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自殺を誘発する無為

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 しかし、彼らが知っているのはそこまでで、どこの八百屋なのかということを教えてもらい、とりあえず、教団から聴ける話はそこまでと思い、犯行現場を見にいった。
 そこでは鑑識の調べが進められていて、話を聞いてみることにした。
「どうですか?」
 と聞くと、
「死亡したのは、胸に刺さっているナイフの傷口からの出血多量によるショック死ですね。死亡推定時刻は死後六時間から八時間というところですね。だから、今が八時前くらいですので、深夜であることに間違いはないと思います。ただ、もう一つですが、何か睡眠薬か何かを服用しているようにも見えるんで、眠らせておいて殺したんでしょうね。そうじゃあければ、殺された時に声を発しなかった理由も分からないでしょうから、そういう意味では辻褄は合っていると思いますね」
 と白衣を着た監察医がそういった。
「なるほど、よく分かりました。後は、実際の司法解剖の後の資料をよろしくお願いしますね」
 と辰巳刑事はそう言って、とりあえず、現場での話は、後で報告を受ければいいと思い、署の方に戻った。
 署に戻れば、捜査本部ができていて、いつものメンバーが集まっていた。門倉刑事に清水刑事、こういう捜査ではいつものメンバーであった。
 署に帰った時には、捜査本部は、慌ただしかった。
「辰巳君。朝からご苦労様」
 と、辰巳刑事を見つけた清水刑事はねぎらうように言った。
「いいえ、大丈夫です。教団の方で話を聞いてきましたが、分かったこととしては、被害者が誰かということくらいで、ほぼ何も分かりませんでした」
 というと、
「被害者の話は聞いたが、一介の八百屋の主婦が、信者でもないということなのに、どうして深夜、あの施設の中で死体となって発見されなければいけなかったのかという意味で、まずは何も分かっていないということだよね?」
 と清水刑事が言った。
「そうなんですよ。なぜ被害者がその場所にいたのかということが一番の謎なんじゃないでしょうか?」
 というと、
「そうなんですよ。これは誰に訊いてもよく分からないということでした。やはりこの件に関しては教団側の人に訊くよりも、被害者側の環境から迫らないと分からないかも知れないですね」
 と辰巳刑事が言った。
「ということは、被害者の家庭である八百屋に当たってみるしかないよな。今のところ殺害現場としての教団側しか見ていないからだからな」
 と清水刑事は言った。
 そのうちに鑑識からの報告が入り、最初に聴いた情報から、それほど増えたものはなかった。
 念のためにということになるが、やはり睡眠薬のようなものを服用はしていたようで、そのせいなのか、争った跡もないという、たしかにあの場所で争った跡もなかったことから、もし、睡眠薬の話がなければ、
「殺害現場は別だったのでは?」
 という疑問も浮かんでくる。
 この疑問は解消されたわけではないが、その理由は、胸を刺されて死んでいるわりに、血液の量が比較的少なかったような気がした。
 死因は鑑識通りの、
「出血多量によるショック死」
 には変わりなかった。
 それであれば、いくら胸にナイフが刺さったままといっても。まわり全体に円形になるくらいの血液が流れていても不思議はなかったのに、身体の下になった部分でほとんどの血が流れた跡が終わっている感じだった。死亡してから発見されるまでに六時間以上経過しているとはいえ、ほぼ血液は凝固していた。それからも、出血は最初だけで、すぐに止まったということを示しているようだった。
 司法解剖以外のこととしては、指紋の採取が行われたようで、気になるのは、あのあたりに被害者の指紋が残っていないことであった。
「部屋の入るノブにもついていないし、襖のように並行に開ける扉にもついていませんでした」
「じゃあ、どこに指紋が残っているんだい?」
「それが、指紋がどこからも検出できなかったんですよ」
「じゃあ、誰かが拭き取ったということかい?」
「それもないと思います。他の人の指紋は多数発見できたので、拭き取ったとはいうことはありえません。何しろ死亡したのが深夜で、いつの間に入ってきたのか誰も知らないということは、ここに他の人、たぶん犯人でしょうが、それ以外の人がいたということは考えられないですからね」
 と、清水刑事の話に辰巳刑事が答えた。
 そうやって考えると、本当になぜ彼女が殺されたのかということよりも、なぜあの場所だったのかという方が、疑問としては深いような気がした。
 少しして、辰巳刑事が急に変なことを言い出した。
「私は宗教団体というものをあまり詳しくはないですが、人が殺されるような事件があったりすると、偏見があるせいか、宗教団体すべての人が絡んで、事件を引き起こしているような錯覚に陥ることがあるんです。本当に凝り固まった偏見なんですけどね」
 それを聞いて、
「それは私も思っていましたね。特に数十年前のテロのような団体を見てきたりすると、余計にそうです。それに宗教団体と称してお金を騙し取るような団体も多く、それを見ていると、偏見にならない方がおかしいと思うんですよね」
 と清水刑事が言った。
 もちろん、今は偏見ではなく、冷静な目で見ているのであろうが、やはり相手が宗教団体というと、微妙にやりにくいのは分かってくる。
 特に宗教団体ともなると、どうしても秘密主義であることから、警察の力が介入できない。何しろ、
「信仰の自由」
 というのは、憲法で定められている権利だからだ。
 それを持ち出されると、さすがに警察とはいえ、必要以上に捜査に支障をきたしてしまうだろう。そう思うと、捜査に行き詰った自分が、呪縛を受けているように思えてならないのだ。
 清水刑事も今までに何度も同じ経験をして、事件が解決しても、どこか煮え切らない気持ちになったりしたものだった。
「でも、さすがに教団が集団で殺人を行うなどという発想はあまりにも奇抜な気がしますね。集団での殺人というと、昔の探偵小説などにあった閉鎖された山間の村などで、よそ者が入ってきたことを理由に、氏神様の恨みを買ったなどという因縁を吹っ掛けられての殺人だったりがありましたが、今のしかもリアルな世界では考えられないことですよね。何と言っても、架空の話であり、それこそ封建的な話になりますからね」
 と辰巳刑事がいうと、清水刑事が反応した。
「封建というと、あの宗教団体には封建という言葉がついているんだよな?」
 と言った。
「ええ、宗教団体というとそれだけで封建的なというイメージがあるんでしょうが、どうしてその二つが結び付くんですかね?」
 と辰巳刑事がいうと、
「封建的というのは、土着民と領主との関係と言えば一番いいのだろうが、基本的には、土地を領主から保証してもらっている代わりに、年貢を納める。そして、他の国から責められないようにするために、責められた時、領民は領地を守るために、石高に見合った兵を出す。そのケースバイケースの主従関係のことを言うんだよ。宗教団体も同じような教祖と信者の関係なのではないかな?」
 と清水刑事が答えた。
作品名:自殺を誘発する無為 作家名:森本晃次