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誹謗中傷の真意

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「私は、彼よりも歳は取っていますが、教団では彼の方が先輩です。でも、彼は私をよく慕ってくれました。何でも相談してくれるし、私も思わずここまで相談してくれる彼を見ていると、自分が偉くなったのではないかというような錯覚に陥るくらいでした。そんな彼が自殺をする一週間くらい前だったでしょうか? 妙なことを言い出すんです。自分が人を殺したのかも知れないとですね。この間から倉敷さんのことがあったので、ひょっとしてそのことではないかと思っていたんです。なぜなら倉敷さんと少年は結構仲が良かったからですね。もっと言えば倉敷さんは今の私のような立場だったんです。少年からいろいろ相談を受けて、それに対してしっかりと答えていたということですが。そんな倉敷さんを慕っていたのは、あの少年だけだったんです。彼は私に倉敷さんの過去も語ってくれました。もう死んでしまった人なので、いいと思ったのでしょう。倉敷さんという人は。まわりからとんでもない過去を持った人で、誹謗中傷を浴びていたと思われているようですが、実は違います。彼の本当のことというのは、小学生の頃、苛めっ子だったということだけです。しかも、そのウラでは父親から迫害を受けていたという事実を隠していたんですよ。そして中学になってから彼は自分の悪口をネットに載せるようになった。つまり彼に対しての誹謗中傷は、自作自演だったんですよ」
 という証言に、辰巳刑事も清水刑事も衝撃を受けた。
 まさかそんなことだとは思ってもなく、実際に聴けば聞くほど倉敷という男は酷い男だというイメージしか湧いてこなかった。
「どうして、彼はそんなことをしたんでしょう? 自虐的すぎませんか?」
 と清水刑事が聞くと、
「確かに新見さんは、自分を自虐的に見ていたことは間違いないと思います。それは一度やってしまうと、彼の中にあるマゾ的な部分が顔を出したのではないでしょうか? 彼が自分を誹謗中傷したのは、小学生の頃、自分が父親から苛められていたという事実を隠したいからでした。どうして隠したいのかという本当の理由はよく分かりませんでした。ひょっとすると新見さん本人にも分かっていなかったかも知れません。新見さんという人は、だから世間がいうようなとんでもない人ではなく、思慮深い人だったと言えるのではないでしょうか? それは大人では理解できないもので、少年のような子供の心に近い人でなければダメなんでしょうね。でも、だからこそ新見さんの思惑はうまくいった。そして理解しているのは少年だけなので、少年のいうことを大人が間に受けるわけもない。少年はそんな新見さんに距離を感じたのかも知れない。自分だけが分かっているはずなのに、新見さんはそれを嬉しくは思っていないし、本当に自分のことを仲間だと思ってくれているかということも分からずに、疑心暗鬼になっていた。そこで、彼は新見さんを殺そうとした。衝動的だったのかどうか、本人にも分からなかったようですが、でも、本人は本当に殺していないのではないかと言っています」
 と彼は言った。
「じゃあ、本当に殺したのは他にいるということかな?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「ええ、そうだとしか思えません。でも、そうなると少年にはまったく心当たりはないんですよ。自分の相談にはよく乗ってもらっていましたが、少年は新見さんのことをほとんど知らなかったようなんです。新見さんが誰にも話していない秘密を除けばですね」
 と彼はいう。
「うーん、よく分からないですね。じゃあ、あの殺人未遂(?)現場を誰かが見ていたということでしょうか?」
「そうだと思います。ただ、それも偶然見つけたのか、それとも少年のことを気にしている人がいて、その人が少年の尾行中に見つけたということなのか、どちらにしても、少年は本当の殺人を犯していないと言えるのではないかと思うんですよ」
「じゃあ、彼はそれをあなたにだけ言ったと?」
 と辰巳刑事が聞く。
「ええ、本人は誰にも言っていないと言っています。おそらくそうでしょう。誰かに感嘆にいえる話ではないですからね。たとえ言ったとしても、悪い冗談だと言って。、怒られるのが関の山ということではないでしょうか?」
 と男がいうと、
「よほどその少年のことが気になっていたんでしょうね。親のような人かな?」
 家族構成はややこしい。少年は両親とも、どちらも嫌いなので、もしそれが本当だとすると、、嫌いな親に見られていたということが、自殺未遂への引き金になったと言えるのではないだろうか。
 それから事件の話が急展開をしたのは、少年の父親が自首してきたことだった。
「私は、家内と離婚して、息子とも離れました。それからの自分の人生は坂道を転がり落ちるような本当の転落人生だったんです。誰からも相手にされず、何も考えずに、苦し紛れの離婚から、親権ももと元嫁がもらってくれるのなら、のしをつけてやってもいいというくらいになっていました。半分やけっぱちだったのかも知れない。だが一人になってみると、何もかもがうまくいかず、取り返しのつかないことをしたと思っていました。そこで私は息子をずっと見張っていたんです。宗教団体に行くのも分かっていましたし、息子が新見という男を慕っているのも分かっていました。しかしやつは話を聞けば聞くほどとんでもないやつではないですか。息子は子供だから分かっていないと思い、いつか薄子をあいつから取り戻そうと思いました。そうすることで息子が私に靡いてくれて、ひょっとすると一緒に暮らせるかもなんてことも考えました。でも、そのうちに息子が新見に不信感を抱いていることが分かってくると、やっと機会が訪れたと思ったんです。そこで新見を説得するつもりで息子の後を追いかけると、何とやつを刺して逃げるところでした。やつはまだ生きていましたが、このまま復活されては息子の罪が露呈すると思い、私がとどめを刺しました。その時は殺されてもいいやつだとしか思っていませんでしたからね。でも息子はその後自殺未遂を行います。私はその時、すべてを知りました。息子が自殺未遂したところに息子の遺書がありすべてを理解しました。私は息子のためにやったと思ったんですが、本当にそうなのかが分からずに、自首してきたというわけです。息子は悪くありません」
 と父親は言った。
「う―ん」
 と辰巳刑事は唸ったが。
「でも、私は後悔していません。確かに新見は言われているような悪い男ではないかも知れない。しかし、彼の一つの自分の中にある秘密を隠したい一心で考えた自分への誹謗中傷が、結果として自分の命を抹殺することになり、さらに私たち親子をこんな目に遭わせることになるからですね。そういう意味では、正義感を振りかざしているのを見ると私は虫唾が走るほど嫌なんです。息子が通っていたあの宗教団体、あの宗教団体がどのような主旨でたっているかということも、勉強しました。確かに彼らの言い分は正しいかも知れない。でも万民に受け入れられなければ、それはまったくの無駄なことにしかならないんですよ。それを思うと私は実に世の中の理不尽さを呪いたくなるくらいです」
 と言った、
作品名:誹謗中傷の真意 作家名:森本晃次