなかった人もいないだろう。
 そう思うと、逆に別の意味での取り調べになることで、さぞや奇抜な話が訊けるかも知れないと思い、清水刑事は少し興奮気味だった。
 辰巳刑事はというと、どうもこういう現場の人間は苦手なのか。ずっと睨み合っているような気がして仕方がなかった。
「一つ気になったことがあったんですけどね」
 と清水刑事がいうと、親方は、タバコを吸いたいのか、少しう指でピースをするような素振りをしているのを辰巳刑事は気付いていたが、清水刑事はお構いなしだった。
「へえ、何でしょう?」
 というので、
「実は殺害現場はこの先のちょっとした広場になっているあたりになるんだけど、あそこで結構明かりが眩しかったんだけど、普段は明かりは薄暗いと聞いたんだけど、昨日に限って消し忘れたとかいうことはないのかね?」
 と質問した。
 これは先ほど、辰巳刑事と清水刑事の間で話にもなったことだが、結論めいたことは出なかったことだった。
「はあ、確かにあそこは、この建物の中でロビーに当たるところが出来上がる予定なんですが、そのために、結構最初から早めに着工しているんですよ。一番最初にこの建物の外壁を仮に建てた時、一緒にここの壁と、地面のコンクリートで固めるところまでは一番に手がけました。けど、途中で工事が停まってしまって、いえね、こういう建築現場にはありがちで、予定が一気に進む時もあれば、まったく進まない時もある。本社の意向によるものなのでしょうがないんですが、ロビー部分だけはとにかく最初に作りました。だから、あそこには一番h仮の強い照明を持って行ってるんですが、何かをしない間は。真っ暗にならない程度の薄暗い明かりを普段はつけています」
 と親方は言った。
「分かりました。じゃあ、あの場所はほとんど土台だけは出来上がっていると見てもいいんですね?」
 と清水刑事がいうと、
「ええ、土台だけですけどね」
 と、親方も答える。
「昨日は明かりが明るくついていたんですか? でも、よくその違いに気づかれましたね」
 と親方は言った。
 確かに、警察によって発見されたのであれば、普段を知らない警察は少々明るかったとしても、それはいつものことだと思って、わざわざ聞くこともないはずである。それなのに聞いてきたということは、普段の明るさを知っているということかと思うと、親方は少し不気味な気がした。
「いえね。実は第一発見者がいるんですよ。その人は普段から残業をしていて遅く帰宅するサラリーマンなんですが、ここにこんなものが建つから、駅から家まで遠回りになるということで、近道をしているそうです。その時にこの前を通っているんですが、その時と明かりが違っていたので、普段は覗き込まないはずのこの場所を覗き込んで、そこに誰かが倒れているのを発見したという次第なんですよ」
 と清水刑事が説明した。
「えっ? 夜にこの中に入って近道をするですって? そんなことができるのかな? 確かにここは、工事現場ということもあって、セキュリティのようなものがしっかりしているわけではないので、カギを開けようと思えばできなくもないけど、それだって、素人ではできないですよ」
 と親方はいう。
「ん? じゃあ、普段はこの扉の鍵は閉まっていて、他の場所も表からは開かないということですか?」
「ええ、そうです。しかも、こっちから入って向こうに抜けるなんて言うのは、ちょうどここに高くなったこの場所のカギを開けなければ不可能なんですよ。門も結構高いので忍者でもない限り、乗り越えることは不可能です」
 と親方は、正面の門を指差す。
作品名:未解決のわけ 作家名:森本晃次