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誹謗中傷の真意

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 にあったとは、その時はまったく気づかなかった。
 ただ、最初に三階でエレベーターを降りた時点で、まったく初めて見る光景のはずだったのに、
「初めて見る光景ではないような気がする」
 という第一段階のデジャブに遭遇した。
 それを思うと、
「俺は、今日、何度ここでデジャブを味わうことになるのだろうか?」
 と感じたのもまんざらでもない気がした。
 扉の横の上部に掛けられた、
「校長室」
 というどこかレトロな札は、いかにも学校か病院を思わせ、懐かしさを感じさせるのであった。
 校長室と書かれた扉の前に立って、廊下を振り返ると、隣には執務室の表示、正面には理事長室の表示が見え、思ったよりも薄暗い廊下であると感じた。そこはさながら、刑務所の通路でもあるかのような雰囲気に、静寂が急に怖く感じられるほどになっていた。
そんなところで佇んでいると、佇んでいるというよりも、そのへんてこな空間に漂っているようで、おかしな気分にさせられた。
 前に進もうとしても、どうしても、その扉の前を通り過ぎることのできないかのような錯覚に、
「これこそが、教団による無言の圧のようなものではないか」
 と思うのだった。
 昨日、岡崎さんから聞いた話で、
「教団にはさほど悪いイメージを感じないが、くれぐれも自分で感じてほしい」
 というようなことを言っていたが、その意味が分かったような気がした。
 立場が違って、すがるような気持ちでこの教団を訪れた人なら。この通路がどのようなものに思えるか、孤独と脅迫観念のようなものを感じるかも知れない。その時、校長や他の信者から優しく迎えられたら、孤独が一瞬にして払拭され、教団の思惑が成就するのかも知れない。そう思うと、この立て方や演出一つ一つに意味が存在し。入信をあくまでも自分の意志で行ったと思い込み、その中に必然性を感じることで、教団側の演出に気付いていても、違和感がない分、素直になれると考えたのだろう。
 これがこの教団の正体であり、あくまでも、一つの家族のようなイメージを持ちながら、学校をモチーフにしたような演出が、正体を覆い隠しているのかも知れないと感じた。
 だが、実際には、覆い隠そうなどという意思はきっと教団には存在しない。あくまでも正直に表に出しているだけのことなのだが、その正直さが相手に対して誠意を表し、誠実さを感じさせるのだ。
 清水刑事は、刑事としての勘を忘れてしまいそうになるほど、一瞬不思議なものを感じた。警察の中でもなるべく入りたくない留置場への道を思い起こさせるのだから、この演出もバカにできないものである。
 倉敷はそんな教団の中でどんな役割を演じていたというのだろう。彼の受けている誹謗中傷というのが、教団に入信していることから生まれたものではないかと思えるくらいだった。まずは、倉敷と教団の関係を知る必要があるだろう。あくまでも今の段階では彼が殺された理由に、教団が関係しているという事実は出てきていないからだった。
 朝からアポイントを取っていたので、校長と呼ばれる幹部は、部屋にいるはずであった。
「コンコン」
 と扉をノックすると、中から、
「はい、どうぞ」
 という声が聞こえたので、
「失礼します」
 と言って清水刑事が中に入ると、そこには正面の扉の手前に広々と執務机に座った校長がこちらを見て、ニコニコと笑っている。
 同行してきた辰巳刑事は四階に行って、一般信者と触れ合うという同時進行となっていた。
 今日の訪問内容は、事前に伝えていたので分かっているはずだし、信者の一人である倉敷という男性が殺されたということも、それ以前に訊いて知っていたようで、アポイントを取った時にも、さほどの驚きはなかったようだ。その時に想像していた相手よりも、実際の校長は、思っていたよりも背が低く、年齢も高いようだった。
 普通年齢が思っていたよりも上だと感じると、貫禄がついていると思うものだが、逆に実際にあった校長は、貫禄よりも気さくな雰囲気が印象にあり、路を歩いていれば、普通のおじさんとしてしか見えないだろうということは分かった。
「倉敷さんのお話ですよね。さあ、どうぞ」
 と言って、校長は椅子から立ち上がえり、正面にある応接セットのソファーの奥に座って、清水を促した。
「では、失礼して」
 と言って、校長の前に鎮座して、さっそく要件を離し始めた。
「ええ、昨夜こちらの信者である倉敷さんが、自分のつぃとめている会社で殺されたのですが、この教団にも所属しているということを伺いましたので、ここでの彼のことをいろいろと知りたいと思いまして、参上いたしました」
「そうですか、いろいろ調べて行ってください。私は倉敷さんという方をほとんど知らないんですよ。ただ、彼が礼儀正しい人間であることは分かっていました。いつも私に深々と挨拶をする人がいるんですが、今回写真を見せられてその人物が倉敷さんであると知った次第です」
 と、校長は言った。

                誹謗中傷の末に

「ありがとうございます。ちなみにここの教団はどういうところなのでしょうか?」
 と清水刑事が聞くと、
「ご覧になっていただければ分かると思いますが、うちは、教団という言葉をそのまま訳すれば理解できるところだと思っています。教団を宗教と考えるのではなく。教えると考えればいいかも知れません。そういう意味ではうちは、宗教団体よりも宗教っぽいのかも知れないと思っていますよ」
 と校長は言った。
「それはどういうことですか?」
「清水さんは、ギリシャ神話などをご存じでしょうか?」
 という意外な質問に、何と答えればいいのか分からず、とりあえず、
「ええ」
 と答えたが、
「よろしい、では、ギリシャ神話に出てくる神々をどのようにお感じかな?」
 と言われて、
「ええっと神話に出てくる神様は、自分たちのイメージしている神様と違って、感情に溢れているんじゃないかと思います。嫉妬深かったりしていて、それが物語を紡いでいるわけではないでしょうか?」
 と思った通り答えると、
「そうです。その通りなんですよ。私たちは、そういう神々のことを、人間よりも人間臭いと言っています。そもそも、ギリシャ神話と言っても人間が作り出したお話でしかすぎないので、そこは限界があるんでしょうけど、要するに人間よりも人間臭い。そこがポイントなんです。つまりは、人間が一番人間臭いと思っているのは間違いではないかということです。神話を書いた人たちはそれを知っていた。人間の中で一番人間臭い部分だけを抜き出して、そこに万能の力を与えることで神を創造した。それがギリシャ神話の正体ではないかと思うんです。もっとも、同じことは聖書にも言えるであろうし、コーランなどの他の宗教にも言えるんですよ。どんなに宗派が違おうとも、結局は人間臭い世界を創造するという意識が宗教というものではないかと思っているんですよ」
 と、校長は言った。
「なるほど、そうやって説明していただけると、分かったような気になってきます」
 と清水刑事がいうと、
作品名:誹謗中傷の真意 作家名:森本晃次