小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

誹謗中傷の真意

INDEX|17ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「そうだよな。お前から今日時間取れないかって言われた時、すでに事件が発生していて、刑事課は忙しそうだったのに、俺のところなんぞに珍しくも連絡を入れてくるから、ははん、これは何かあるなとこっちも思ってさ。それが聞きたくて、こうやってワクワクしながら待っていたというわけさ。すまないが、先にやっちゃってたぜ」
 と岡崎は言った。
「いや、いいんだ。呼び出しておいて、俺の方が送れたくらいだからな。どんどん飲んでいてくれても結構なんだよ」
 ろいうと、
「じゃあ、お言葉に甘えて、俺のペースでいかせてもらおう」
 と岡崎はいったが、正直岡崎と差しで飲むのは初めてなので、彼がどれほどの酒豪なのかは正直知らない。
「ところで、岡崎は公安の方で、宗教関係に詳しくはないかと思ってな」
 と清水刑事が切り出した。
「うん、このあたりの宗教関係なら、まあまあ知っているつもりだけど?」
 というと、
「これはまだ、まわりに秘密にしておいてもらいタンだけど、今回の被害者は、何でも『ノア研究会』という団体の信者だっていうんだ。一体どんな団体なんだい?」
 と言われて、
「『ノア研究会』か、あそこは宗教団体というよりも、読んで字のごとしで、勉強会が宗教法人になったというようなところなんだ。だから、教祖と呼ばれる人はいない。そのかわり、校長のような人がいて、別に理事長のような人がいる。この二人が実質教団を仕切っていると言ってもいい。学校のように理事長の方が絶対的な権利は盛っているんだが、教団の実質的な活動には校長が出ていく。だから、詳しく知らない人は、あの教団を、学校だと思っているんじゃないかな? 見た目も悪い集団というわけでもなく、今のところ俺たち公安もあの団体に対しては、そんなに警戒していないというところかな?」
 と岡崎は言った。
「でも、俺が気になっているのは、『ノア』という言葉なんだ。きっと箱舟のノアなんだろうと思うんだけど、聖書の伝説ではノアの話は、世界の人類や生き物すべてを一度滅ぼして、その一部から再生させようと企む話じゃないか。それを思うと、何か奴らも社会の破壊者ではないかという印象を受けるんだけど、違うんだろうか?」
 と清水が言うと
「確かに、俺も最初はノアの箱舟伝説を考えて、やつらの目的は、浄化にあるんじゃないかって考えたこともあった。だが、それらしきことはまったくなくて、聖書に関しては勉強の教材にしているようなんだけど、そこから皆を洗脳したりするようなこともない。他の宗教のように、教団内で共同生活をしている人もいれば、通ってきている人もいて、そのあたりも自由なんだ。一応俺たちも公安という立場でいろりろ探ってはみたが、怪しいところはなかったぞ」
 と言われた。
「そうなんだな」
 と若干、がっかりした顔をした清水に岡崎は、
「ちなみにその被害者ってのは、どんな人なんだ? 宗教団体に入信するような男なのか?」
 と聞いてみた。
「それがよく分からない男なんだ。まわりからはほら吹きだと言われたり、どこからともなくとんでもないう男というウワサが流れてきてネットでは、その具体的なことが書かれていたりするんだそうだ」
「それは怪しいよな。ネットでは人を特定するような誹謗中傷は問題になる。公安や生活安全課でもそのあたりには目を光らせているんだが、何しろ警察と祭―犯罪とはいたちごっこのようなものだから、始末が悪い。実際に生活安全課などには、一般市民からいろいろな苦情が寄せられていて、誹謗中傷の類などは、大変なことになっていたりするんだ。警察でできることは限られているので、人によっては探偵を雇ったりしている人もいるくらいさ。今は宗教団体よりも、そっちの方が大変だな」
 と岡崎はそう言った。
「ところで、ネットによる誹謗中傷って、そんなにひどいのか?」
 と清水がいうと、
「ひどいなんてもんじゃない。人によっては自殺をする人も多くて、芸能人であったり、スポーツ選手のような露出の大きい人が何かをやれば、ネットでは大騒ぎさ。それをネットの世界では、『炎上』というんだけどな」
 と岡崎はいった。
「炎上という言葉はよく聞く。ユーチューバーなどでもよくある話だよな」
「ああ、特に不祥事や不倫報道などされたら悲惨さ、まともに家を出ることもできなくなるくらいだ」
「そういえば、昔、どこかの国の元王妃が、パパラッチなる連中に追われて、事故死したという話もあったが、そうやって考えると、昔のマスコミが、今はネットというわけか」
「そうなんだ、ネットだったら、家にいながら、いくらでも配信できるので、少しでも信憑性のあることであれば、すぐに誰かが飛びついて、ちょっとしたネタ程度の話があっという間に尾ひれがついて、あたかも真実のように全世界に配信されてしまう。小心者なら死にたくなるのも当然というところだね」
 という岡崎に、
「今日の被害者も、実は中学時代の誹謗中傷、高校時代の誹謗中傷、このどちらもひどいものなんだけど、その本人は、小心者だったというのに、今まで自殺も試みたことがなかったらしいんだ」
 どんな内容だったんだい?」
 と岡崎に訊かれて。
「中学時代には、何やらお金で関係ができて。相手を奴隷のように扱っていたというような話で、高校時代には、好きになった女の子を自分が略奪して暴行したなんていう、それこそとんでもないウワサだったんだ」
 と清水がいうと、
「それは酷いね。でも、それをその被害者だと特定できる何かがあったんだろうな。だからまわりが信じたのでウワサになったはずだから」
 と岡崎がいうと、
「そうなんだ。でも、その確証が見つからないというんだ。これは第一発見者から聞いた話だったんだけどね」
「その第一発見者と被害者は親しかったのかい?」
「そうでもなかったようだ。たまたま彼が第一発見者になったというだけだ」
「そんな男でも、ウワサを信じていたということは、よほど被害者にはどこかそういう素質のようなものがあったんじゃないかな?」
「きっとそうだと思う。何しろ、被害者は小心者で、あまり人と話をしない人だったということだからね」
 と、これは、実際に他の人から聞いたわけではなく、清水刑事の思い込みも少し入っていた。
 だが、その思い込みが外れているとは思わない。被害者のことを聞く限りでは、あまりにもひどいウワサが流れているわりには、分かりやすい性格のようだ。このギャップがどこかで事件解決に繋がってくると、清水は感じていた。
「そういえば、あの教団も、実情は他の宗教団体と違って、教団名が示すような本当の勉強集団なんだけど、まわりからはどうしても宗教法人ということで、目をつけられているようなんだ。それこそ、世間からの迫害のようにも見えて、気の毒に見えるくらいだよ」
 と、公安の岡崎に同情されるほどの団体だったのだ。
「やっぱりそういう団体に対しては、ネットでの誹謗中傷何かもあるんだろうね」
 と清水刑事がいうと、
「それはそうだね。だけど、実情を知っている人が多いのか、それとも、教団内部で何かあるのか、教団についていい意見と悪い意見が対立していたりするんだ」
「どっちが強いんだい?」
作品名:誹謗中傷の真意 作家名:森本晃次