小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

誹謗中傷の真意

INDEX|16ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「そういうウワサが立てば、そうなってしまうでしょうね。本当にウワサというのは恐ろしいものだ。ところで、それに対して倉敷という男はどういう反応だったんだい?」
 と清水刑事が聞いた。
「元々が小心者だっていう話があったので、やつが何も反論しないのは、やはり本当なんじゃないかという話にもなったんだけど、じゃあ、どうして今小心者のやつが、子供の頃、そんなひどいどうしようもないような男だったのかって、思いますよね? 結局分からずじまいで死んでしまったんだけど、最近ではまわりで、彼のことを気にするのはやめておこうというような話も持ち上がっていたんですよ。結局、変なやつには関わらない方がいいということですね。関わったわけでもないのに、僕はやつの死体の第一発見者などになってしまいましたけどね」
 と言って、、苦笑いをした。
 その表情はとても笑っているという感じがするわけでもなく、結局は彼の死で曖昧に終わってしまったと言いたいのだろう。
 しかし、警察としては、曖昧では済まされない。
 彼に対しての誹謗中傷に近いネットの書き込みや、ウワサがどこまで本当なのか、第一発見者の男の話を聞いているだけでは、ハッキリとは分からない気がした。彼はなるべく倉敷と関わりたくないと思って距離を置いていたと言っている。
「どうしてそんな俺が、第一発見者にならなければいけないんだ?」
 と思っているに違いない。
「俺ってついてないな」
 と感じたのかどうか、とりあえず警察には正直に話をしていた。

               教団の正体

 小心者で、さらにまわりから、
「ほら吹き」
 呼ばわりされている男、そんなどこか矛盾した性格を抱いている人間が、宗教団体に入信していたというのも、不思議な気がする。
 確か見、来る者は拒まずということで、自由に入信を許している教団もあるのかも知れないが、少なくとも宗教法人として、体裁はキチンと繕っている組織に、中途半端な信者がいるというのおはどういうことなのだろう。
 警察のような組織にいることで、どうしてもそう感じてしまうのだが、世間一般ではこれが普通のことなのか、あまりよく分からなかった。
 とりあえず、署に戻って、公安部に宗教団体について話を聞いてみることにした。いずれ訪問しなければいけないことに変わりはないが、どのような団体かという予備知識を頭の中に入れておく必要があるからであった、
 警察組織にはいくつものパターンがあり、例えば県警、府警などのような都道府県単位での警察組織、ちなみに、警視庁というのは、東京都における警察であって、いわゆる「都警」と言っていいだろう。よく勘違いされるが、全国の警察を統べているわけではなく、あくまでも東京都だけが管轄である。だから、神奈川県で起こった犯罪に、警視庁が、たとえば、
「被害者が東京の住民だから」
 という理由で、神奈川県警に挨拶を一言入れておかなければ、
「管轄侵犯だ」
 などと言われかねない。
 警察組織というのは管轄意識がかなり強く、それがテレビドラマなどでよく話題になるところである。
 宗教関係について詳しいといえば、やはり公安課であろうか、警察組織は前述のように、管轄意識も強いので、組織図も若干都道府県によって違いはあるが、ほぼ変わりがないと言っていい。ここでいう公安というのは、警備課に属し、公安第一課から三課くらいまであるのが普通である。主に、暴力団や非正規組織によるテロ、破壊工作などの警備や捜査に当たる部署のことをいうのだ。きっと、この得体の知れない、
「ノア研究会」
 なる宗教組織も、さぞや公安の方で目をつけられているに違いない。
 清水刑事は公安の中に同期がいるので、その人に今回の話をしてみようと思い、連絡を取ると、
「じゃあ、今夜食事でもしながら話をしよう」
 と言って、小料理屋を予約してくれた。
 さすがに公安の人間とおおっぴらに大衆がいる場所で、宗教団体が絡んでいる殺人事件の話をするわけにもいかない。何しろ事件は発生したばかりで、まだ宗教団体が事件に絡んでいるかどうかということも分からないからだ。
 あくまでも予備知識を得るというだけの目的で話を聞くので、個室でゆっくりできるところがいい。
 署に帰ると、捜査本部を明日設立するということで、刑事課は慌ただしかった。
 いつものようにリーダー格には門倉刑事が就任することで、清水刑事も辰巳刑事もやりやすいと感じた。
 門倉刑事のところに鑑識から報告が届いていて、やはり死因はナイフの傷で、死後三時間ほどだということだった、
 となると、殺されたのは夕方近くということになり、それから誰にも発見されなかったというのはやはりおかしい。
「死体が動かされたということはなかったんですか?」
 と聞くと、
「それはないようだ。たぶん、トイレの個室にカギをかけておいたんだろう。そして、誰もいなくなったところで、カギを開けた。そんなところではないかな?」
「どうしてそんな面倒なことをしたんだろう? 普通ならアリバイを考えるが、自分でカギを開けたのだとすると、それも考えにくいし、それよりもすぐに発見されては困ったのか? もしそうなら、トイレで殺すという意味が分からない」
 と、清水刑事が不思議そうに、自分に言い聞かせるような口調で、独り言のように呟いた。
「とにかくこれからいろいろなことが分かっていきますよ」
 と辰巳刑事は比較的楽観視しているようだが、清水刑事は辰巳刑事ほど、楽天的にはなれなかった。
  清水刑事は、ありきたりの話を聞くと、そそくさとその日は署を後にした、何しろ同期入社の公安の人と待ち合わせがあったからである。
 小料理屋までは、署からタクシーで五分ほど、
「岡崎さんは来られていますか? 清水と言いますが」
 と、仲居さんに声をかけると、
「ああ、はい。岡崎さんのお部屋のお方ですね。はいはい、お待ちかねですよ」
 と言って、わざわざ彼女が部屋まで案内してくれた。
「こりゃ、お忙しいのに申し訳ありません」
 と言って、会釈をし、中に入った。
 昔であれば、チップの一つも上げるのだろうが、時代も令和に変わり、すっかり昭和が遠く感じられるようになったかのようで、寂しかった。
 もちろん、清水刑事はそんな昭和の時代を知るわけではないが、こういう古風な店に来ると、憧れの昭和を思い起こさせるようで、自分が昭和を知っているかのような錯覚に陥るのだった。
「それではごゆっくり」
 と言って踵を返してまた廊下を戻っていく彼女の後姿に見とれてしまったが、
「いかんいかん。待たせている身分だった」
 ということを思い出し。急いで中に入った。
「いやあ、すまんな。すっかり待たせちゃって」
 というと、
「いやいや、いいんだ。そっちだって今日事件があったんじゃないのか?」
 と言われたので、
「うん、そうなんだ。一人の会社員が、トイレの中でナイフによる刺殺だったんだけどな」
 と言いながら、腰を下ろすと、
作品名:誹謗中傷の真意 作家名:森本晃次