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自殺を誘発する無為

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 確かにいい方での共通点も多かったし、自分を引きたててくれるところは、まるで痒いところに手が届くというような、良妻賢母になれるだけの素質を持っていたのだろう。
 ただ、この際の良妻というのが、自分に対しての良妻だったのかを考えると、どうも違っているのではないかとも思えた。
「明らかに妻は、この僕だけを見つめているわけではないように思う」
 誰にでも気を遣う彼女は、自分のことだけを見つめている中で、まわりを見る余裕から他の人も見つめることができるのではないかと思った。
 しかし、彼女に見つめられて、舞い上がっているかも知れない連中。彼らにはまったく芽が出るわけではなく、彼女のすべてが自分に向けられていると信じて疑わない感覚に、思い上がりと言ってもいいものなのか、今でも分かっていなかった。
 順風満帆だと思っていた人生に、ふと穴を感じると、その穴が次第に大きくなっていくのを感じた。
 カミングアウトという表現が合っているのかであるが、気になった宗教団体に思わず飛び込んでしまった。
――嫌になったら、いつでも抜けれる――
 などということはあり得ないと思いながら、なぜ飛び込んだのか、自分でもよく分からない。
「好みがコロコロ変わるのも、いきなり衝動的な行動に移る自分を写しているのかも知れない」
 と感じた。
 その店の奥さんは、賑やかなタイプというよりも、大人しい感じの人だった。それまでは、いわゆる三十歳を過ぎてからのことだったが、賑やかなタイプの女性が好きであった。
 それまでは、学生時代であっても、それ以降であっても、基本、大人しめの女性を好みにしていた。
「それでは、学生時代とそれからと、どこが変わったというのか?」
 と訊かれると、
「自分が好きになった人というよりも、自分を好きになってくれる人に大人しめの女性が多かったことから、学生時代は、大人しめの女性が好きだったのだが、それ以降は、自分を好きになってくれる人自体がほとんどおらず、惰性のように大人しめの女性を追い求めていたのだが、就職してからは、大人しい中にも、自分の主張をしっかりと思っている、いわゆる、
「大人の女性」
 が好きになってきたようだった。
 あれは、小学生の頃だっただろうか、小学生は近所の人と学年関係なく班を組んで集団登校をすることになっていたのだが、三年生の時、六年生だった女の子が気になってしまった。
 いつも自分が彼女を迎えにいく立場なのだが、彼女はさすが女の子、小学生でも身だしなみに時間をかけていて、自分を中に上げて待たせていたのだが、ドライヤーを当てたり、髪の毛を解いたりする時間が、ちょうどお邪魔している時間となっていた。
「ごめんなさいね。いつも待たせちゃって」
 と言われる中、和室にちゃぶ台と言った、まるで昭和の風景を感じさせる情景に、少し酔っていた気持ちもあった。
 何が珍しいと言って、壁には柱時計が飾られていた。実際に動いていて。朝の喧騒と下時間でも、柱時計の振り子の音をしっかりと感じることができた。
「さっき目を覚ましたばかりだということもあって、静寂の中での柱時計の振り子の音は、眠気を誘うものとしては、最高だったように思う」
 と感じていた。
 眠気を誘っていると、気が付けば時間は一気に過ぎている。
 毎朝の同じ光景なので、どれがいつのことだったのかが分からない。子供であるから許されるのかも知れないが、さっきのことも記憶がおぼろげだというのは、さすがに年齢を超越した何かが存在しているかのように思えた。
 あの頃は、もちろん、女性に対して異性という感情などのなかったはずなのに、お姉さんと一緒にいると、母親に感じている思いとは違う何かがあった。それが、
「年齢が近いから?」
 あるいは、
「母親ではない、しかも他人という感覚があるから?」
 という思いのどちらなのか分からなかった。
 親近感から感じると、後者のイメージが強い。氷室にとって、女性への感情が目覚めた時があったとすれば、この時だったのではないだろうか。
 その時のお姉さんがどんな感じだったのか、ほぼ覚えていないと言っていいだろう。
「氷室君は、お姉さんから見ると、可愛いのよ」
 と言って、頭を撫でてくれたことがあり、その時のイメージは思い出せた。
 しかし、彼女がその時どんな顔をしていたのか分からない。なぜなら、彼女の顔が近づいてきたその時、後ろに太陽だったか、室内灯だったのかは分からないが、完全な逆光になtっていたため、顔は分からなかった。
 だが、見えない表情から。感情は垣間見えたような気がする。
「歯が、まるで三日月が下を向いているかのように見えるその状況では、明らかに笑っていたような気がする」
 という感覚を気付かせてくれたのだから、その時の表情はまさしくその通りだったのだろう。
 そんな表情は不気味でしかないのだが、そのイメージを今までに何度か夢に見た気がした。その夢の時代背景が本当にその時に感じた小学生だったのかどうか、よく分からない。「ひょっとすると、そのすべてが夢なのかも知れない」
 とも感じる。
「同じ夢を何度も見るというのは、それだけ潜在意識にこびりついて忘れることのできない思い出が、そこに潜んでいるのではないだろうか」
 とも感じさせる。
「子供の頃の思い出はすべて夢だったのかも知れない」
 と感じるほどだった。
 まさかとは思うが、
「過去に感じた思いのすべてを夢として解釈して、本当は過去に感じたことのないものを記憶として感じているのではないだろうか?」
 と感じていた。
 小学生の頃に感じたお姉さんのイメージを、なぜ今になって思い出すのか最初は分からなかったが、八百屋での奥さんを見た時、その時のお姉さんのイメージがよみがえってきたのだ。
 異性への興味以前の問題のはずなのに、どうして奥さんを好きになったと感じたのか、しかも、女性への好みがまったく変わってしまったにもかかわらず、好きになった女性のイメージが、まるで初恋であったかも知れないと思えるような少年時代の思い出にあるからか、自分でもよく分からなかった。
 人を好きになるということは、自分のイメージとは違った感覚になるものだということは感じていた。しかし、最初は好きでも何でもないと思っていたはずの人がどんどん気になってきたり、一目惚れだというほど好きになったと感じていたのに、いつの間にか別の人を意識していたりと、自分でもよく分からない。後者のように。好きになった人をそのつもりで見ていると、他に気になる人が現れると、簡単に意識が上書きされてしまうということを思い知るための意識だったのではないかと思うほど、普段から自分に対して過剰とも言えるほどの意識を持っているのかも知れないと感じていた。
 氷室は知らなかったが、奥さんは教団を憎んでいた。
「仕事だからしょうがないので相手をしているけど、あなたが教団の人間である以上、私の中であなたの存在なんてこれっぽっちもない」
 と、もし告白でもしていれば、言われたに違いない。
 実際に氷室は、このセリフを言われる夢を見たことがあった。
「まさかこんな最悪の夢を見るなんて」
 と、感じていた。
作品名:自殺を誘発する無為 作家名:森本晃次