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短編集112(過去作品)

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 美術館に比べて吸い込まれそうな雰囲気がある。展示品が壁に掛かっている絵だけのような美術館と違い、迫ってくる雰囲気があるからだろう。それはどちらにも足を運んだだけでは分からない。
――どこかが違う――
 と感じ、違いを考えなければ分からないことだ。
 空気の濃さも博物館の方が濃いように感じる。それだけ圧迫感もあった。
 寝ている時に圧迫感を感じると、それは悪い夢を見る前兆と言えるだろう。
 殺される夢は決していい夢と言えるわけでもなく、いくら生まれ変わりたいと思っていても、夢の中で体力を使うのは必至である。
 切りかかってくる相手の顔を見て、その時初めて自分が殺される歴史上の人物であることが分かる。
 相手が、
「覚悟!」
 と言って、こちらの名前を叫ぶことで、暗殺される史実を一瞬にして思い出すのだ。
――俺はここで殺されてしまうのだ――
 その時に咄嗟に逃げる。だが、逃げても逃げ覆えるわけではない。
――もし、ここで俺が殺されなかったら、歴史が変わってしまう――
 殺されそうな場面で冷静にそんなことを考えているのだ。
 夢であることが分かっているから他人事のように見れるからなのかも知れない。そうでなければ、殺されるのが分かっていて、ここまで冷静になれるはずもない。
――どうせなら、どんな心境で殺されたのか、感じてみたい――
 とまで考えた。
 意外と暗殺された人たちは、自分が殺されることを予感していたのかも知れない。人によっては、自分に死期が近づくと分かる人もいるという。暗殺された人の中には、
「俺は殺されるかも知れない」
 などということをまわりに漏らしていた人もいるようだ。
 そのことに思いを馳せ夢を見ていると、最初からの夢の流れを目が覚めてから自覚できるように思えるのが不思議だった。
 最初から夢であることが分かっている。まずそのことからして、他の夢とは最初から明らかに違う。
 時代が自分の生きている時代と違うことも分かっている。なぜなら、歴史上の人物の誰かに扮しているはずなのに、頭の中には現代で生きているサラリーマンとしての意識しかインプットされていない。
 身体やまわりの雰囲気だけが違う時代で、自分の中身は現実なのだ。そのことを徐々に悟り始めると、夢の中が他人事のように思えてくるのだ。
 まるで映画を見ているようなものである。
――少しリアルな映画――
 だが、無責任なことはできない。自分が何か無責任なことをしてしまうと、歴史が変ってしまうという変な意識が芽生えるのだ。
「歴史を変えてはいけない」
 これは歴史に思いを馳せる人間の常識である。歴史を変えてしまうことは、次の瞬間の「消滅」を意味するからだ。
 時代の征服者への道のりを一度の夢で駆け抜けていく。自分が本を読んだりして知っている限りの知識が夢の中で展開されていく。
 征服者へ上り詰めた瞬間、暗殺されることが信じられなくなってしまう。
「私は天下を取った人間なのだ。暗殺などできるはずもない」
 史実よりも上り詰めてしまった場所に誰も近づけるはずがないという思いの方を強く感じ、暗殺を否定してしまいたい気分になる。
 それは逆に暗殺を強く意識してしまったからだろう。
「ここまでなれたのだから、暗殺されて溜まるものか」
 という考えである。
 実際もそうだったのかも知れない。
 暗殺された人も、天下を取った時に、暗殺が頭をちらついたのではないだろうか。頂上に上り詰めると、それだけ敵も多く、標的にされるだけの大きさを自らで作ってしまったことを意味する。誰とも分からない暗殺者に、毎日を怯えるように過ごしていた君主がいなかったとも限らない。むしろ、皆そうだったのかも知れない。
 古代ローマの皇帝たち。彼らの多くは暗殺だった。
 中には暗殺されることの恐怖から、怪しいやつを誰とも言えず、虐殺したり、精神的に耐えられずに、気が狂ってしまった君主もいると聞く。きっと彼らも寝ても覚めても、いつとは知れず、誰とも知れない暗殺者の恐怖に、君主としての表の顔以上に、苦悩する怯えの顔と背中合わせの生活をしていたに違いない。
 暗殺されることが分かっていて暮らしているのは実に恐ろしい。精神的に参ってしまうはずなのに、長年君臨している君主はすごいものだ。
 暗殺計画が練られて、それが露呈して未遂に終わることも多かっただろう。
 暗殺者にはむごい最期が待っている。君主は絶対に彼らを許さないからだ。今後同じようなことが起こらないように、見せしめにしなければならない。
「私を暗殺しようなどと企てたものは、こうなるんだぞ」
 と民衆に思い知らせてやらなければならない。当然暗殺者への所業はすざまじいものだっただろう。
 想像もつかない。そこまでされる危険と隣り合わせなのに、敢えて暗殺しようとするのかが分からないのだ。
 当然時代背景もあるだろうし、制度の問題もあるに違いない。暗殺しなければ、自分たちが這い上がっていけないと思っているからというのもあるだろうし、思想に絡むものも大いにある。
 思想に関しては、一番分かりにくい史実である。
 歴史上の戦争や紛争というのは、大抵の場合は宗教が絡んでいたりするものだ。自分たちの私利私欲に宗教が絡んでくるのか、それとも私利私欲を度返しした宗教の思想がそこに存在するのかは粟津には分からない。
 現代では宗教というと敬遠される。平和な時代だからこそなのかも知れないが、カルト宗教団体には、どこか国家転覆を図るほどの異常な勢力や、平和な時代ならではの、教祖による私利私欲に走った騙しの商法などが取り立たされている事件が多く、いい加減、ウンザリしてしまう。
 粟津も、宗教団体にはそういうイメージを持っているので、歴史を見ていく上で、宗教に絡むところは、どちらかというと敬遠していた。
 戦争や、権力闘争などには興味があった。人間のヒューマンな部分と、歴史という時代の流れに逆らうことのできない事実に思いを馳せるのだ。将来のことが分からない彼らと違い、少なくとも粟津には分かっているという自負がある。その自負が歴史へと粟津を誘っているのだ。
 粟津は音楽を聴きながら歴史の本を読むことが多い。
 有里と付き合うようになってから、クラシックを聴くようになり、音楽の幅が広がった。いろいろな音楽を聴きながら、さまざまな場所で本を読んでいた。それにはヘッドホンステレオは欠かせなかった。
 最初はCDラジカセを使っていたが、そのうちにMDを使うようになった。
 通勤電車の中だったり、喫茶店だったり、その時々で聴く音楽も違っていた。
 それでも馴染みの喫茶店に行くと、時間帯によってジャズだったりクラシックだったりと決まっているので、そのつもりで出かけていくと、読む本もそれなりに感じ方が定まってくる。
 本を読んでいると、自分が歴史上の人物になった妄想を抱いてしまう。主人公の場合もあるし、主人公を助ける人物の場合もある。時には架空の人物になっていることもあるが、これは稀であって、よほど精神的に集中できる時でなければ不可能だった。
作品名:短編集112(過去作品) 作家名:森本晃次