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誹謗中傷の真意

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「それでですね。その性格って普通なら短所はないですか? でも、その奥さんが息子から聞いたことによると、倉敷さんはそれを長所に変えようとしていたというんです。そして、実際には長所としてもそれを活用できるようになっているので、短所の方は目をつぶるという感じですね。つまりは、人から嫌われるのは覚悟の上で、自分の長所を伸ばしているということなんですよ」
「長所と短所は紙一重と言いますからね。倉敷さんにとっては、長所を伸ばす方を選択されたんでしょうね」
「ええ、その奥さんも、自分の息子に望むこととして、短所を治すことも大切だけど、それ以上に長所を伸ばすことをしてほしいと願っているというんです。だから、それまで倉敷さんを白い目で見ていたその奥さんは、倉敷さんに対しての見方を変えて、今ではすっかりあの人のことをいい人だと思っているようなんですよ」
「その奥さんと倉敷さんはよくお話とかしているんですか?」
「いいえ、それはないようなんです」
「話もしないのに、相手にいい人だと思わせるというのは、倉敷さんという人は、皆さんと見方をちょっと変えただけで正反対の性格に見せるという力を持った人なのかも知れないですね」
 と聞き込みを行っていた辰巳刑事が聞いた話だった。
 それが、事件が発生してから二日目のこと、教団を訪れた次の日の情報だった。
 二日三日の間で少し集めることができた情報も、次第に集まらなくなってくる。実際に、これだけの情報では、事件の真相に辿り着くのはなかなか難しいと思われていたのであった。
 一週間が経った頃、辰巳刑事と清水刑事は食事に出かけ、話の流れからが、自然とこの事件の話になった。
「本当によく分からない事件ですね」
 と、辰巳刑事がいうと、彼の本心がどこにあるのかよく分からない清水刑事は聞き返した。
 今までのパターンをよく分かっている清水刑事は、いつものような気持ちになっていた。
「どういうことだい?」
「最初は会社のトイレで人が殺されていて、しかも昼間のこと、会社という見つかりやすい場所ということもあって、情報は掃いて捨てるほどあるのかと思いきや、実際には宗教団体などの閉鎖的な場所が出てきたかと思うと、その宗教団体は思ったよりも、オープンだったこともあって、自分たちが感じているよりも、かなり事件が簡単なのではないかと思えた。それにも関わらず、気が付けばほとんど情報が出てくることはなく、いたずらに時間を費やしているだけにしかなっていない。何度かの紆余曲折がある事件というのは結構ありますが、今回のはその中でも幾分か特殊な事件に思えて仕方がないんですよ」
 と辰巳刑事はいう。
「確かにその通りだね。でも、数少ない情報とはいえ、積み重ねていくだけの材料は揃っていないのだろうか? あまりにも情報が出てこないことで、結び付けられるだけの話をこっちで勝手に忖度して、結び付けようとしないという変な気の遣い方をしていないかとも思えるんだけどね」
 と清水刑事は言った。
「私が気にしているのは、三日目だったですかね? 近所の奥さんの中で、中学生のお子さんを持った奥さんの話が話題になったでしょう? あの奥さんだけが、あの話の中で倉敷という男を贔屓目で見ていたようじゃないですか。大人は皆彼を無視する形でいるのに、中学生の子供が倉敷と仲がいいというのも、何かあるような気がするんですよ」
 という辰巳刑事に、
「そういえば、その奥さんや子供から話を聞いたんだっけ?」
 と清水刑事が聞くと、
「ええ、話を伺おうとお宅まで行ったことは行ったんですが、その時奥さんは仕事に出ているようだったので、だったら、その子に訊いてみようかと思ったんですが。その子からは話すことを拒否されました」
「拒否された?」
「ええ、どうもおかしいと思って近所で、そこの家庭のことを聞いてみたんですが、どうやらその中学生の男の子は、学校で苛めに遭っていたようで、引きこもり一歩手前にいたそうです。母親とも結構揉めていたようで、時々喧嘩している声が聞こえてきたり、息子が暴れているのは聞こえてきたりしていたそうです」
「そうなんだ。家庭環境が複雑なんだな。ところで父親は?」
「それが、三年前に離婚したようです。理由は分かりませんでしたが、家庭内で息子が暴れるようになったのは、それが原因ではないかというんです。ただ、普段は仲がいい親子のようで、何かあった時だけ暴れているようなんですよね。だからこの間の奥さんの話も、親子が仲のいい時に訊いた話ではないでしょうか。そういう意味ではあの奥さんの話には信憑性があるような気がするんです」
 と辰巳刑事がいうと、
「それはどういう意味だい?」
 という清水刑事の問いに、
「いつも仲がいい親子というのは、一見非の打ちどころがないように感じますが、逆に言えば、お互いが探り合っている時間が長いだけのような気がするんです。たまに衝突しているくらいの方が、穏やかな時間は仲直りしたいという気持ちになったり、もう喧嘩をしないようにするにはどうすればいいかを模索することになるので、却ってお互いに本音が言えるのではないかと感じているんです。だからあの親子の平静な気持ちの時の話というのには、信憑性がかなりあるように思えるのは私だけでしょうか?」
 と辰巳刑事は言った。
「なかなか鋭い観察眼だ。私も同じことを感じるね」
 と清水刑事はそう言いながら、相変わらずの辰巳刑事の目の付け所と、発想の奇抜さを奇抜と感じさせない考え方に一目置いているのだった。
 そんな家族においての中学生の子供は、一人っ子であるがゆえに、父親は息子に過大な期待を寄せ、母親は常識的で平均的な期待を寄せていた。離婚前の夫婦はどうやら、本当の仮面夫婦だったようで、特に母親は世間体を気にしすぎた。
 そのことで夫も次第に家族への愛情が覚めていき、息子のこともどうでもよくなってくる。
 息子の方は、両親ともに嫌いだったが、どちらかというと父親の方がましだった。期待を寄せていると言っても言葉で言われるだけで、具体的に、何になってほしいのか、何を目指してほしいのかなどの詳しいことを口にするわけではない。
 しかし、母親は息子に対して直接的な指示や文句をいう。息の抜けどころがなくて、ノイローゼになってしまいそうなくらいである。
 そんな二人の教育方針の違いは、さらにお互いを離すことになったようだ。
「お金で繋がっているだけの夫婦」
 という感覚が小学生の時のその少年の頭にはあった。
「お父さんは仕事をして、お母さんにお金を渡す。お母さんはお金をお父さんが持ってくるから、築説的にお父さんに文句を言えない」
 そんな関係が続いていることで、すっかり冷めてしまった夫婦間には、どこか母親が家族の中で一番偉く、父親は母親の言いなりで、息子はそんな母親に恐怖を感じる。少し歪な考えではあるが、
「お金で繋がる一種の主従関係」
 という構図に、小学生の子供としては見えたのだった。
 殺された倉敷という男が、そんなこの少年と仲がいいという、辰巳刑事はどうしてもこの少年のことが気になって、何度か聞き取りをしようと試みたが、一度は少年自ら、
「何も話すことはない」
作品名:誹謗中傷の真意 作家名:森本晃次