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誹謗中傷の真意

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 道を歩いていても、人にぶつかりそうになり、ビックリするのだが、次の瞬間にはまたスマホの画面ばかりを見ながら歩いている。まったく気になっていないのだった。
 そのくせ、会社に行くと、友達はいるようなのだ。表に出て誰とも話すこともなく家に帰りつくのに、会社では友達のように振る舞っている相手がいる。果たして相手は自分を友達だと思っているのか、それとも相手に対して自分も友達だと思っているのか、果たしてどうなのか分からない。
――二人の関係を本人に訊いても信憑性はないかも知れないな――
 と、清水刑事は思った。
「では何か他に倉敷さんのことでご存じのことってありますか?」
 と聞かれた発見者は。最初少し考えたようだった。
 何かを知ってはいるのだが、何だったのかを思い出そうとしたのか、それとも、これは言ってもいいことなのか、少し迷ったのか。普通であれば、相手は死んでいて、その人間を殺した人物を探そうとしている警察の人が相手なのだから、知っていることは話すのが当然だと思うのだろうが、それでも迷うということは、そこには何か秘密があるというのだろうか。
「ええっと、彼はある宗教団体に入信していたというウワサを聞いたことがあります」
 それを聞いて、辰巳刑事は溜息交るで、
「宗教団体?」
 と聞き返した。
「ええ、あくまでもウワサなのですが?」
「それは何という団体なのか、聞かれました?」
「ええ、聞きました。どうもその団体というのは『ノア研究会』というそうです。最初聞いただけでは宗教団体とは思えませんが、登録は宗教法人となっているそうです」
 と彼は答えた。
 辰巳刑事が宗教団体と聞いてため息交じりになったのは、つい最近解決した事件の中でも、宗教団体というのが重要な地位にあって、その団体のことがしばらく頭にあって忘れられなかった。
 人をその気にさせて洗脳させて、マインドコントロールすることで、団体の存続を図る。それが宗教団体の正体だというように思っている辰巳刑事には。宗教団体という組織は、勧善懲悪の自分にとっての、永遠の敵とでもいえるものではないかと思っている。
 ウワサとは言いながら、被害者が宗教団体に所属しているということを聞くと、それはすでに辰巳刑事にとって、戦闘開始モードに入ったと言ってもいいだろう。それだけ最近自分たちに嫌というほど関わってくる宗教団地という言葉を聞いただけで、辰巳刑事は条件反射のように、ため息が漏れるのだった。
「その『ノア研究会』というのはどういう団体何でしょうか?」
 と訊かれて、
「何でも、聖書に出てくる『ノアの箱舟』を研究するというところからついた名前だということでした。『ノアの箱舟』ご存じでしょうか?」
 と訊かれて、
「ええ、少しですが分かっています。確か、聖書の中で、神様が自分の作った人類が堕落したことを憂い、神様が人類を滅ぼすために、大洪水を起こすが、あらゆる種族の存続のために、ひとつがいの種の保存緒ために選ばれた動物たちと、人間で神に選ばれたノアに、箱舟を作らせて、彼らを箱舟に載せるんですよね。そして彼らがもう一度、最初のアダムとイブになるというような話だったと思いますが」
 と清水刑事は答えた。
「ええ、概ねその通りです。いろいろな意見があるとは思いますが、神様の目的は何だったんでしょうね?」
 と聞かれた。
「それは浄化にあったんじゃないでしょうか?」
 と答えると、
「ええ、その通りです。つまり『ノア研究会』というのは、その浄化というものを正当化し、今の世の中でも浄化が必要ではないかということを突き詰めようという宗教なんです」
 と言われて、今度は辰巳刑事がビックリしたように。
「えっ、それって世の中の浄化を肯定し、浄化を正当化するための宗教ということになりますね。じゃあ、浄化という名目の元に人が殺されてもそれは仕方のないことのように思われますね」
 というと、
「ええ、その通りです。僕とすれば、だから宗教団体なんじゃないかって思うんですよ。僕も勧誘されたことがありましたが、ちょっと考えただけで、それだけのことを感じたので、即座に入信を断りました」
「それはそうでしょうね。それでも入信する人がいるということは、真剣、浄化を考えているんでしょうかね?」
「そうだと思います。今の自分の立場や居場所に不満を持っている人にとっては、絶好の自分をアピールできる場でもあり、自分の存在価値を表すための手段でもありますからね。宗教団体というものは、人の心にどんどん入り込んでくる力を持っているんでしょうね。逆に言えば、それだけ救いを求めている人が水面下でたくさんいるということですよ。人間なんて。しょせんそんなものですよ」
 と言っている。
「分かりました。そのあたりの教団に対しての調査は我々の方で行いましょう。ところで他に被害者の倉敷氏について、何かあれば教えてください」
 と清水刑事がいうと、また、少し黙りこむような素振りを見せた。
――被害者の倉敷という男、一体どれだけ人の口に戸を立てるだけの秘密を持っているというのだ?
 と、彼を見ているうちに、次第に苛立ちを覚えた。
 秘密を持っているであろう倉敷に対してもそうだが、なかなか口を開こうとしないこの男に対しても、辰巳刑事はいい加減業を煮やしていた。
「実は……」
 と、男はゆっくりと話し始めた。
――やっと話し始めたか?
 と考えた辰巳だったが、この男が言葉に詰まっているのは、彼の名誉を考えているというよりも、本当に彼をどのように表現すればいいのかに迷ってしまって、言葉を選ぶことができないからではないかと思えた。
「実は?」
 と、清水刑事が促すと、
「彼はほら吹きだという人がいて、そういうところから『ほら吹き男』と呼ばれているようなんです」
「ほら吹き男?」
「ええ、ほら吹きと言っても、少々大風呂敷を広げて、実際にできるわけもないという小心者だというだけなんですが、そんな話が出てから少しして、彼の変なウワサが流れるようになったんです。小学生の頃は、苛めっ子だっただとか、中学に入ると、まるで友達を奴隷のように扱っていただとか、高校になると、好きになった人を無理やり略奪し、暴行を加えていたなどという、とんでもない男というウワサですね」
 その話を聞くと、どうにも気色の悪い感覚が襲ってきたのか、吐き気を催してくるようで。実に気分が悪くなった二人だった。
 それでも、質問しないわけにはいかず、
「そのウワサの出所は分かっているのかい?」
「ネットの書き込みだと聞きました」
 と彼がいうと、
「でもネットでは、相手の特定までしてしまうと、それこそ犯罪になっちゃうだろう? よくそれが倉敷だということが分かったものだよね?」
「ええ、ネットで分かったわけではないんです。そのネットの記事を見た会社の誰かが、それは誰だか分かりませんでしたが、どうやら、それが倉敷だと言って。確証があるかのように言って言いふらしたんですね。そういうウワサというのは、ウソであっても本当であっても、流れてしまうと早いじゃないですか。あっという間に彼のことだということになり、皆が彼を気持ち悪がるようになったんです」
作品名:誹謗中傷の真意 作家名:森本晃次